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父の見た景色を僕は知りたい

玲は幼い頃、警察官である父を失ってしまう。

遺体が見つからず行方不明として片付けられた事件だったが玲は亡くなったと確信していた。

父が常に持ち歩いていたボロボロの日記にそれは記されていた。


父がいなくなった1週間後。玲はかつて父が入り浸っていた書斎に足を踏み入れる。

汚れて埃を被った机にその日記帳が置かれていた。毎日持ち歩いていた日記はどうやらいなくなる前日に家に忘れたらしい。

ゆっくり開き、1行目の文をなぞりながらそっと読み上げる。


" 俺達が住んでいる街は雨が降るとエラーが起きるらしい。信じ難い話だ。"


街にエラーが起きる、意味不明な単語を見て首を傾げる。幼い玲は理解ができずに続けて文字を目で追う。


"確かに署長が言っていた通り、エラーが起きる日は必ず雨だ。現実は表、エラーの日は水たまりを通じて裏の街に行ける。何も変わらない、いつも住んでる街と同じなのに異なるその場所には"バグ"というものが現れ、暴走する。時間以内にバグをシャットダウンしないと街は危険にさらされ、現実世界に戻ったとき…エラーが起こった同じ場所で大規模な事故が起こってしまう。そうなる前にどうにかしないと…"


「裏の…街…?バグ…シャットダウン…」


"バグに殺されていく仲間たちを見るのは辛い。今回は大丈夫だろうか、次も誰か死ぬのだろうか。それは自分かもしれないな。しかし戦わなければこの街はエラーに耐えきれずに崩壊するだろう。そうなれば愛する家族がいなくなってしまう。危機を守れるのは、エラーを止められるのは…この街の警察官だけだ。それが俺たちの務め。己を犠牲にして戦う仲間に、そして自分に…心の底から敬意を。"


難しい文がぐるぐると頭の中を回り続ける。

夢の中の話だろうか。そう思うのも無理もない。

雨の日だろうが晴れの日だろうが何の変哲もない日常を過ごしてきた玲はここに書かれている文が不思議でたまらなかった。しかし計り知れない好奇心が玲の心を駆け巡る。


それから10年後。18歳になった玲は再び書斎に向かい、あの頃と同じまま置かれていた机を見下ろす。手を伸ばし引き出しを開け、古びた日記帳を持ち上げる彼の手は小刻みに震えていた。ゆっくりとページをめくり何度も何度も読み返す。この話が本当なら父はこのバグというものに殺されたのだろうか。ポケットに日記帳を入れ、父の遺影に向かい、線香を立てる。目を閉じ手を合わせる玲に煙が優しく纏う。


「…父さん。昔、父さんとよく行った遊園地で大規模な事故が起こったんだ。原因は不明だって。」


悲しそうな顔で短くなっていく線香をぼんやりと見つめもう一度日記帳を取り出す。


「…日記に書いてある"バグ"っていうやつが原因なのかな…。この話をしても誰も信じてくれなかった。母さんも、友達も。きっと父さんもそうだったんだろう。だから日記に記したんだって僕は思ってる。…でも僕は信じてるよ。」


長い間、壁に寄りかかっていた亀裂の入った鏡に映る玲はシワひとつ無いきっちりとしたスーツを着ている。



「…僕、警察官になったんだ。父さんみたいに強くないけど、僕も己を犠牲にして戦う覚悟は出来てる。父さんとの思い出をくれたこの街のために…家族を守るために。」


そっと立ち上がり玲は敬礼する。その姿は父親にそっくりだ。顔を上げた玲の目には強い決意が生まれている。




「いってきます。父さん。」

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