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変な二人  作者: 八車 雀兄


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優真

 明日人(あしと)の幼馴染みに癖の強いのがいる。四歳年上の優真(ゆうま)だ――。



「えー。今から? 良いよ。セイちゃんいるけど平気? なら、おいでよ。うん。待ってるね」



 明日人は通話を切った。



「これから、優真(ゆうま)が来るって。店休みだから、夜まで遊ぼうって」



「え。アイツか――」



 優真は、咲希(さつき)の兄で、



 町内にある、新築移転されたばかりの診療所の一人息子だ。



 だが、水谷は優真が好きになれなかった。



 小学生の頃、明日人のことを無視したり、ちょっと態度に剣のある子供だった。


 なのに、明日人は優真に懐いていた。


 厳密に言えば、優真の祖母みーやんに明日人が懐いていた。



 そして、みーやんが亡くなった後に疎遠だった関係が、だんだん今のように落ち着いた幼馴染みになれたのだ。



「でもさ、アイツわかりやすくグレたじゃん? クスリとか、やってねぇよな?」



「セイちゃん、優真はそんな奴じゃないよ。俺の友達のこと、悪く言わないで」



 水谷は、保護者目線で優真と会うことに釘を刺した。



――えー。お前のこと、露骨に意地悪してたじゃん。俺が、アイツ好きになれないのに、なんでお前が優真のこと庇ってんだよ。



 インターフォンが鳴った。



「久しぶりー。セイちゃんいるけど、気にしなくて良いよ」



「ちわッス」



 デカイ。そして、チャラい。


 髪色もド派手、ルイヴィトンのモノグラムパーカー、香水の匂い、安全ピンのピアス、耳の真下に入った星型のタトゥー、どれも堅気の匂いを感じさせない。


 そんな優真に、見下ろされ挨拶された。



――思い出した。高ニまで、バスケやってたのに煙草が原因で停学だか、退学だかで、結構噂になったんだ。……えー。コイツと明日人が二人きり? ヤなんだけど、俺が。



 水谷は、コーヒーを二人分、自分が食べる用に買っておいたアルフォートを菓子入れへ雑に放りこんで持って行った。



 ドアをノックして様子を伺うと、明日人がドアを開けてにっこり笑った。



「折角だから、セイちゃんも話そ?」



――え。



「ゲームしようよ。昔みたいに、三人で」



   *



 という事情で水谷、明日人、優真で桃鉄を十年やることになった。


 桃鉄は身が入らない時ほど、買収が上手くいく。もう、百億円も資産が出来てしまった。スリの銀次も全く出てこない。



「優真、今日仕事休みなら、ご飯も食べてきなよ」



――え、俺が作るパターンだよな? ヤなんだけど……。



「アーシュが良くても、急にそーゆーの迷惑だろ? 外で食べようぜ?」



――えー。優真と二人きりで食べに行かせるのは、もっとヤなんだけど――。



「わかった。セイちゃん、優真と――」



「いや、家で食べてけよ? な?」



 水谷は作り笑顔になった。



「すみません。長居するつもりなかったのに――」



 優真の髪をかきあげる仕草に、夜の匂いを感じて水谷は居心地が悪かった。



――昔は優等生の眼鏡キャラだったのに、どこで、こんなキャラ変したんだ――もう、いかにも遊んでそうじゃん。



「優真くんは、今、仕事何してるの? アパレル系?」



 心の平静を保つため、無難な話を選んだつもりだった。



「いや、歌舞伎町でホストやってます。二年目なんで、駆け出しですけど――」



「へぇ……」



「――今度遊びに来てくださいよ」



――何て返事するのが正解? わっかんねぇ……。



「うん! 行こうよ、セイちゃん♪ 面白そー」



「普通に飲みに来てもらって良いんで。名刺渡しときますね」



「あ、へぇ。高いんじゃないの? 歌舞伎町かぁ。一度も行ったことないなぁ……」



 行くとも行かないとも返事出来ないまま、手渡された名刺に目を落とした。



――純? ああ、源氏名か。 将来医者になって、診療所継ぐかと思ったら、人生わからねぇな……。ホストなんて、人生で関わり持つことねぇと思ったのになぁ。



 名刺を見ながら、水谷が失礼千万なことを考えていると――、



「あの……誠司さんは、年下から告白されたら、どうします?」



――へ!?



