秘策 その4
「どうなってるんだ? って、大丈夫か、新入り!」
へなへなと座りこむ司を、柴山が脇に手を入れて支える。
「い、今なにが起こったんですか?」
「俺にもさっぱり……先輩だけだろうな、わかるのは」
柴山の声に視線を上げると、どこに隠れていたのか天原が出てきていた。
「うん、しっかり効いてるね」
満足そうに、天原がうなずく。
「いったい、どうなってるんですか?」
柴山に手伝ってもらって立った司が、天原に問う。
すると天原は「うーん……」と小さく唸り声を出してから、
「詳しくは言えないんだけど。ちょっとだけ言えるのは、あの人は一生、司くんを捜し続けるの。一生かかっても、見つけられないけどね」
「一生、見つけられない……?」
天原の説明をよく噛み砕けず、司の眉が少し寄る。
「私が言えるのは、これだけ。せっかく昼休みに外に出てるんだし、私は食べてから帰ろうかな。タロと司くんはどうする?」
小首を傾げる天原に、司は父とのことについてあれ以上に問いただせないことを察した。
「俺は、帰って弁当食べます」
「ぼ、僕も、そうします」
不透明な回答を渡された今の司に、外食したとて味を感じられる気がしなかった。
「そう。それなら、私が外で食べて帰りますって、部長に伝えてくれるかな?」
「わかりました。伝えておきます」
「じゃ、またあとでね」
そう言うと、天原は背を向け去っていった。
「立てるか? 新入り」
「は、はい。なんとか」
手を離す柴山に軽く頭を下げてから、司は自力で立つ。
まだ若干フラつくが、自力で歩けそうな気配にホッとする。
「その、なんだ。先輩は謎なところが多いんだ。先輩とは、それなりに長い付き合いがあるけど。俺、まだ先輩の正体、知らないし」
「えっ、そうなんですか?」
言ってから、そういえば司も柴山以外の正体を知らないことを思い出した。
「聞こうとすると、毎回はぐらかされるからな。もう聞かないことにした」
歩きだす柴山の後ろを、司はついて歩く。
「知らないのは俺だけじゃない。黒石もだ。部長は怪しいけど、探ってみてもわからなかったんだよな」
「それくらい、天原先輩の正体は秘密ってことですか?」
普段通りに歩けるようになってきた足で、司は柴山と並び、尋ねる。
「先輩自身が正体を言いたくないのか、言えないのか……そこもわからないけどな。でも、新入りが言うように秘密なのは確かだ」
そう答えた柴山が、空を見上げる。
釣られて司も見上げれば、青い空が見えた。
「……いつか、天原先輩の正体がわかる時があるんでしょうか」
見上げたまま、司は呟く。
「秘密にしたいことの一つや二つ、誰だってあるだろ。人も動物も関係なく」
その言葉に、司は上から隣へと顔を動かして、
「柴山先輩もあるんですか?」
すると、急に柴山が司の目の前に立ちふさがった。
「柴山先輩?」
必然的に立ち止まる司の顔に、柴山の顔がぐっと近づく。
「俺のは、まだ秘密だ」
言ってケラケラと笑いながら、柴山が先を行く。
「ま、待ってください」
司より大きな歩幅で歩く柴山を、司は追いかけた。
次回、第五話は11月1日(土)に投稿開始の予定です。




