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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

屍人の森の最終決戦

屍人の森の最終決戦

「皆も知っての通り、現在我がイヴロン家には食糧不足という大きな問題がある。先日のオーレイ家との戦で領地の大半が戦禍に覆われたことで備蓄していた食糧がまもなく底をつく。どうにかして皆で協力し来節までに食糧を蓄えよう!!」

来節からは特に天候が悪化しやすく行動がしにくくなる、その前にどうにかしないと。

イヴロン家は元々伯爵家だった。

今では落ちぶれた貧乏男爵家だ。

理由先先代(おじいちゃん)が戦争中に敵の黒魔術により傀儡と化し味方の兵士たちを殺戮したこと。

しかも先先代は高い魔法の才があり、"魔皇ヴォルドの再来"と謳われるほどだった。

魔皇ヴォルドとはエールマティ帝国の……いや大陸の歴史において唯一全ての魔法を極めそして一人でこのマティアル大陸の半分を支配していた伝説の魔法使いにして皇帝のことだ。

先先代を止めてくれたのは別大陸の"勇者"と呼ばれていた人だそうだ。

皇帝は先先代が帝国に多大な貢献をしたことを考慮してイヴロン家を男爵位に降爵させた。

元々イヴロン家は多くの魔法使いを輩出していたことから"魔人の楽園"と呼ばれ尊敬の眼差しが向けられていた。

だが今は恐怖と嫌悪の眼差しが向けられることが多い。

先先代から時が経ったのも関係してなのか私の代では先代(お父さん)から聞いた話よりマシにはなっている。

そして私たちが食糧の確保を決意した時屋敷に早馬が届いた。

「ちょっと行ってくる」

私は皆にそう言い残し使者の元へ向かった。

「お伝えします……皇帝陛下が崩御なされました。そしてザール殿下がお次の皇帝と成られるとのことです。……それから今から話すことはイヴロンの皆様にとっては酷な話です。心して聞いてください」

「勿体ぶらなくていい……早く頼む」

「はい……それではザール陛下より言伝です『今日から俺が皇帝としてやっていくのにお前らイヴロン家は邪魔なんだよ。だから家を潰し粛清ためにすでに軍をイヴロン領に向かわせてある。せいぜい死なないように注意することだな、わーはっはっはっ!!』と。申し訳ありません、私にはお伝えすることしか出来ず。ザール陛下はまもなくイヴロン領北西に位置する"屍人の(しびとのもり)"に到着するとのことです。ザール陛下が動かしている軍に所属している兄からの話なので情報は確かかと。それでは失礼致します」

「……はあ、どうして今このタイミングで!!」

私が使者を見送った後叫ぶと弟のマルクが心配そうに扉を開けた。

「エミル姉さん大丈夫? 普段出さないような声出してたけど」

「ちょっと、いやだいぶ面倒なことになってて」

……そういえばオーレイ家は当主が息子に代替わりしたって報告があったな。

報告見た感じだと、確かあの親父よりはマトモで話の通じるやつで"風見鶏"の呼ばれ方をどうにかするために動いてるって……だったら協力仰ぐか

あの家のせいで食糧不足になったのは事実そして大切な民が死んだのも。

だがあの戦はオーレイ家の親父のしたこと……そう割り切って動くしか領民が助かる道はない。

あのザールの軍がここまですぐ来られたってことはガルテン家もミーバル家も敵だ。

あいつら『あなたにもしもがある前に助けてあげるから安心なさい』とか言っておきながらザールを素通りさせてんじゃねえかよ!!