 指が滑って、まめおにのキングボンビーが移ってきた。いきなり十億円が失くなった。



 明日人も驚いたように優真の顔を見つめた。



「一回り以上、年下から、告白されたら――引きます……よね?」



 チャラチャラした優真が、二十四歳の若者らしい質問をしてきたので、四十一歳の水谷は露骨に動揺した。



「え? でも、嬉しいと思うけどなー。 俺は、もう、オッサン過ぎて……いっ、言い寄られるとかは、ないと思うけど――」



 冷や汗が止まらない。



 養子の明日人と関係してることに気付かれたわけでもないのに、心がぞわぞわした。



「でも、職場で新米から、告られたら――困るだけですよね?」



「あ? 職場か。んー。それでも、悪い気持ちには、ならないかなぁ?――でも、今はコンプライアンスで、年下には接触しない方が良いって、言うのが共通認識だからなぁ。好意を伝えられても、返事は、出来ないかも……」



 動揺し過ぎて、空気を読めないマジレスをしてしまった。



「そうなんですか……?」



 優真のテンションが一気に落ちた。



「あれ? お客さんで年上の人がいるのか?」



「いや、代表のことが好きで――」



「そっかぁ……」



――!?



 水谷は答えた後に驚いた。



――代表??? 二年目ホストが、幹部に??? え。情報の整理がつかない……。どういう職場???



「年上好きになると辛いよね。言っても、言わなくても、恋愛の範疇外なの、判るし――」



 明日人は、目的の八戸駅に到着して、1億八千万円手に入れた。

 南部せんべい屋を全部買いながら、



「なんなら、年上の方は、こっちの気持ちに気がついて無いパターンすらあるよね?」



 と、だいぶ具体的な文句を言い出した。



「まぁ、代表からは完全に……対象外なのは――そう。間違いない……」



 言いながら、優真はヨギボーにゆっくり沈んだ。



「やっぱ。可能性ないよな――」



「好きって、言っちゃえば?」



――焚き付けるなよ。えー。俺、何て言うのが正解?



「優真の好きな人って、いくつくらい? カッコいい? 芸能人だと、誰に似てる?」



「年は――ハッキリ判んないけど、三十代後半」



「いいね」



――え。俺とそんな変わんないじゃん。生々しい。止めて?



「カッコいいし、厳しいんだけど、優しい」



「超いーじゃん!」



――指導してる方は、何とも思ってないから、それ。重い重い。



「芸能人に似てる? 若い頃の岡田准一……かな?」



「えー。最高じゃん!」



――うわ。なんか、この空気、無理……。



 水谷は、夕飯の支度を言い訳にしてゲームから離脱した。



   *



 翌日、水谷は明日人にねだられ歌舞伎町に連れていかれた。



 四階建ての雑居ビル一棟が、全部ホストクラブという建物。見上げた看板には、大きな写真パネルで優真など比べ物にならないほど、夜の匂いのする男達がカタログのように並んでいた。


