他部署と営業部 その3
(だ、誰なんだろう……?)
鋭い眼光の男性はともかく。
細目の男性は、瞳が見えていないというのに、視線に圧を感じる。
それらに負けた司は、つばを飲むしか出来ない。
「稲実部長、平田くんをこれと呼ぶのはやめてください。黒尾部長も、圧をかけないでください」
司を背後に、貫田部長が二人に面と向かい合う。
そして、ニ対一でしばらく見合った後。
「おや、それは失礼。しかし……我々に挨拶したっていいでしょうに」
「……それとも、獣相手に挨拶するのは嫌か?」
「そういうことを言っているんじゃ――」
「い、いえ。失礼しました。営業部の平田 司です。よろしくお願い致します」
なんとか挨拶を言って、しっかりと一礼する。そのまま、頭を数秒ほど下げていると、
「……ま、それなりですか」
「修業者には、お似合いだな」
(しゅぎょうしゃ……?)
疑問を浮かべながら、司は頭を上げる。
すると、目の前にいた貫田部長が、いつの間にか司の隣に立っていた。
司の背中に、右手を回している。
「平田くんに挨拶させて。自分たちはしないんでしょうか?」
右の眉を上げ、正面の二人を交互に見る貫田部長。
「失礼、失礼。では、私から。人事部長の稲実です」
ドアを押さえたまま、細目の男性がやや大袈裟な動きで、空いている右手を胸に当てる。
「総務部長の黒尾だ」
稲実部長に続くように、眼光鋭いまま男性も名乗った。
「これで満足でしょうか? 貫田部長」
「それはこちらの言い分です、稲実部長」
見下ろす稲実部長と、見下ろされている貫田部長。互いに逸らすことなく、視線をぶつけている。
「……平田くんを送ってきます。すぐ戻るので、当番の押しつけは程々に」
視線を外さず、貫田部長は司を階段の一段目へと促す。
「そうですか。では、帰りをお待ちしています、貫田部長」
仰々しい言い方と共に、稲実部長がドアを閉めた。
「行こうか、平田くん」
無言のまま階段を下り切り、営業部に続くドア前まで来たところで。
「悪いね。いがみ合いを見せてしまって」
と言いつつも、貫田部長が司の方を向かないので、表情は見えない。
「いえ……あの、ひとつ質問してもいいでしょうか?」
「答えられる範囲になるけど、いいかな?」
司の方を向いた貫田部長の目元は、稲実部長と対峙していた時と違い、いつもの柔らかい雰囲気の垂れ目だ。
「その、黒尾部長が言っていた“しゅぎょうしゃ”とは、どういう意味になるんですか?」
すると貫田部長は「あぁ」と呟いて、
「修業者は、他の部署が営業部を指して言うんだ。営業部は、変身薬を飲まないと人の姿になれないから」
「他部署の方々は、薬が要らないんですか?」
てっきり、とくつみしょで働く動物は全員が変身薬を飲むものだと思い込んでいた司は、自分の口から出た驚きを抑えられなかった。
慌てて口元を手で押さえるが、遅い。
しかし、貫田部長はそれを気に留める風でもなく。
「そうだね。けれど、その違いは人に近いところで働くか、上に近いところで働くかなんだけども……さぁ、午後も仕事を頑張って。天原くんには、後で顔を合わせた時にお礼を言うから」
言いながら、貫田部長がドアを開けた。
それに甘えて、司はドアを通る。
「会議は、早く終わらせるつもりだから。それは皆に伝えておいて」
「はい。必ず伝えます」
次回その4は、また来週をお休みして4月3日(金)16時10分に更新の予定になります。




