キレイなお姉さんは好きですか?キレイなお兄さんはどうですか?
『人は見た目じゃない』とか言うけど、嘘だよね?
私は、絶対に見た目重視派。
可愛いは正義だし、美人は存在が神だと思う。
私、七瀬ミナは声を大にして言いたい。
「キレイなお姉さんが大好きっ!」
でもね、残念ながら私は美人ではない。
なんて言うか普通だ。
何も特徴のないモブ顔女子である。
自分がモブ顔のせいで、ないモノを求めてしまうのか?原因は不明だが、とにかく昔から可愛い女の子が好きだった。
多分、幼稚園に入る前からだと思う。
可愛い子がいれば、とりあえず声をかける。
性格とかどうでも良い。
それはもう、見た目のみを重視した友人関係を築く。
中学の頃のあだ名は「ハーレム七瀬」だった。
モブ顔の私が、美人な女子達を引き連れて歩く様は、異様だったと思う。
特に、美人で気の強い女の子や可愛くてワガママ女の子は、同性から敵視されやすい。
そこで私の出番だ!
甘く優しく声をかける。
何でもワガママを聞いてあげる。
絶対に裏切らない一番の友人になるのだ。
いつもツンと澄ましているのに、私だけに向ける甘い笑顔とか、もう最高である。
そんな私の可愛い子猫ちゃん達も、高校生になると少しずつ離れていった。
だって、みんな可愛いのだ。
男子が何としても彼女に欲しいと願うのは当然の事だと思う。
そして、友情より愛情を選ぶのも仕方のない事だ。
合格した大学が、地元からだいぶ離れていた事もあり、七瀬ハーレムは完全に解散となった。
可愛い女の子達に囲まれる毎日。
ハーレムは最高だった。
本当に良い思い出だ。
この思い出を胸に大学生活を頑張っていこうと思う。
大学では寮に入る事になった。
親元を離れるのは初めてだけど、新たな子猫ちゃんとの出会いに心を踊らせながら新生活がスタートした。
「七瀬さん、だよね?」
校内を移動している時、めちゃくちゃ可愛い女の子に声をかけられた。
天使ですか?妖精ですか?
サラサラで艶やかな長い髪、色素が薄いのか目も髪も茶色で、透き通るような白い肌。
私の可愛い子ちゃんセンサーは最大値を振り切った。
「私、同じ小学校だったんだけど、覚えてる?」
え!同じ小学校?
こんな可愛い子を覚えてないはずないんだけど……
「小5の1年間しかいなかったから、覚えてないかな?」
んん?小5の1年間?
「あ!もしかして、ハルちゃん?」
「うん、そうだよ!久しぶりだね!」
彼女は、目を細めて女神のように微笑んだ。
そうだ!小田桐ハルちゃんだ!
今みたいに光り輝く美人って感じではなく、中性的な印象だったから、すぐ思い出せなかった。
当時は、髪も短くて服装も言葉使いも男の子っぽかった。
キレイな顔をしていたので、もちろん私は何度も声をかけたが、無口であまり喋らなかった気がする。
仲良くなりたいと思っていたのに、あっと言う間に引っ越してしまったのだ。
あの物静かでキレイな子が、こんなキラキラ美女になって戻ってくるなんて!
私は嬉しさのあまり胸が震えた。
もちろん、すぐに連絡先を交換した。
私の女の子と仲良くなるスキルは健在だった。
ハルは、長い手足に小さな顔。まるでモデルのような体型で、何と言うか美人すぎて近寄りがたい感じ。
でも、私に笑いかける顔はちょっと幼くなるとか、本当なんなの?天使かな?
甘えた声で「ミナ、お願い聞いて?」とか言ってくる。
可愛い!何でも全力で叶えてあげるけど?
私はハルを徹底的に甘やかした。
元々、友達が少ないハルは、私にべったりになった。
望むところだ!全力で受け止める!