 全員成人男性なので、水谷好みの男は一人もいない。



 『CLUB LUMIÈRE et NOIR』



――光なのか、闇なのか、わからねぇな。



 入り口で身分証の提示をしながら、水谷は頭を掻いた。



「凄いねー。天井も壁も、キラキラしてる」



――優真の店、いくらするんだ? うわ。金卸しといて良かった。



「ねぇねぇ。エレベーターは普通だね!」



「内装はいくらでも変えられるけど、エレベーターなんかは、工事できねぇんだろ。雑居ビルなんてそんなモンだろ」



――歌舞伎町のお上りさんかぁ。変な奴に何度も声かけられるし……帰りてぇ……。



 水谷は、明日人のぽやぽやした雰囲気が心配になってきた。


 店内に入ると、客もホストも全員がこちらを向いた。



――違う……。明日人が、めっちゃ見られてる……。



「あの、体験の方ですか?」



 内勤の黒服に聞かれたので、水谷が遮った。



「純の知合い。飲みに来ただけ」



「大変失礼しました。ご案内します」



「皆、服キメてるね。もっと、オシャレすれば良かったかもー?」



 明日人がニコニコしながら、優真に手を振った。



――顔面偏差値は、お前がトップだ。明日人と比較したら、イモしかいねぇよ。



 水谷は黒い優越感に浸りながら、機嫌の良い明日人を見つめた。



「初めまして。お兄さん、ホストだよね?」



「ただの大学生だよ。初回飲み放題。ビール二つ。煙草は吸わない」



 明日人に話しかけるホストの話を水谷は遮断しながら注文した。ただの嫌な客である。



 テーブルに座ったホスト達は、全員明日人を見ていた。女性客もホストが席を外すタイミングで、チラチラ見るほど、二人は浮いていた。



 優真が来ると、



「親同伴とか、アーシュらしいや」



 笑いながら慣れた手つきで、水割りを作った。



 三人で乾杯すると、小柄なイケメンがやって来た。


 名刺には


 『CLUB LUMIÈRE et NOIR代表 綾崎瑛士(あやさきえいと)


 と、書いてある。



 優真は背筋を伸ばした。



――え。ちっさ。でも、肌がめちゃくちゃキメ細かい。シミもホクロも無ぇ。レーザー治療でもしてるんだろうが、綺麗だな……。



 代表の綾崎は、水谷も一瞬目が吸い込まれるほど、煌煌(きらきら)しい青年だった。


 年齢不詳で、水谷よりずっと年下に見える。何より、少しも酒焼けしていない美声なのに驚いた。



「水谷さんは、どんなお仕事をされているんですか?」



 綾崎は唯一、最初に水谷へ声をかけてきた。



「システムエンジニアです」



「IT関係ですか。――内閣の新規AI計画、そろそろ現場に影響出てますか?」



――新聞やネットニュースで、どんな職種にも合わせた会話が出来るのか。代表クラスになるとそうなるのか?



 綾崎は有能だが威圧的ではない。さりげなく、話してる言葉の端々に知性が溢れている。



 見事に水谷の嫌いなタイプだった。だから、



「公共インフラについては、社外秘なんでね。

 民間ですけど――役所仕事はそんなにお話出来ることはありませんよ」



――客の力関係を判断して、俺に話しかけただけだ。初対面で職場の話をするほど、懇意にする義理はねぇ。



 振られた話題にも乗らず、塩対応で水割りを飲んだ。



「手堅いお仕事をされているんですね。良かったら、うちでエンジニア募集する際はヘッドハンティングさせてもらって良いですか?


 お連れの方も、キャストとして是非、入店していただきたい」



 どこまで本気かわからない常套句で、綾崎は微笑みながら、明日人を見た。



「十時には寝たいから無理ー。

 ホストって、朝まで働くから、皆、働き者ー!」



 酔った明日人は楽しそうに、優真の作ったハイボールを飲み干した。



「ここのお酒、ちょー美味しい! 良い匂いするー。えへへ♪」



 綾崎は、明日人の無邪気さに吹き出した。



「では、失礼します。ごゆっくり、お楽しみください」



 綾崎の背中を、優真は見つめた。



「代表が、素で笑ってるの初めて見た――」



「ちょーカッコ良かったね♪ サイン貰えば良かったー」



 その後、明日人は水谷の膝に頭をのせ、クダを巻き始めたので、延長無しで会計した。



――綾崎代表か。水商売でも、手堅いお仕事してるんだろうよ。歌舞伎町の店なんぞ、いつ潰れるか知らんけど。



 水谷は、負け惜しみのような気持ちで山手線で綾崎のことを反芻し、家に帰って、すぐに明日人へウコンを飲ませた。



 元々、飲み歩く習慣がないのに、いきなり二人でホストクラブに行くのは、かなり無理があった。



「セイちゃん、ホストクラブ楽しかったねー♪」



 ソファに座りながら、明日人は眠そうだ。



「そうか? 二人で一万は、高ぇよ。俺しか払ってねぇけど」



 優真の相談を聞いた流れで、連休ど真ん中に散財したのは痛かった。



――これなら、二人で焼肉屋にでも行けば良かった。二度と行くことはないな……。



 水谷は、心の中で文句ばかりだったが、



「でもさぁ――セイちゃんより、カッコいい人は、居なかったね……」



 酒で顔を赤くしながら、明日人は幸せそうに微笑んだ。

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