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見えてしまった世界 ―母の死から始まる霊視録―  作者: あーる


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5/6

銃声の夜

幽霊に下着を見られた――。


 その恥ずかしさと屈辱感で、葵の頭はいっぱいだった。

 クラスの噂話も陰口も耳に届かない。

 胸の奥に燃えるような恥と怒りと戸惑いだけが残っていた。


 放課後、チャイムと同時に飛び出し、結の家へ走った。



「学校で幽霊が……しかも下着を?」


 話を聞いた結は、いつもの落ち着いた顔から一瞬本気で声を詰まらせた。


「見せられたんじゃなくて、見られたのね」


「う、うん……」


「…………最悪だね」


 結の低い怒気に葵は姿勢を正す。


「よし、作戦会議だ」


 二人はすぐにテーブルへ向かい、護符と古書が並ぶ。



■作戦1:話し合い


可能なら未練を聞き、成仏させる。


■作戦2:武力行使


悪霊化しているなら結が祓う。


■作戦3:封印


危険度が高ければ入れ物に封じる。



「……この三つで行こう」


 結が静かに言い、葵の目を見つめる。


「葵、怖かったら言って。あなたの気持ちを優先する。」


「……大丈夫。やるよ」


 葵の声は震えていたが、瞳は逃げていなかった。



 夜の学校。


 校庭は昼とは別世界だ。

 街灯は弱く、風が砂をさらい、建物は巨大な亡霊のように闇へ溶けている。


 グラウンドの中心に立ち、二人は霊を待つ。


 一時間――。


 風の音だけ。

 体育館の鉄骨が軋むたび、葵は肩を震わせた。


「現れないね……そろそろ一時間くらい待ったかな?」


 スマホへ指を伸ばした瞬間だった。


 ――ふわっ。


 スカートが、めくられる感覚。


「えっ……?」


 振り返ると――


 例の子供の幽霊がニヤニヤ笑ってスカートをつまんでいた。


「ま、また!? このっ!」


 葵は本気で振り払う。

 だが手は霊体をすり抜けるだけ。


 子供の幽霊はケタケタと声を上げ、葵の羞恥心で腹を抱えるほど笑い、煙のように消えた。


 すぐに――数メートル先に再び姿を現す。

 今度は葵と結を両手で指さしながら、腹を抱えて笑い転げている。


「……ふざけてるわね、完全に」


 結が低く呟く。


 彼女には霊体は“影”ほどしか見えない。

 だがふざけた態度は十分伝わっていた。


 結は影へ向かい、静かに語りかける。


「私たちはあなたと話し合いに来たの。

 ……できれば、成仏してほしい」


 その言葉が、空気を変えた。


 笑っていた子供の影が動きを止める。


 表情。

 雰囲気。

 温度。


 すべてが変わった。


 影が、伸びる。

 闇が巻き戻るように姿を変える。


 子供の幽霊は一瞬で“青年の兵士”の姿へ変貌した。


 軍服。

 軍帽。

 そして――古びた歩兵銃。


「……っ!」


 青年の霊は無言で銃口を結へ向ける。


 引き金にかかる指。


 動けない。

 空気が固まる。


 ――パンッ!!


 乾いた銃声が夜気を裂いた。


 葵は叫ぶ。


「結さん!!」

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