秘策 その1
4話は全体的に短いです。
しかし、それなりに重要回……だと思います。
「父親って、そんなに過激なもの?」
黒石の無邪気な問いに、弁当のたくあんを掴もうとした司の箸が止まる。
それは、司の代わりにケガのことを天原がかいつまんで説明した後のこと。
視線を感じて司が顔を上げると、三人の顔が向いていた。
それに応えるため、司は箸を弁当の蓋に置く。
「……僕のところが、少し変わってるんです。育ててくれた祖母が亡くなった高校入学前まで、僕は両親の存在を忘れていましたから」
箸を取り、司は一口程度が残っていた弁当を空にする。それをビニール袋に入れ、口を強く結んだ。
「……にしても、だ。新入りの父親をどうにかしないと、外回りどころか外出自体も出来ないよな」
腕を組んだ柴山の発言に、全員がうつむく。
室内に漂う沈黙。
「すみません。僕が、もう少し強く父に言えたらよかったんです」
そんな空気に耐えられず、司の口から謝罪の言葉が出る。
「べつに、新入りだけが悪いわけじゃないだろ」
「珍しく、柴山先輩と意見が合いますね。それに、新入りくんは叩かれてケガしてるんだし。物理的には被害者になるんじゃない?」
黒石の言葉に、その隣にいる柴山がうなずく。
「被害、者……」
司が繰り返した、そのとき。
「あのね」
隣で発せられた声。
見れば、天原が椅子から立ち上がっていた。
「これに関しては、私に任せてくれないかな? ひとつ、策があるの」
そう言った天原は、自分のデスク周りの荷物をまとめ始める。
「あ、天原先輩、策って……?」
「秘密の策よ、司くん。私、一週間くらいお休みするから。タロ、それも含めてこの件を部長に話しておいて」
「は、はい」
「じゃあ、一週間後にね」
まとめた荷物を持ち、天原は階段へ出られるドアを開け、出て行った。
「天原くん、寮に帰っていったけど。なにかあったのかな?」
「部長。それが……」
天原と入れ替わるようにして会議から戻ってきた貫田部長に、柴山が説明する。
それを黙って聞く貫田部長は、柴山の説明を聞き終えた後に言った。
「それなら、天原くんがいない間の仕事はみんなで手分けしてやろう。平田くんは、天原くんが戻るまで、外出しない仕事を振るから」
「俺、外回り行ってきます!」
背もたれにかけていたジャケットを掴み、外出の準備を始める柴山。
そして、
「じゃあ、新入りくんは高梨さんへの報告書を書いてもらおうかな」
黒石が司のデスクまで移動してきて、言う。
「基礎は教えるから、まずは自分でやってみて。書けたら、まずあたしに見せてね」
「は、はい」
慌ただしくなってきた空気に飲まれ、司は反射的に返事をする。
「まずはね……」
すぐに始まった黒石の指導に置いていかれないよう、司はボールペンを出して言われることをメモ帳に書き留めていく。
(集中、集中……)
声に出さず、書き留めながら唱えるが。
(どうして、僕のことにここまでするんだろう)
それだけは、ずっと司の頭から離れなかった。
次回「秘策 その2」は10月11日(土)の15時10分に更新予定です。




