共に立ち向かえ
食事を終え、二人は柳から呼び出しを受ける。
再び訪れた署長室。そこには見慣れない二人がゲームをしながら盛り上がっていた。額を押さえながら深くため息をつく柳と寝そべりながら漫画を読んでいる深月。なんともカオスな状況だ。本当にここは警察署なのか疑ってしまう。
「あの…柳署長…一体これは…」
玲のか細い声に気づいた柳はゲームのコードを引き抜き、玲と創に向き直す。後ろから聞こえてくる罵倒も柳は一切気にしていないようだ。
「来たか。お前らに紹介しておきたい者がいる。これから共に戦う仲間だ。ほら、自己紹介しろ。」
鋭い視線を受け、ブツブツ言いながらも立ち上がり軽く頭を下げる。
「花木 渚と…」
「蚕で〜す!」
大袈裟に手を振る蚕を呆れた目で見つめる柳達。
玲と創は軽く微笑みながら深く頭を下げる。
「こいつらは双子なんだ。あまり似ていないが…やかましいところはそっくりだな。もう少し大人になってくれると助かるんだが。」
皮肉っぽく言う柳を無視して二人は再びゲームを始める。騒音とともに遠くから叫び声が響き、徐々に近づいてくる。
「ちょっと!俺の事忘れないでくださいよ〜…!」
誰かがバタバタと走ってきてはみんなの前で派手にコケる。いつものことなのだろうか。特に周りの反応はない。素早く立ち上がり柳に文句を言う彼の顔は落ち込んでいるように見える。酷い話だがどうやら忘れられていたらしい。
「いや、忘れていたわけではない。他の者に比べて夕陽くん、君は…」
「…個性がない、影が薄いって言いたいんでしょ…わかってますよ…はぁ…本当に酷い人達だ…」
夕陽と呼ばれた男性はとても悲しそうな顔で玲を見つめる。まるで慰めてくれと訴えているようだ。
戸惑いつつも何とか言葉をかける玲の口調はとても柔らかい。慰めの言葉を貰い徐々に顔色がよくなってくる男性は目を細めながら笑う。
「君は優しいな。あの人たちとは大違いだよ…。あ、そうだ。俺は上雲 夕陽。覚えやすい名前だろ?俺は主に戦闘のサポートをしているんだ。これからよろしくね。二人共。」
玲と創も自己紹介をし、場は暖かい雰囲気に包まれる。これからは七人で共にし、エラーに立ち向かうのだ。迫り来る不安を押しのけて玲は深呼吸する。
あと一週間。自分に出来ることはなんだろうか。
足でまといにはなりたくない。ただ無理をして迷惑もかけたくない。玲は署長室を抜け出し、訓練所に足を運ぶ。今の自分の力ではすぐに虫の息になってしまうだろう。錆びれた銃を片手に持ち再び練習を始める。
一日中訓練に没頭していた玲は疲れた体を壁に預ける。時計を見ると夕方を示している。
少しは上達しただろうか。玲の真面目な性格は時々無理を招く。創は玲を探しに訓練所を訪れ、冷たい缶コーヒーを差し出した。
「無理すんなよ。没頭できるのは良いことだと思うけど疲れた状態で訓練しても何も得ることはできないぞ。とにかく休め。体壊してからじゃ遅いんだからな。」
「…そうだね。創の言う通りだよ。コーヒーありがとう。美味しくいただくよ。」
「気にすんなって。ただ黙って飲めばいいんだ。」
玲の言葉に頷く創からはまだ心配が溢れていた。
玲はその心配に気づかないままそっと缶コーヒーに口をつける。甘いような、苦いような。ほっとする味に酔いしれながら、その日はゆっくり終わりを告げた。