探し人の手がかり その4
司はなんとか柴山に追いつき、同じ車両に乗りこむ。
満員に近いくらい人が乗っている車内で、柴山は話しかけてこない。
ただ、興奮しているのは、まばたきの少ない様子からよく伝わった。
そして柴山が降りたのは、とくつみしょの最寄り駅。
改札を出たところで、司は柴山の隣にまで並ぶ。
「どこに行くんですか?」
「黒石のところだ。ああいう情報は、キラキラする綺麗なもの好きなやつが一番詳しいんだ」
それだけ言うと、柴山は更に足を速める。
置いていかれないよう、司も速めた。
寮の三つの棟まで来たところで、柴山が真ん中の「ハ棟」へ向かう。そして、そのまま一階の102の前に立った。
「黒石! 急ぎだから、開けるぞ!」
「ちょっと! 柴山先輩、デリカシー!」
開けたドアから聞こえたのは、高い叫び声。
「黒石、入っていいか?」
「遅い!」
またもや聞こえてきた叫び声と共に、奥から飛んできたのは、黒い鳥。
「か、カラス?」
思わず開いた口を、急いで司は閉じる。
「もうっ! 今日は変身薬飲まないって決めてたのに。薬飲んで着替えるから、出てって!」
「わ、わかった、わかった!」
くちばしで突っつかれながら、柴山が外に出てくる。
「ドア閉めて!」
黒石の言うまま、司がドアを閉める。
「黒石先輩って……カラスなんですか?」
「知らなかったのか」
「はい……」
そのまま、ドア前で待つこと十分。
「どうぞ」
少しイラついた声色で、黒石がドアを開けた。
ボサついた髪に真っ黒のスウェットを着ているその姿は、かなり急いでくれたことがわかる。
「悪いな。邪魔する」
「お邪魔します」
ぺこりと頭を下げ、柴山と司は室内に入る。
「で。何の用ですか?」
奥の部屋まで入れる気は無いようで。
部屋に繋がるドアを塞ぐように、黒石がシンクにもたれて立つ。
「モデルの藤野カナトって、知ってるか?」
「知ってますけど……どうして、そんなこと」
「涼太の……俺の飼い主に繋がれるかもしれないんだ。そのカナトについて知ってること、教えてほしい」
頼む。
そう言って、柴山が深々と頭を下げた。
「ちょっ……! そんなことしなくても、教えまますから。奥にどうぞ」
黒石が、部屋に繋がるドアを開けて入る。それに柴山、司と続く。
「す、すごい……」
通された部屋の壁いっぱいに、たくさん貼られていたのは男性のポスター。それらに共通しているのは、方向性は違えど誰もが整った顔立ちをしているところだ。
「あんまり見ないで、新入りくん」
「す、すみません」
そう言われても、壁を見られないので、どこに視線をやっていいのかわからず。とりあえず、司は床を見ることにした。
「えっと、藤野カナトくんですよね。彼なら、この雑誌とあのファイルと……」
雑誌と、切り抜きが入っているらしいファイルとが、みるみる積みあがっていく。
「これだけありますけど。全部見ますか?」
「この中に、顔以外の情報ってどれくらいあるんだ?」
柴山の問いに、黒石が「ふぅ」と息をついた。
そして、
「藤野カナト。現役の学生モデル・4月7日生まれの二十歳。母親がマネージャーで、父親はごく普通のサラリーマン。血液――」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。その、カナトの家族って、両親だけ……なのか? 兄弟は?」
とめどなく流される情報を断ち切った柴山に、またも黒石がため息をつく。
「ファンの間でささやかれてる噂ですけど。兄がいるってのは」
「その兄貴が、飼い主かもしれないんだ」
「それなら、あたしが知らない範囲ですね。兄がいるらしいってこと以上の情報は、どこにも出てないので」
言い切った黒石に、柴山が口を閉じる。
それから、ほんの少しうつむいて考えていると思えば、すぐに黒石を見て、
「じゃあ、カナトが通ってる大学、わかるか?」
「わからないわけじゃないですけど……」
言いながら、黒石がスマホをオンにする。
「この大学です」
「写真、撮っていいか?」
柴山が、自分のスマホを出して黒石のスマホ画面を撮る。
「でも、大学なんて知って何を……まさか」
黒石の目が、大きく開く。
「あぁ。カナト本人に、直接聞く」
隣にいる司に見えた柴山のスマホ画面には、大学の最寄り駅らしい検索結果の画面。
「無理ですって! 彼、マネージャーである母親のガード固くて有名なんですよ? なにか別の――」
「んな悠長なこと出来るか!!」
空気が震えるような大声に、司と黒石は耳を手で塞ぐ。
「7年。7年探し続けて、やっと得られた大きな手がかりだ。今更、遠回りなんて出来ない」
そう言う柴山の目つきは、いつか司が見たときよりも険しかった。
第六話は、来週の28日(金)に投稿開始します。
時刻は、16時10分の予定です。
よろしくお願いします。




