お墓参り その2
6.5話、これにて完となります。
「えっと……」
司はすぐに記憶を辿るが、なかなかヒットしない。
「思い出せなくても、しかたないさ。なにせ、ここに住んでたのは十年も前だ。それに」
一度口を閉じた男性は、タオルを頭に巻き始め、後頭部でぎゅっと縛ったところで、
「シズ子さんが亡くなって、顔を合わせる間もなく都会の家に連れてかれたんだ。あのおっかない顔の父親、俺らと別れの挨拶もさせなかったからな」
男性の言うように、司は祖母の火葬が終わると共に車に乗せられ、ここを去っていた。
その時を思い出し、密かに司の胸が痛む。
「盆にここに来たってことは、シズ子さんの墓参りだろ? 俺が寺まで連れて行こう」
「えっ、いいんですか?」
名前も思い出せていないのに。
司がそう付け足す間も無く、男性はバンの後部ドアを開ける。
「いいって。俺も、墓参りに行くんだ。乗り合わせて行こう」
下手すれば宙に浮きそうなほどガタつく道を、バンは走っていく。
「悪いな。舗装してあるんだが、補修が間に合ってないんだ……着いたぞ」
車から降りて、男性が指して見せたのは急勾配の坂道。それはどう見ても車が通れる幅ではない。
「あれ上るぞ。なに、すぐだ」
小さな花束を持ち先に行く男性に、司と天原も続く。
男性が言ったように、坂道は五分とかからずに終わった。けれど、この炎天下に上れば、汗をかくのに充分だった。
止まらない汗を手で拭いながら、お寺の敷地に入る。
「ここで靴を脱ぐ。お堂は奥だ」
男性に案内されながら、司たちは奥へと入っていく。
「お盆なのに、静かなんですね」
「住職は、家を回ってるからな。それに今時、墓参りはそうそう来ない」
外よりかすかに冷えた空気の廊下を歩いていると、正面に金属製のドアが見えた。
「ここだ。中にスリッパがあるからな」
「僕が開けます」
司が押し戸のドアを開けると、冷房の風が流れ出てきた。
「ありがとうな」
男性と天原が入ったのを確認して、司も入る。
お堂の中には、石造りの土台に黒い棚のような物がずらりと並んでいた。棚の区切られた一つ一つに、黒塗りのお位牌とお菓子やお酒などのお供え物が置かれている。
「シズ子さんにお参りするなら、ここだ」
連れて行かれたのは、お堂の突き当たり、中央。
そこには、灰が入った大きな入れ物とその中に立つ線香。そして、仏像があった。
「作法、わかるか?」
「いえ」
「このろうそくに火をつけて……」
一通り習い終わると、男性は「俺は自分のとこだ」とどこかへ行ってしまった。
「お参り、しましょうか」
「はい」
火をつけた線香を立て、小さくりんを鳴らして手を合わせる。
(やっと。やっと、帰ってこられたよ)
司が顔を上げると、隣の天原はまだ手を合わせていた。
「……うん。あれ、司くん、待たせてたね」
「いえ……」
「今日は、ありがとうございました。おかげさまで、助かりました」
「いいって。久しぶりに司の顔が見れたしな」
ひらひらと、男性は手を振る。
「おっと、忘れるところだった」
そう言って男性は後部ドアを開け、座席の後ろに両腕を伸ばす。
「ほら、これ持っていきな。職場のみんなで食べるといい」
男性の腕で抱えているのは、なかなかに大きなスイカひと玉。
「持てるか」
渡される直前、その声かけに司の記憶が巻き戻される。
「ま、政俊さ……あっ!」
スイカの想定外の重さに、思わず声が出る。
「思い出したか。よしよし。次来た時は、みんな集めるからな。俺のお迎えが来る前に、早く来いよ」
スイカを司に持たせると、男性――政俊は運転席に乗りこんだ。
「じゃ、またな」
勢いよく発進するバンを、司はスイカを抱えて天原と共に見送る。
「スイカ、営業部だけで食べきれるかな」
「大きいですよね」
そんな雑談をベンチでしながら、なかなか来ない電車を待つ。
「あの、天原先輩」
「んー?」
「どうして、今日お墓参りに行こうって提案をしたんですか?」
すると、天原は空を見上げた。
釣られて、司も見上げる。
「私が、行きたかったの。大事なお孫さんをお預かりしてるのに、挨拶も無しはね」
失礼でしょ?
その言葉に天原を見れば、微笑んでいた。
予定が遅れなければ、来週23日(金)16時10分に、第七話を投稿開始できます。
遅れたとしても、その翌週30日(金)には投稿できるよう努めますので。
よろしくお願いいたします。




