キラめく瞳は、なにを見て その3
開いてくださって、ありがとうございます。
「なんで、放っておかなかったの。あの息なら助からない方が高いのに」
誰もいない動物病院の待合室。静かな室内に、黒石の高めの声が響く。
「なんで……でしょうね」
「でしょうねって。そんな他人事みたいに」
黒石が座ったまま、投げ出すように足を前へ伸ばす。
「どんなに心配したって、あたしたちは待つしか出来ないんだから。そんな顔しても損よ」
「そう、ですね」
答えながらも、司の顔から不安の色は消えない。
午後診療の終わり間際に駆け込み、病院にネコを渡してから、一時間以上。
音沙汰ない状況に、司の手のひらには汗がにじみ始めていた。
「新入りくんって、変なとこ諦め悪いよね。初めて会った時もそうだったけど」
木に登った迷子のネコ助けた時とか、柴山先輩の人探しで声かけを手伝った時とか。
そう黒石に言われても、司はピンと来なくて、ただ場を濁すように笑みを浮かべる。
「……あたし、とくつみしょに電話してくるから」
黒石が立ち上がり、外へ出て行く。
その自動ドアが閉まる音と同時に、待合室と診療室を繋ぐドアが開いた。そこから、白衣を着た女性が出てくる。
「平田さん」
オレンジ色の日差しが、藍色の空に押されている。
「すっかり遅くなったけど。門限は越えなさそうね」
「……」
伸びをしながら歩く黒石と対照的に、司は俯いて歩く。
「あのネコ、助かったんでしょ? その……三本足にはなるけど」
結論から言えば、たしかにネコの命は助かった。
しかし、ケガが一番ひどい左の後ろ足は助からず。
(もう少し、早く見つけてたら。それなら、足が無くなる事も無かったんだろうか)
そういう考えが、司の頭の中で渦巻く。
「新入りくん、余計なこと考えてるでしょ」
「よ、余計なことですか?」
思わず、司は隣の黒石を見る。
「やっと顔が上がった。あたしが電話から戻ってからずっと、下がったままだったから」
「す、すみません……」
司が謝ると、黒石は赤いインナーカラーを入れている髪に手櫛を入れて、
「早く帰ろう」
ヒールが鳴る間隔が、速くなる。
そんな黒石に置いて行かれないよう、司も足を速めた。
「おかえり! どうだった?」
とくつみしょに帰って一番にかけられたのは、天原のそんな言葉だった。
「助かりました。ただ……」
「ただ?」
天原が首を傾げる。
それでも、司は最後を口から出せない。
「三本足になるって話です」
なのに、あっさりと黒石が言ってしまった。
司より先に中へ入っていた黒石は、「暑かった~」と言いながら冷房の真下に立つ。
それを司は、何を言うことなく見つめた。
すると、視線に気づいた黒石が、司の方へ向かってきた。
「新入りくん。この後、仕事終わりは時間あるよね。ちょっと、付き合って」
次回「その4」は、2月13日(金)の16時10分に更新予定です。
延びるとすれば、その翌週20日(金)の16時10分になりますので、よろしくお願いいたします。