まずは領民を受け入れてもらえるかどうかだ。

"屍人の森"付近の住民を避難させる

すぅ

「おい、デュラム仕事だ!!」

ガシャンガシャンガシャン

「おっ、お呼びでしょうかエミル様!!」

「……呼んだぞ。呼んだけど、今日はなんでそんな重装備してんの!? いつも身軽な装備してるじゃん!!」

「いや〜つい先程までこの装備で転がりながら『ダルマさんが転んだ!!』って遊んでまして」

「遊ぶのはいいけど、装備を大切にしろ!!」

「冗談はさておき、本題をお聞かせ願おうかエミル様」

「冗談だったんかい、まあいいや。前回の戦でデュラムが討ち取った相手いるだろ」

「フィルメス殿ですね」

「そうだ、今回はそのフィルメスの息子……現オーレイ当主に頼みがあって」

「それで頼みとは?」

「なぜこのタイミングでと思うかもしれんがザールが皇帝になってこのイヴロン家が邪魔なんだと、それで潰すために軍を"屍人の森"動かした……だってさ。それで領民をオーレイ領で一時的にでも匿ってもらえないか頼みたいんだ」

「……すでに軍は屍人の森にいるのですか?」

「早馬によるとそうらしい」

「ということはガルテン領とミーバル領素通りですか……皇帝の命令となれば素通りになるのも分かりますが、あの嫌われ者のザール殿下が皇帝に……ですか、もはや帝国に明日はないでしょうね」

「でしょ、どうせ他国に戦争ふっかけて殺されるのがオチだろうね……今はそれより領民のことだ。デュラムは屍人の森付近の住民を護衛してくれ。お前の部下には屍人の森以外の住民を避難させてほしい。私はオーレイ家に話をつけてくる。デュラムたちのことを信頼してるから任せられるんだから、頼んだよ」

「了解致しましたこのデュラム、エミル様のご期待に応えてみせましょう」

そして私はオーレイ家に伝書鳩で手紙を送った。

……まあ転移魔法で行った方が速いんだけど、流石に何の連絡もなしに会いに行くのはダメだろ。

さて鳩が帰ってくるまで"あいつら"に文句を言いに行くとするかね

"思念転移"

シュゥゥン

「ねえミーバル伯……私たちザール陛下の軍をエミルちゃんのところに行かせちゃいましたけど、エミルちゃん怒ってないかしら」

「仕方がないだろ、あのザールに逆らったらどうなるかぐらいガルテン公も知ってるおるだろ」

「ねえねえお二人さん……私もその話に混ぜて欲しいな」

「「この声はっ!!」」

「エミル=グリスフォン=イヴロンですけど、先ほどあんたらが話したな!!」

「だからごめんなさいってエミルちゃん!!」

「そっそうだぞ、私たちだって自領を護るのが手一杯なんだ、ザールに逆らったら領民が殺されてしまう!!」

「それは分かってる、だから仕方ないとは思うけど……だけどこっちなんて戦終えたばかりで食糧がないって時にあんのザールのバカが我が家が邪魔だから潰すとか言って軍を動かされたんだぞ!! せめて領民を避難させた後に攻めてくれよ。そ・れ・で、二人に頼みがある!! 聞いてくれればザールの弟の第二皇子のベルメイを皇帝にしてやる。あいつの方がザールよりマシだから」

「それは嬉しいけど……まさかザール陛下を殺せって言わないわよね」

「それは言わない……ただ、ザールも背後から"盗賊"に襲われたらさぞかし驚くだろうなぁ」

「分かったぞガルテン公!! 私たちにザールを襲えって言ってるんだ……はぁぁぁ、私たちに襲えっていうのか!?」

「それは部下でも、実際に盗賊を雇ってもいい。やり方は好きにしてくれて構わない、その代わりやってくれればベルメイを皇帝にすることを約束する」

「そういうことなら……分かったわ、協力する。それとさっきは本当にごめんなさいねエミルちゃん」

「私も協力する、ザールのやつよりはベルメイ皇子の方が帝国にも未来が見えるからな」

「まあ、そういうことだから頼むね二人とも」

思念転移

「成長したわねエミルちゃん」

「そうだな……さてと私たちも罪滅ぼし……と言えるかわからぬが張りきってやるとするか」

「ええ、そうね」

バサバサバサ

「伝書鳩か? ……!? これはすぐにオルソン様に報告しなければ!!」


さてもうそろそろ鳩もついた頃かな

シュン!!

