探し人の手がかり その1
「とくつみしょ」を読んでいただき、ありがとうございます。
後書きに、次回の更新に関してのお知らせを載せていますので、ご一読ください。
ごくりと、つばを飲む。
司の目の前、デスクで報告書を読む黒石から、目が離せない。
「新入りくん、報告書の要領が掴めてきたね」
「ありがとうございます、黒石先輩」
渡された報告書を受け取ってデスクに戻ると、勢いよくドアが開く音がした。
「竹内さんの依頼、終わりました! 山脇さんの依頼、行ってきます!」
大声が聞こえると同時に、ドアが閉まっていく。
「柴山先輩、ここ三日くらいすごく張り切ってますね」
「明日からゴールデンウィークだもの。済ませられる仕事は、済ませたいんじゃないかな。司くんは、連休なにかする?」
「僕は、特に……」
答えながら、手元の報告書を見つめる。
「家でゆっくりするのも、過ごし方のひとつよね」
天原の返答に、思わず司は手元から視線を移す。
(引かれない……?)
そういう反応しか知らない司には、それが新鮮で。ゆえに、面食らった。
しかし、そんな司の様子に天原は気づくことなく。
「そういえば。彩は、目当てのライブ当たったの?」
「CD先行で当たりましたよ! 明後日なんで、もう楽しみで……」
いつもの、少しつまらなさそうな雰囲気はどこへいったのか。
目を輝かせ、意気揚々と話す黒石に、またもや司は面食らう。
(黒石先輩、あんな顔するんだ)
そうして午後は、過ぎていき。
「俺、明日から早いんで、お先に。おつかれさまでした!」
終業の合図と共に、慌ただしく荷物をまとめて出ていく柴山。その背中に、まだ残っている全員が「おつかれさまでした」と声をかけた後。
「……柴山先輩、明日から旅行に行かれるんですか?」
「司くん、聞いてない? タロ、人探しするの。連休の間、ずっと」
「連休の間って……五日間以上もですか? 柴山先輩ひとりで」
つい言ってしまったその内容を、天原にうなずいて肯定される。
「よくやりますよね、柴山先輩。何年も前に自分を捨てた飼い主なんて、ほっとけばいいのに」
「捨てた? ……あ」
頬杖をついた黒石の言葉で、司は思い出す。
司が寮に引っ越した日。買い出しの帰りに柴山が言っていた。
(柴山先輩の唯一の家族って、飼い主のことだったんだ)
「ちょっとずつだけど、手がかりは集まってるみたいよ。タロが歩きまわって、飼い主さんが住んでたエリアは特定できたみたいだし。それでも、かなりの広さだけどね」
そう言って、天原がバッグを肩にかける。
「じゃ、私も帰ろうかな。おつかれさまでした」
「おつかれさまでした」
司が天原の姿を見送っていると。
「新入りくんも帰ったら? せっかくだし」
いつの間にか支度を終わらせていた黒石が、司の横を通っていた。
「はい。僕も、すぐに」
そう答えてから、司もバッグを開けた。
(読了……っと)
司は読み終わった本の裏表紙を閉じ、壁にもたれていた背を伸ばす。
腕時計を見れば、まだ午前十時を過ぎたばかり。
(目が覚めたから、起きてたけど。連休初日、早起きしすぎたかな)
スマホのカレンダーアプリを開く。日付しかない、真っ白な余白が連休明けまで続いている。
「……出かけてみよう」
玄関ドアの鍵を閉めていると、二つ左隣のドアも開いた。
出てきたのは、深いグリーンの半袖Tシャツとジーパン姿の柴山。
「新入りも、今から出かけるのか?」
「はい」
「そうか。出かけるにはいい天気だしな」
特に司の反応を待つわけでもなく、柴山は鍵を閉めて先に行く。
「……柴山先輩、何も持ってなかったな。今日、暑いって予報だけど」
ぽそりと呟いて、司も鍵を閉めた。
次回「その2」は、ちょっと更新日を変えて11月7日(金)の16時10分に予約投稿します。
試験的なものなので、元の土曜日に戻す可能性もありますが……少しだけ、お付き合いください。




