キラめく瞳は、なにを見て その4
ゴム手袋を着けた指先に力をこめ、そーっと切れ目を入れていく。そして、切れ目を入れた銀色の袋から中身を出し、ファイルの小さなフィルムに入れていく。
「やっぱり、新入りくんは仕事がいいね。まだまだあるから、よろしく」
「は、はい……」
黒石の部屋。
そこで司は、アイドルグループのランダムなカードを開封しては、ファイリングする作業をしていた。
(この作業、天原先輩がよかったんじゃないだろうか)
そう思いつつも、司は手を動かす。
一方の黒石は、座った状態で段ボールから他のグッズや、司が触っている物と同じ銀色の小さな袋を出している。
「あたし、部長に保護されたカラスなの」
唐突な黒石の告白に、司は面食らう。
「……部長って貫田部長、ですか?」
なるべく表に驚きが出ないよう、平静を装って返すと、黒石から「そう」と返ってきた。
「縄張り争いに負けて、道に落ちて。そこに、子どもとかそれより大きい人が来て石を投げられてた。反撃なんて出来ないから、ただ鳴くばっかりで」
その石で、羽は折れて飛べないし。
淡々と言う黒石の目は、段ボールに向いている。
「もうダメかなって頃、部長が拾ってくれた。その縁で、とくつみしょで働くようになったの」
ずっと手を動かしながら、黒石は話を続ける。
「……そんなひどい事をされたのに、人間を恨んだりしなかったんですか?」
司が手を止めて尋ねると、黒石は首を左右に小さく振った。
「恨むも何も、人が生きてるから都会のカラスは生きてられるのよ? ケガしたカラスに石を投げるような人たちは恨むけど、それ以外を恨む理由は無いから」
言いながら、空になった段ボールを畳む。
そして、そこでやっと黒石は司を見た。
「だけど、人は中身を見たらサイテーなの。そういう生き物」
司を見る、黒石の黒い瞳。
それが、揺らぐ。
「そう、思ってたんだけどね」
その目を伏せて、膝に置いた手を見つめる。
「新入りくん見てたら、わからなくなってきて」
見つめる指先を遊ばせ、黒石は言う。
「僕……ですか?」
「ほら、とくつみしょは基本、動物が変身薬で人の姿になってるだけだから。中身……考え方なんかの根っこは、動物のまま。人よりも本能に素直って言うのかな」
言葉を切り、また司を見る。
「けど、新入りくんは生まれながらの人でしょ。あたしたち動物と違う考え方や感じ方をしてる。それを見てると、あたしが知ってる人の事って少ないのかなって……でも、あたしがされた事がサイテーなのに変わり無いし」
徐々にボリュームが小さくなっていく、黒石の声。同時に、目も伏せられていく。
「……って、なに言ってんだろね、あたし」
呟いて、黒石が背を向ける。
そのまま畳んだ段ボールを重ね始めた。
黙々と作業する小さな背を、司が見ていると、
「新入りくん、手が止まってる」
司の方を見向きもせずに、黒石から指摘された。
「は、はい」
すぐに、司は止めていた手を動かす。
(僕に、なにか出来るのかな……)
「今夜は、ありがとうね。今度なにかお礼するから」
「いえ。夕飯を頂いたので。これで充分です」
司の右手には、コンビニのレジ袋。その中は、おにぎり二つとミニサラダが入っていた。
「あの……黒石先輩」
「なに?」
黒石が、司の目に視線を合わせてくる。
「話してくれて、ありがとうございました。その、人についてのこと」
「そ……そんな大したことじゃないし? 忘れていいから」
そう言って、黒石は視線をそらす。
「失礼します。おやすみなさい」
軽く頭を下げ、司は外に出る。
「……ありがとうね」
ドアの隙間から漏れたそれは、聞こえなかった振りをした。
第八話の投稿が、こちらの諸事情により少し不透明です。
早ければ、開始が来週20日(金)になります。
遅くても、その翌週には投稿を始めたい……と思っています。
時刻はいつも通り、どの日になろうと16時10分です。
よろしくお願いします。