「クルックー」

「よしよし良い子だ。ありがとな」

我が家の伝書鳩には手紙を届け終えたら私の元へ転移する仕掛けを施してある。

本当は行きの時も転移させたかったが、それをしたら鳩の身体が保たないことは前の子で分かった。

あの子には悪いことをした。

さってとデュラムの様子でも見に行くか

「あの木の近くだけで九…………十三人か、問題なし!!」

「おーいデュラム調子どうだ」

「ウギャアアァァ!! なっ、なんだエミル様でしたか、脅かさないでくださいよ」

「……!! 敵襲、敵襲〜!!」

「バレたね、ごめんデュラム」

「謝るなら一緒に戦ってくださいよエミル様!!」

「分かってるって、背中は預けたからデュラム」

「任せてください。エミル様に仇なすものはこの"風魔の(ふうまのつるぎ)"が蹴散らします!!」


「この声まさか……おいカーディル伯この森にイヴロンの連中が来ているか確認してこい!!」

「了解致しました。…………チッ、クソガキが運良玉座に座れたからっていい気になるなよ」

「おい、聞こえているぞ。カーディル伯にはこの戦が終わったら褒美をやろう……"粛清"という名の褒美をなぁ……それとこれは決定事項だ」

「そっそれだけはおやめください陛下!! どうか家族だけは見逃してください、私はどうなっても構いません!!」

「そうか、そうか"私はどうなっても構わない"か、分かった見逃してやろう」

「陛下の寛大な御心に感謝…………」

「勘違いするな、見逃すのはお前だけだ。お前の目の前で家族を粛清する、お前はその光景をじっくりと眺めることだな!!」

「冗談……ですよね陛下? 冗談だと言ってください!!」

「そうだなぁ、今回の働き次第では粛清はなくしてやろう」

「その言葉は……本当なんですね」

「ああ本当だとも」

「分かりましたそれでは行ってまいります」

五分後

「なあデュラムここの兵士たちなんだか様子がおかしくないか!!」

「ええ、目が血走っただけじゃなく『自分の身体のことなどどうなってもいい』まるでそう言っているかのように突っ込んできます!!」

「ザールのことだ、何か弱みを握って脅したんじゃないかっ!!」

「そうかもしれません……斬っても斬ってもキリがない」

ガサガサ

「見つけましたよイヴロンッ!! 我が命に代えても絶対に貴様を討つ!!」

「エミル様……あなたは早くザールのところへ!!」

「分かった……だったらせめてド派手に向かう!!」

"雷帝氷罹(らいていひょうり)"!!

ゴゴゴゴゴ……ドゴン!!

デュラムまたあとで絶対会おう

「貴様よくイヴロンを!!」

「私は主を逃しただけ……よそ見をするなお前の相手はこの私だ!!」

「もういい、イヴロンを殺す前に貴様を殺す!!」


「ふっはははは本当あいつ本当に働き次第で粛清をなくすとか思ってんだろうな、なくすわけないだろ!!」

「おっ、あんたがザールってやつか……皇帝なんだってな、金目の物よこせ!!」

「うるせぇんだよカスが!!」

ドスン!!

「なっ、当たらねえだと!?」

「こっちはあんたと違って毎日死合ってんだよ!! そんな鈍い攻撃当たるかよ!!」

バサッバサッ

「見つけたわザール陛下よ!! 今度こそちゃんと約束は守るわよエミルちゃん…………ガルテン龍騎兵、あの坊ちゃんに本物の戦場ってものを教えてあげなさい!!」

『うぉーーー!!』

「ガルテン……貴様裏切ったのか!!」

「裏切った? 失礼ね……私はそもそもあなたを信じてないし忠誠を誓ってないわよ。あなたは勝手にショックでも受けてたらいいんじゃない? ミーバル伯、こっちの準備万全よ!!」

