銃声の夜
幽霊に下着を見られた――。
その恥ずかしさと屈辱感で、葵の頭はいっぱいだった。
クラスの噂話も陰口も耳に届かない。
胸の奥に燃えるような恥と怒りと戸惑いだけが残っていた。
放課後、チャイムと同時に飛び出し、結の家へ走った。
「学校で幽霊が……しかも下着を?」
話を聞いた結は、いつもの落ち着いた顔から一瞬本気で声を詰まらせた。
「見せられたんじゃなくて、見られたのね」
「う、うん……」
「…………最悪だね」
結の低い怒気に葵は姿勢を正す。
「よし、作戦会議だ」
二人はすぐにテーブルへ向かい、護符と古書が並ぶ。
⸻
■作戦1:話し合い
可能なら未練を聞き、成仏させる。
■作戦2:武力行使
悪霊化しているなら結が祓う。
■作戦3:封印
危険度が高ければ入れ物に封じる。
⸻
「……この三つで行こう」
結が静かに言い、葵の目を見つめる。
「葵、怖かったら言って。あなたの気持ちを優先する。」
「……大丈夫。やるよ」
葵の声は震えていたが、瞳は逃げていなかった。
夜の学校。
校庭は昼とは別世界だ。
街灯は弱く、風が砂をさらい、建物は巨大な亡霊のように闇へ溶けている。
グラウンドの中心に立ち、二人は霊を待つ。
一時間――。
風の音だけ。
体育館の鉄骨が軋むたび、葵は肩を震わせた。
「現れないね……そろそろ一時間くらい待ったかな?」
スマホへ指を伸ばした瞬間だった。
――ふわっ。
スカートが、めくられる感覚。
「えっ……?」
振り返ると――
例の子供の幽霊がニヤニヤ笑ってスカートをつまんでいた。
「ま、また!? このっ!」
葵は本気で振り払う。
だが手は霊体をすり抜けるだけ。
子供の幽霊はケタケタと声を上げ、葵の羞恥心で腹を抱えるほど笑い、煙のように消えた。
すぐに――数メートル先に再び姿を現す。
今度は葵と結を両手で指さしながら、腹を抱えて笑い転げている。
「……ふざけてるわね、完全に」
結が低く呟く。
彼女には霊体は“影”ほどしか見えない。
だがふざけた態度は十分伝わっていた。
結は影へ向かい、静かに語りかける。
「私たちはあなたと話し合いに来たの。
……できれば、成仏してほしい」
その言葉が、空気を変えた。
笑っていた子供の影が動きを止める。
表情。
雰囲気。
温度。
すべてが変わった。
影が、伸びる。
闇が巻き戻るように姿を変える。
子供の幽霊は一瞬で“青年の兵士”の姿へ変貌した。
軍服。
軍帽。
そして――古びた歩兵銃。
「……っ!」
青年の霊は無言で銃口を結へ向ける。
引き金にかかる指。
動けない。
空気が固まる。
――パンッ!!
乾いた銃声が夜気を裂いた。
葵は叫ぶ。
「結さん!!」




