探し人の手がかり その2
じりじりと照りつける太陽から逃れるようにして、司は本屋に入る。
ビル丸ごとが本屋の大型店舗なので、エスカレーターで一番上の階へ向かった。そのまま、そのフロアを一周する。
ときどき、惹かれた本を取ってみたり、開いて流し読みしてみたりしながら、レジのある一階まで到達する。
その頃には、両手で持つには少々不安定なほどの本を抱えていた。
(厳選しないと)
なんとか三冊にまで絞り、レジを通して外へ出る。
とたんに、司のお腹が空腹を知らせた。
(食べて帰ろう)
ピーク時を過ぎたチェーン店のカフェに入り、窓際のカウンター席で食事を済ませ、コーヒーを飲んでいると。
「柴山先輩?」
窓越しに、目の前を柴山が通っていった。
一瞬のことだったが、その横顔は汗で光っていた。
慌てて司はコーヒーを飲み干し、食器類を返却して、店を出る。
「たしか、こっちに……」
柴山が行った方へ急ぐ。
すると、深いグリーンのTシャツを背景に揺れる、黒髪のしっぽが見えた。
「柴山先輩」
そんなに大きな声を出せなかったにも関わらず、柴山が振り向いた。
「新入り?」
柴山が立ち止まったことで、司は追いつけた。
「どうしたんだよ、こんなとこで」
「近くの本屋さんに来てたんです。それより、柴山先輩。汗が……」
「汗? あぁ、ほんとだ」
今気づいたと言わんばかりに、柴山が服の袖で顔を拭う。
「お昼。食べられましたか?」
「昼? もうそんな時間か?」
それに答えるように、柴山のお腹が鳴る。
「オーケー、オーケー。財布、財布っと……げっ」
たちまち青ざめていく、柴山の顔。
「まさか、盗られ――」
「いや、持ってくるのから忘れただけだ。気にするな」
笑ってみせる柴山だが、どうしても気になる司は言ってしまう。
「でも、このあとも人探しをするんじゃ……?」
「そうだな。ま、一食くらい抜いてもいいだろ」
そう言い、「じゃあな」と別れようとする柴山のTシャツの裾を、司は掴む。
「おにぎり一つと水くらいしか出せませんが。僕が出すので」
「悪いな。出してもらって。今日、帰ったら返す」
「いいんです。僕が、出したかっただけなので」
司と柴山は、近くの駅前にあるレンガ造りの花壇ふちに座っていた。
「人探しは、どうですか?」
「進展無し。やっぱり、名前だけじゃ探すの難しいのかもな」
おにぎりを食べ終えた柴山が見せてくれたのは、A4サイズいっぱいに「藤野 涼太」という漢字名とその上に「ふじの りょうた」とルビが振られたコピー紙一枚。
その縁は擦り切れ、手垢なのか茶色く汚れている。
「俺の記憶と、寮に置いてる首輪の裏に書かれたこの名前。これだけが、手がかりなんだ」
柴山の言う首輪は、歓迎会で酔った柴山を寮に帰したときに司が見た、赤い首輪のことだろう。
「ごちそうさま。ありがとうな、新入り。おかげで、午後も元気に探せそうだ」
柴山は立ち上がり、水が入っていたペットボトルを潰す。
その背中は、まだ色が戻っていない。
「柴山先輩。僕が、お手伝いしていいですか?」
「手伝うって……探すのか? 新入りも?」
「はい。連休の間、特に用が無いですし。それに、一人より二人の方が探せる範囲が広がると思います」
言ってから、司は「出しゃばったかもしれない」と不安に襲われる。
そのまま、司が目を泳がせていると。
「いいのか? 休みの日に付き合わせて」
「……は、はいっ」
司が返事をすると、柴山がわずかに目を細めた。
「ありがとうな。じゃあ、これ。予備の紙」
ズボンのポケットから出された、四つ折りの紙。渡されたそれを開くと、柴山が見せてくれた紙と同じ物だった。
「よし。午後からは、午前と違うエリアを探す。行くぞ、新入り」
次回「その3」は、11月14日(金)の16時10分に投稿予定です。