「そう急かすなガルテン公。よっこいしょ……準備はよろしいか皆の衆、自らを皇帝と称し帝国を荒らす賊を討ち倒し、帝国の未来を我等が手で掴み取るのだ!! 帰ったら皆で宴会じゃぞ全て私の奢りだ!!」

『飲むぞぉぉぉぉ!!』

「ミーバル……貴様もか!! 貴様の家も家族も何もかもを俺の皇帝の権限で握り潰してやるぞ!!」

「ザールよ、あなたは父親から何を学んだ、人間の壊し方か、それとも生かし方……他にも数えきれぬほど教えてもらったであろう!!」

「んなもん知るか!! 俺は皇帝なんだ、貴様らゴミがどれだけ集まろうが俺は勝つんだよ!!」

「もうそろそろかしらね」

「何よそ見してんだよ俺を見ろ!!」

「あら、ごめんなさい当たってあげようかと思ったのだけれど余りにも遅すぎてつい避けてしまったわ」

「いちいち間に触るなぁ貴様らは!!」

スタッ!!

「ごめん時間通りってわけには行かなかった二人とも」

「別にいいわよエミルちゃん……私最近遊べてなかったからもう少し遊びたい気分なの」

「それならデュラムを助けに行ってもらいたい。さっき魔法を使った場所の近くにいると思うから」

「分かったわ。先に行ってるわよミーバル伯」

「ああ行ってこい……それじゃ私はこの戦場の駆け抜けるとするか!!」

「貴様らぁぁ俺をおちょくるのもいい加減にしろ!! もう貴様らがどう命乞いをしようが許さねえ!!」

「私たちが命乞い? 面白くもない冗談を言わないで。私たちは自分のためだけに戦ってるわけじゃないそれぞれの"想い"を胸に戦ってる。戦うってことはそういうことなのよ!!」

「五月蝿え……五月蝿えんだよ!! 貴様らは俺の駒だろうが!! 俺に指図するなぁぁぁぁ!!」

七分後

パカラッパカラッ

「遅くなってすみませんエミルさん……自領での盗賊退治に時間がかかってしまいまして」

「別にいいって退治は出来たんでしょ……あとはこいつを倒すだけ!!」

「ほんとウゼェんだよ貴様らぁぁぁ!! まとめて殺してやる!! オラッ!!」

「そうはさせません!!」

ザンッ!!

「ガハッ!! この俺が……貴様ら……ご……と……」

バタン

「無事ですかエミル様!!」

「…………デュラムこそ無事で良かった!!」

「ガルテン公が助けに来てくださったおかげです」

「いやいや、あなたこそものすごく強かったわよ。本当一騎当千の活躍だったわよ、本当エミルちゃんはこんな従者がいてくれるなんて幸せ者ね」

「…………私のこと忘れてないか?」

「忘れるわけないでしょミーバル伯!! ねえ久しぶりにまた遊ばない? あなたまだまだ衰えてなかったのね驚いたわよ」

バン!!

「背中を叩くでないぞ、老体に響くであろうガルテン公よ!!」

「僕はこのことをリシュテル様に報告してきます。我がオーレイ領にはまだ食糧がございますので、イヴロン領にも渡したいと思います。

父さんが原因での食糧不足……僕に出来ることがありましたら協力したい思いますので頼ってください!! それでは」

「また頼るときは連絡する!!」

「それじゃあ私もそろそろ帰るとするわね、エミルちゃん……私にも頼ってね。全力で協力するから、本当よ。バイバイ」

「残るは私だけか……私もそろそろ帰るとするよ……ちょっと休憩してから。……あぁ腰が、もう少し鍛錬しておけば」

「デュラム、私たちも帰ろっか」

「はい、エミル様」

これは後に"屍人の森の最終決戦"と呼ばれることになる戦いの記録である。


おしまい

見つけて読んでいただきありがとうございます!!

イヴロンという単語だけ浮かんできてなんか貴族みたいと思ったらこれが書けました

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