二十歳の集い
明日人が『二十歳の集い』から、帰ってきた。
「セイちゃん、お腹空いたー」
「成人しても、あんま、変わんねぇな」
水谷誠司は、苦笑いしながら明日人を出迎えた。
「そう?」
「誰か知合い来てたのか?」
「うん。咲希が振袖着てたよ。写真見る?」
「うわ。すげぇな。あんな小さかったのに……今、医大生だろ? 高嶺の花って感じだな」
「ホントだよねー。セイちゃんに会いたがってたよ」
「へぇ。――なんで?」
「セイちゃんが、初恋の人だからでしょ」
「へ?」
水谷はビックリした。
「え? 知らなかったの? 俺と咲希とで、セイちゃんの膝にどっちがのるか、毎回バトってたじゃん」
「全っ然、覚えてねぇ……」
あの頃は、自分のメンタルがぐちゃぐちゃなまま、明日人を引き取ったので、同級生達とのやり取りなどサッパリ忘れていた。
「えー。俺もライバル視してて、あんなにバチバチだったのに? セイちゃん、俺の周りの女子の初恋ドロボーだったのに、自覚なかったんだ」
両親より若い水谷が、焼き菓子や即席のオヤツを振る舞うので、女子達の間で高評価だっただけ――の話だ。
「知らねぇよ。なんだよ、それ」
――お前ら……。男を見る目、無さすぎだろ。
水谷は、振袖姿の咲希を少し心配してしまった。
「咲希たちと、遊びに行けば良かったのに。良いのか? こんなに早く帰ってきちまって」
交遊関係が広い明日人を気遣ったが、本音は帰ってきてくれて嬉しかった。
「えー。早くセイちゃんとご飯食べたかった」
明日人が嬉しいことばかり言う。
「ちょっと、早いけど……すき焼きにするか?」
「手伝うよ」
着替えた明日人がエプロンを着けて微笑んだ。
「酒、買ってきたけど、飲むか?」
「うん! 飲むー♪」
――なんか、凄い……背徳感が、ある気が……。
寒いので炬燵の上に卓上コンロを置いて、すき焼きを作った。
水谷は酒も煙草もやらない。
飲み仲間もいない。せいぜい、正月に父とコップ一杯飲むのが関の山だ。
でも、今日はワインや、清酒、ビール、カクテル、思いつく限りかごに入れて、買ってしまった。
――酔った明日人が、見たい……。
どんな風に変わるのか? 一番うかれてるのは、水谷の方だった。
「何から飲む?」
「ビールだねぇ。セイちゃんは?」
「同じでいいよ」
ビールで乾杯して、二人で飲む。
少し乾いた冬の空気が緩んだ気がした。
酒の飲み方は、正直言えばわからない。
――でも、明日人と一緒に覚えれば良いか。
水谷はハイボールを飲みながら、自分がハメを外し過ぎないように気をつけて飲んだ。
「まだ、飲める? 気分悪くないか?」
「うん。美味しいからね。……でも、酔ってきたっぽい」
ほろ酔いの明日人が肩に頭を預けながら、水谷を見つめた。
「セイちゃんと、二人でいれて嬉しい……」
炬燵の中で明日人が、手を握ってきた。
繋いだ手の甲を、優しく撫でてやると、
「育ててくれてありがとう、お父さん」
初めて父親扱いされて、水谷は理性が飛んだ。
*
翌朝、眠る明日人の隣で水谷は頭を抱えた。
――最低、最悪だ……。
酒の勢いで、ハメを外し過ぎた。
血は繋がってない。しかし、関係を問われれば、父子と、答える関係なのに。
――よりによって、初めて父と呼ばれた夜に……俺って奴は……。
水谷誠司は、明日人の昨夜の呼びかけに興奮したことを、激しく自己嫌悪した。




