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砂の王国と黒髪の少女  作者: ヒジリ
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突然の嫁入り

誤字、脱字等ございましたらお知らせ頂けると幸いです。

のんびりまったりですので軽い感じで流してくれると嬉しいです。

残酷描写やR15は念のため付けさせていただきました。

砂の国リングレンド。

周りを枯れた砂の大地と切り立った山々に囲まれたこの国をそう呼ぶ。

いくつかの街が転々と存在しているわけではなく、ぐるりと囲まれた山々は遠目から見ても青々と緑を茂らせているというのにそのリングランドの土地に入ったが最後、その緑を見ることなくどこまでも続く荒野が広がっている。

不自然なくらいくっきりと分かれて緑の砂の大地で分かれているからこそ、国境の意味もあり役に立つといえばそうなのだろう。おかげで他国からくる商人達は国境の境をこれまで一度だって間違ったことはないし、これからもきっとそれは変わらない。その王国は本当に砂と土の大地しかない広い中に存在感だけは無駄にある。


「…生涯変わらぬ愛を誓いますか?」

「誓いません」


高い石の壁に囲まれた王国の中の一角、小さなその場所は協会と呼ばれていて、小さな子供から老人まで休みの日には露天まで出る賑わいを見せるその場所は今は時間帯のせいなのか静まり返っていた。

だからこそ教会にいる白いローブをまとった神父らしき初老の男性の声と、一方白いウエディングドレスに身を包んだ彼女の声はよく響く。


「生涯変わらぬ愛を…」

「…誓えません」


先程から何度もそんなやりとりをしている二人は、別に壊れているわけでもなんでもない。

何度も辛抱強く誓いの言葉を応えさせようと繰り返している神父と、それにひたすら抗う花嫁の攻防である。


「だいたいなんで顔も見たことない相手に変わらぬ愛を誓わないといけないのか?ねえ、そこ間違ってるでしょ…だいたいねえ、時間も場所も指定しておいて、肝心の花婿がいないってどういうことなのこれ!!」


「…生涯変わらぬ愛を誓いますか?」


花嫁の悪態も何のその、神父はひたすら呪文のようにそれを繰り返してくる。思わず唸ってしまいそうになりながら、それでも断固として彼女は誓わない!と宣言した。


頭では理解している。このままずっとこのやりとりをしていても不毛なだけで実際には誓わないといくら言葉にしても、最終は誓う、と言葉にしなければならない事を。

それでも悔しいじゃないか、と小さく口にする花嫁の言葉に神父は少し困ったように眉を顰めた。それを見た彼女は小さく笑みを浮かべると、誓う、と言葉にした。


「…貴女は…リーナ・クレインはセイクリッド・フォン・ファーブルに生涯変わらぬ愛を誓いますか?」

「…はい、誓います」


それはもうやけくそのような諦めに似た声色で発せられた。実に二時間以上もここで神父と不毛なやり取りをしていたのだ。若干の疲れもある。


「それでは指輪の交換を…」


誰と誰がするんだよ、とつっこみが入れられそうなタイミングでもあるのだが、小さな銀細工の箱に入っていたシンプルな銀の指輪は迷うことなく神父の手によって彼女の指にはめられることになり、ため息をついたリーナと呼ばれた花嫁はとてつもなく嫌な顔をした。


「これで終わりかしら…」

「…はい…本来ならここで…」

「や…もういいわ、疲れたし…なんていうか、もう…本当に疲れたの」

「…リーナ…」

「神父さんが悪いわけじゃないってわかってるし、困らせたかったわけでもないの…ただ、ただちょーっと、いや、かなり理不尽だなって思っただけよ」


彼女は改めて自分の服装を鑑みた。砂の国では珍しい真っ白なウエディングドレス、この先これからもう一生着ないであろうと思われるそれは自分の旦那になる人に見られることもなく処分されるのか…そう思うと不憫になってきたこのドレスをまじまじと見つめたあと先ほど指にはめられた指輪に目を向ける。


「私には一生縁がないものと思ってたものばかりね」

「…似合っているよ」

「ありがとう、たとえ嘘でも嬉しいわ…行かなくちゃね、今までお世話になりました」


殊勝な態度は諦めと疲れが入ったものが混ざっていて神父もさすがに罪悪感を感じざるを得ない。けれどもそれでもこの街にいるよりは、きっとずっといいはずだ、と自分に言い聞かせて神父は無理やり笑を作ると本来ならばそれは花婿がするであろうと思われるエスコートを神父がし、花嫁の手を取ると簡素な作りの神殿の扉を開けた。


「…もう真夜中ね」

「そうだなあ…もう、日付が変わる頃かもしれない」


いつもなら露店や小さな子ども達がはしゃぎ回る教会前の広いスペースも今は閑散としていて、天上から降り注ぐ月の光が優しくあたりを照らしている。


「「お迎えにあがりました」」


不意に聞こえた声にリーナが首を巡らせると、白いフードを目深にかぶった二人の人物が真ん中にこの国ではよく移動に使われる動物を携えて佇んでいた。


「神父様、私逝きますね」

「何か不穏な響きが含まれているのは気のせいか?」


リーナにとってはこれから向かうところは死地に近いと言ってもいい、だからこそ逝く、なのだ、とあえて彼女は口にせず、少しだけ名残惜しそうに神父の手を少しだけ強く握り返したあと手を離すと白いフードの二人の方へと歩く。


そっと差し出された手を取ると、思いのほか小さい手にリーナが首を傾げそうになるも、すぐに動物の背中に乗せられて歩き出した。


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