声のはなし
前にセイちゃんから、タマネギの刻み方を教わるのに、手元の動画を撮った。
それを再生して、見ていると、
「俺の声、こんな?……キモ。音消せよ」
と、言われてビックリした。
「カッコいいじゃん。低くて」
「いかにもな、キモいオッサン声で、聞きたくねぇ」
ドン引きしていた。
「そんなことないよ。世界一安心する声なんだけどな」
今度はセイちゃんが驚いたみたいだった。
でも、ちょっと、口許が緩んでる。嬉しそうだった。
セイちゃんはシャイで、引っ込み思案だけど、何かあると必ず俺に話してくる。
――男って、すぐ浮気するって言うけど。セイちゃんはしなさそう……されたら、ヤダなぁ。
俺も男だけど、セイちゃんより好きな人なんて、いないしなぁ――。
前に三個上の先輩に告られて、キスした気がする。あれは、浮気――?
でも、あの頃セイちゃんが俺のこと振り続けてたし、浮気じゃないか。
でもでも、セイちゃんがなんか、先輩とのキスを見て、リンゴジュースに八つ当りするくらい怒ってた気がする――。
その時は、セイちゃんが、先輩とのキスを泣いて怒ってくれたことが、嬉しかった――。
――懐かしい……。香坂先輩、今何してるんだろう。毎年年賀状だけはくれるんだよな。
そして、香坂先輩のお年玉年賀ハガキは、なぜか当たるから、まだ引出しの中にあったかも。
――全部まとめて捨てよう。
ぼんやりソファーで香坂先輩のことを考えてたら、セイちゃんに呼ばれた。
――寝たふりしよう……。
もう一度呼ばれる。
セイちゃんに名前を呼ばれるのも好き。
「なんだよ。寝てんじゃん――」
少しガッカリした声だ。昼ご飯の話だろうな。
――キスしてくれたら、起きるよ?
ワクワクして待ってたら、毛布をかけられ頭を撫でられた。目を開ける。
「あ、悪い……。寝てて良いよ」
セイちゃんは、文句を口にしてたのに謝ってくる。
「キスしてくれたら、起きるよ?」
「ずっと、寝てろ。……今日カレーで良いだろ?」
呆れてキッチンへ行ってしまった。
セイちゃんは照れ屋だから、捕まえるのが難しい。
起きて手伝おうかと思ったけど、止めた――。
カレーが出来て起こしに来た時に、
「仕方ねぇな……」
と言いながらキスしてくるのを待つためだ。
俺は、毛布を鼻まで引き上げて寝たふりを再開した。
しばらくすると、セイちゃんがまた俺を呼んだ。
俺は目を閉じ、セイちゃんの声が近づいてくるのを待ちかまえた――。




