他部署と営業部 その1
開いていただき、ありがとうございます。
今更かもしれませんが、今回から会話文と地の文の行間を空けています。
投稿済みの話も、追々やっていきますので、よろしくお願いします。
「とくつみしょのご利用、ありがとうございました。またのご利用、お待ちしております。では、失礼いたします」
司は頭を上げ、ドアを閉める。
ドアが閉まったその瞬間、髪の毛をぐしゃぐしゃにされた。
「し、柴山先輩。まだ依頼者の家の前です」
「いやぁ、なかなか様になってきたなと思ってな。さ、帰るぞ」
鼻歌を歌い、柴山が先を行く。
その後を、司は手で軽く髪を整えながら早足で追いかける。
「にしても、だ。暑くなくなってきたとはいえ、あんなに伸び放題の草、ひとりでむしりたくないよな」
「そうですね」
今日の依頼は、雑草に埋もれた庭の除草作業。
異例の暑さにより、こまめにむしれなかった結果だと依頼者は言っていた。
「新入りは、作業服はあんまり持ってないのか? 今日の恰好、着古しの服だろ」
柴山が言うように、今の司が着ているのは、擦れて膝の色が薄くなっているチノパンツと、襟がよれ気味の長袖と半袖Tシャツの重ね着。
いつもスーツを着ている司だったが、今日の仕事内容には合わないとのことで、急遽用意できたのが、今の服だ。
「はい。動きやすく汚れていい服が、これしか無かったので」
対して、柴山は見慣れてきたツナギ姿。
「必要な書類を出せば、とくつみしょがツナギ買ってくれる。これからは、それ使えばいい」
着ているツナギを指でつまみ、「これもそれだ」と柴山が言う。
「徳を積んだ分でもらえる給料とは違って、必要な物なら買ってくれるんだから、いいよな……どうした、そんな青い顔して」
「司くんのお給料?」
とくつみしょに帰って早々、柴山に促され、隣のデスクにいる天原に尋ねてみる。
黒石は、外回りで不在だ。
「はい。徳は、見返りを求めた時点で徳じゃなくなるんです。なのに、依頼料やお給料っていう見返りがあったら、徳にならないんじゃないかと思いまして」
「そう、なの? うーん……あ、部長。そこのところってどうなってるんですか?」
ちょうど、どこかから戻って来た貫田部長に、天原が尋ねる。
「いったい、なんの話だい?」
「実は……」
司が事の顛末を説明すると、貫田部長は、
「うん。それは、徳を積むことに執着しなければいいんだよ」
考え込むことも無く、あっさりと答えた。
「えっと、それは、どういう……?」
よく飲みこめず、司は説明を求める。
「とくつみしょが言う“徳”は、手助けをした副産物という扱いなんだ。そして依頼料は、依頼に割いた時間と労力に対する単なる対価。徳も対価も、それが主軸ではなく。主軸は、手助けをすること」
言いながら、貫田部長は鉛筆を持ち、紙に何かを書き始める。
「つまり……」
少し、書くことに集中した貫田部長が、書いた紙を上げて見せた。
しかし、紙の上で動くミミズが重なったような字体に、思わず司は眉を寄せる。
辛うじて読めるのは、左上に大きく書かれた、おそらく「徳」の字のみ。
「部長、相変わらずの字ですね」
「見慣れた俺たちはともかく。新入りは、読めないだろ?」
柴山の問いかけに、司はどう答えたものかと迷う。
するとその間に、貫田部長がひとつ咳払いして。
「なにが言いたいかと言うとね。徳は、あくまで副産物。それを忘れさえしなければ、大丈夫ってことだよ」
せっかく書いた紙をくしゃりと丸め、デスクの隅に置く。
「貫田部長。もし、僕が徳を積むことに執着してしまったら、どうなるんですか……?」
「もし、それに目が眩むようなら」
ふいに言葉を切り、微笑む貫田部長。
そして、微笑んだまま司の前へやってきて、その肩を叩いた。
「さ、お昼だ。そろそろ黒石くんも戻ってくるだろうし。お弁当を取ってこないとね」
振り向き、ドアへ向かっていく貫田部長。
「俺、手伝います」
貫田部長に続き、柴山がドアの向こうへ消えた頃。
「司くん。よかったね、目が眩んでなくて」
「え?」
天原が立ち上がり、部長たちが通ったドアを見つめる。
「さっきの部長、目が笑ってなかったから。仮に目が眩むようなことになれば、容赦ないでしょうね」
容赦ない。
その言葉に、無意識に司は自分の首に右手を添える。
「ま、すぐに目が眩むような人なら、そもそも採用されてないから。大丈夫よ」
「黒石、ただいま帰りましたー」
「おかえりなさい、彩」
そこで話は終わりのようだった。
司は部長たちが通っていったドアに目をやり、添えた右手で首を擦った。
次回その2は、二週間後、3月6日(金)の予定になります。
時間はいつも通り、16時10分になりますので、よろしくお願いします。




