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守りたいもののために

まだ早朝。玲はさよならも言わずに朝早くから家を出る。玄関のドアが閉まる微かな音に反応したゆらぎはそっと起き上がり玄関に足を運ぶ。しかし既に遅し。玲は行ってしまった後だ。

ため息をつきながらリビングの上に置かれた手紙を手に取りそっと微笑む。


「兄貴は本当に薄情なやつだな…まぁそんなところも好きだけど。」


ゆらぎの独り言が風に舞う頃、玲は電車に揺られ窓の外を見ながら考えに耽ける。

何も無かった日常が命をかける日常に変わる。それは今までのらりくらりと生きていた毎日が無くなると言うことだ。命が食われるかもしれない恐怖、家族を守りたい想い、感情が複雑に交差する。

本当に守れるのか。いや、守らなければいけないんだ。「街にエラーが起きる」「街がエラーによって壊されてしまう可能性がある」その事を知ってしまった以上、もう後戻りは出来ないだろう。


そうして気づけば目的の駅。玲は列車に背を向け足早に警察署に向かう。椅子だけが置いてある寂しげな会議室、流れる空気は心做しか重く感じる。


「よう。玲だったか?俺のこと覚えてるよな?」


椅子から立ち上がり馴れ馴れしく玲の肩を組む陽気な男。


「…創…だっけ。」


嬉しそうに何度も頷き、グッドポーズを向ける。

玲を椅子に座らせ自分も向かいに座りながらゆっくりと口を開く。


「昨日、署長が言ってた…なんだっけ。街にエラーがなんとか…ってやつ。あれなんなんだ?俺全然意味わかんなくて…教えてくれよ。」


「…まぁそうだよね。俺も父さんの日記帳で知ったから。ほら、これ。」


「なになに…」


真剣に読み始める創を横目にネックレスを弄ぶ。父の生きていた証を身に付けれるのはとても嬉しいことだ。しかしそれと同時に言い表せない喪失感が襲ってくる。父との思い出に浸っている中、創の困惑した声が耳に届く。


「…なぁ。読んでも全然わかんねぇわ。バグに殺されるってなんだよ…俺はこんなことしたくねぇ。こんなことするために警察官になった訳じゃないからな。」


創の言うことも一理ある。玲も創の立場であれば深く混乱するだろう。日記帳を返してもらいながら同情の眼差しを送る。


「…そうだろうな。しかし警察官にしかできない事だ。心から誇っていいことだぞ。」


いつからいたのだろうか柳が玲と創を見下ろしていた。

柳は椅子に座りながら落ち着いた様子で二人の目を深く見つめる。


「…無理意地はしない。辞めるなら辞めろ。命が惜しいならここから立ち去れ。いつ起こるかわからない大規模な事故を指を咥えて見ているがいい。…次はお前たちの大事な場所が事故現場になるかもな。思い出の場所、見慣れたショッピングモール…いや、大切な家族が暮らす家かもな。」


「柳署長…!そんなこと急に言われても…俺は死にたくありません…!ただ普通の警察官として…」


「…普通の警察官か…そうだな、申し訳ない。私が君たちの立場でも同じことを思うだろう。訳のわからないことを言われ、挙句の果てに命をかけて戦えなんて…同じような反応をするだろう。しかしこれを止めるのは私たち警察官にしかできない事だ。君たちには大切なものはあるか?その大切なものが明日消滅してしまうとしたら?…果たして今と同じことを言えるだろうか。」


「…それは…まぁ…嫌ですけど…」


創の消え入るような声が静寂に沈む。俯く彼の表情は複雑で染まっていた。


「…僕は戦う準備はできています。もちろん恐怖もありますが…知りながらも知らずふりして日常を生きるなら…大切なものを失う日が来るのを怯えて待つくらいなら…己の覚悟に賭けてみます。そのためにここにいますから。」


玲の断固とした意思が柳を貫く。そんな玲をかっこいいと思ったのか創も続けて言葉を吐き出す。

しかし声は微かに震えていた。


「わかったよ…やればいいんだろ…!やってやるよ。そのバグってやつにこの街を好き勝手にさせる訳にはいかねぇからな!そうだろ?相棒。」


創の言葉に頷く玲。柳はそんな二人と固く握手を交わす。その手には戦ってきた多くの証が深く刻み込まれていた。


「心から感謝する。君たちの命が消えぬよう最大限サポートをさせてもらう。気を抜くなよ、死ぬ姿は見たくないからな。怖いだろう、不安だろう。しかし恐れるな、逃亡するな。君たちは素晴らしき意思の持ち主だ。…この街を守るぞ。大切なものが明日も存在できるように。…準備はいいな?」



同時に頷く玲と創。 緊張が漂う会議室。



残酷な人生が今、開始する。


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