探し人の手がかり その3
「すみません、この名前に心当たりありませんか?」
「小さいことでいいんです。なにか……!」
すれ違う人に声をかけては、断られる。
それを、場所を変えては繰り返す。何時間も、ずっと。
ときには、すっかり日が暮れてしまっても声をかけ続け、毎日クタクタになって寮へ帰る。
そんな日々を過ごすが、情報を何も得られないまま、日だけが過ぎていった。
「今日で、連休が終わるんですね……」
「早いよな……」
午後四時を過ぎた駅前。
時計台の足元で立つ、司と柴山に目を向ける人はいない。
誰もが、目的を果たそうと足早に動いている。
「昨日までに話しかけてくれたのは、警察官と勧誘と酔っ払いでしたね」
「そうだな……まぁ、想定内と言うか。いつものことだ」
紙を見ながら言う柴山の表情は、心なしか暗く見えた。
「……しかたない。あと一時間で、情報集めは終わりにするか」
「わかりました」
司が、ズボンのポケットから紙を出していると。
「あのー、お話し中すみません」
その声で顔を正面に向ければ、二人組の女性が立っていた。スーツケースを持つその様子から、旅行者のようだ。
その内の片方、ロングヘアの女性が柴山の持っている紙を指す。
「その名前、もしかしたら知ってるかもしれなくて」
「……ほ、ほんとか!?」
少し間を置いて前のめりになった柴山に、女性たちが目を見開く。
「あ、あの。詳しくお話、聞いてもいいですか?」
あと少しで女性にぶつかりそうになっている柴山の服を引っ張り、司が尋ねると、女性たちは目を合わせ、
「学生モデルの、藤野カナトって知ってますか?」
もう一人の、ショートヘアの女性に問われるが、首を傾げる柴山と司の様子から答えを見取ったようで。
「その紙の名前が、藤野カナトのお兄さんと同じなんです」
「涼太って名前なのか? その……モデルの兄貴の名前が」
「はい。でも、カナトがSNSにあげてた写真に映りこんでた情報で。それもすぐに削除されちゃったから、たまたま見れたファンの間で話題になってるだけで……」
交互に答えてくれていた女性たちの声が、小さくなっていく。
「ありがとうな! こんな大きい情報は、初めてだ!」
しかし、そんなことを気にする気配もない柴山は、満面の笑みを女性たちに向ける。
「お兄さんも、かっこいいですね。カナトの関係者ですか?」
「かもな。じゃ、俺らはこれで。本当に、ありがとう」
一礼して、柴山は駅の改札口へと向かっていく。
「あ、あの。ありがとうございました!」
司も女性たちに頭を下げてから、柴山を追いかけた。
次回「その4」は、11月21日(金)の16時10分に投稿予定です。




