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第六話 決意か我がままか

 普段ならそれほど重苦しくないはずの部屋の空気がとても重い。オーレッドの執務室にマリアン、ウォルフ、エマが立っていた。マリアンの顔に憂色が浮かび、ウォルフは直立不動だが冷淡な顔をしている。その二人に挟まれたエマは張り詰めた顔で脱いだ三角帽と杖をしっかりと抱えていた。


 そんな三人と向かい合うように重厚な造りの執務机の後ろで、備え付けの椅子にオーレッドが腰掛けている。その表情は今朝とは違い、穏やかではあるがどこか不快そうな雰囲気を隠していなかった。そんな彼の視線も執務机の横にいる一人の中年のシスターへ向けられている。そのシスターがモノクル片手に、封がされた封筒を端から端までまじましと見つめていたかと思うとちらりエマの方を見た。目が合ったエマが思わずつばを飲み込む。


「―書類は全て本物ですね。彼女からも魔力探知ができるし。今のところ彼女の主張に嘘い偽りはないでしょう」


 自然な笑顔のシスターにエマが胸をなでおろすように息を吐く。それに釣られるようにマリアンも表情が緩んだが、ウォルフは視線こそエマに向けたものの相変わらず冷淡な顔のままだ。


「ありがとうシスター・ヘレン。ウォルフたちと話がしたい、彼女を連れて席を外してくれるか」


「わかりました。さ、行きましょ?」


 エマを気遣ってか、柔らかな表情になったオーレッドに応じてヘレンがエマに手紙を渡しながら彼女を連れ出しにかかる。その鮮やかな動きにエマが目をぱちくりさせた。


「え、あの。ちょっと…!?」


「あの二人なら大丈夫よ。それより魔法に心得があるもの同士、ちょっと話を聞かせてほしいの―」


 後半のヘレンの声がBGMと化しつつも、エマが連れ出され扉が閉まる音と共に執務室がより一層重い空気に包まれる。マリアンは平気そうな顔をしながらも、必死に脳をフル回転させた。これから始まるオーレッドとの交渉に応えられなければ、ここまでの努力が無駄になることくらいは把握しているからだ。


「さて、どうするつもりだ。マリアン?」


「も、もちろん。彼女を王都まで送り届けるつもりですが」


 十字架が描かれた執務机の上に肘をつき、組んだ両手に顔の下半分を埋めるように前のめりの姿勢になったオーレッドに対し、マリアンはしっかり胸を張り奇跡的に大きな言い淀みもなく言葉を吐き出した。


「本気か?」


「はい、人助けも神父の務めですから」


「それだけじゃないだろう、まだメイス(魔払いの杖)の件を気にしてるのか」


 オーレッドの言葉に思わずマリアンがムッする。それと共に頭の中から焦りや緊張が消え失せ、触れられたくない傷跡がじくじくとうずく感覚が湧いてくる。


「…ないと言えば嘘になります。この際、町の外で刺激を受ければ何か変わるのではと考えていますが」


 マリアンの声色が低くなり、相手によっては睨まれている感覚を覚える程度に眼光を鋭くしてオーレッドを見据えた。


「色々試したいんです。主が昇格への準備できていないというのなら、それが整うまで努力しなければ」


 きっぱり言い切ったマリアンを見てオーレッドが椅子の背もたれに体を預け、「止めても無駄か」とぽつり呟く。


「わかった」


 やれやれといった露骨な表情のオーレッドのその言葉に、マリアンが嬉しそうに目を輝かす。


「ただし、王都に向かうのは教会の仕事としてだぞ。手紙を届けてもらうからな」


「お任せを」


 マリアンが右手を自らの胸の上に置き小さくお辞儀する。それをウォルフが相変わらずの冷淡な顔でチラリと見た。


「それと、お目付け役も同行させる。くれぐも自重しろ」


「はい!」


 顔を上げたマリアンの顔は笑みが溢れんばかりだったが、それをしり目にウォルフが何かを察したようにため息をついた。


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