そのうち、あの二人って女同士だけど付き合ってるの?みたいな噂が流れ始めた。
私は、可愛い女の子が大好きだけど恋愛の対象ではない。
初恋は、ロボットアニメのヒーローだったし、高校の時に同じ図書委員だった鈴木君をちょっと良いなと思っていた事もある。
でもね、もし神様に『美女とイケメン、どっちかあげるけど、どっちがいい?』って聞かれたら、迷わず美女をお願いします!と言うだろう。
そのくらい、可愛い女の子が好きなのだ。
特にハルは、とんでもなく可愛くって、ちょっと嫉妬深くて、私の事が大好きな女の子。
そんな可愛い子猫ちゃんを手放せるわけがない。
「ミナ!」
ハルは眉間にシワを寄せて私を睨む。
はい、可愛い!怒った顔も可愛いとか女神かな?
「どうしたの?ハル?」
私は、優しくなだめるように声をかける。
「他の子と仲良くしないでっ!」
何それ?可愛い!
「してないよ!ハルが一番大事だよ!ハルが一番可愛い!」
そう言って、私よりも少し高い位置にあるハルの頭を撫でる。
ハルは、少し頬を染めて目を潤ませる。
「本当に?絶対?」
「うん、ハルが一番大切だよ」
優しく抱きしめると、ハルは幸せそうに笑う。
もう、可愛いが止まらない。
こんな可愛い子の束縛とか、何のご褒美?
そんな可愛くて可愛すぎるハルだが、やはり女子ウケはあまり良く無い。
美人って何故か女子に嫌われるよね。
「性格悪そう」とか「男に媚び売ってる」とか陰でヒソヒソ言われている。
こんなに可愛いハルなので、そりゃ男にモテる。
普通に接してるだけなのに惚れられて告られまくる。
それで女子に嫌われるとか可哀想すぎない?
ハルは何も悪くないよ。
やっぱり、私が守るしかない。
女の子同士で付き合ってるとか噂されても、もう気にしない事にした。
あんなに可愛いハルと噂されるなんて、むしろ光栄だ。
何よりハルが大事だし。
いつか、ハルが私から巣立つ時まで、私は盾になる。
大学二年になる頃、噂は完全に定着した。
ハルを口説く男も、女子から陰口を言われる事もだいぶ減ってきた。
私達は女の子同士のカップルとして認知され、共通の男友達や女友達もできた。
友達が増えても変わらずハルは私にべったりだ。
一緒に授業を受けて、一緒にお昼を食べて、私の寮に遊びに来る。ちなみにバイト先も一緒。
平和で幸せな毎日。
「あの、あのね、ちょっと聞きたい事があるの」
部屋でダラダラしながらお菓子をつまんでいる時、ハルは不安そうに言った。
何?どした?何でも聞いて?
目に涙を溜めて、唇が震えている。
そんなハルも可愛いけど、とにかく安心させてあげたい。
「どうしたの?ハル?」
私はハルをギュッと抱きしめて覗き込む。
「あのね、あのさ、私とミナが付き合ってるって噂、知ってる?」
あぁ、その事か!
私的には、光栄ですとか思っていたけど、ハルにとってはショックだったのかもしれない。
何て返したら良いかな?
何て言ったらハルを安心させてあげられる?
私は、大して良くない頭をフル稼働させた。
「あー、えっと、そだね、そんな噂も、あるらしいね」
シーンとなった。
えーと、知らないフリした方が良かったかな?
頭の中は大パニック。
「ミナはさ、あの噂聞いて、い、嫌だった?」
待って待って、何言ってるの?
「嫌なわけないよ!」
思わず反射的に叫ぶと、ハルの目からポロリと涙がこぼれた。
「ハ、ハル?泣かないで!ごめんね!ごめんね!私は、ハルを守るつもりだったの!だから、噂も否定しなかったの!」
ハルは、驚いた顔で私を見る。
「だってさ、ハルは美人で可愛いから、男子にモテモテだったでしょ?ストーカーっぽい人もいたし、それに女子からも色々言われてたし、だから私と付き合ってるって誤解させとけば、ハルを守れると思って…」
もしかして迷惑だった?
ハルの気持ち全然考えてなかったかも。
「ミナは、ミナは、私の事、好き?」
ハルを傷つけたら意味ないのに。
ごめんねハル。
「もちろん、大好きだよ!美人だし可愛いし!大切な一番大切な親友だよ!」
「……………親友?」
「あ、ごめん、親友とか馴れ馴れしかったよね?えっと、一番大切な友達だよ!」
「……………なら、それなら、誰が好きなの?」
「え?いや、え?」
「私が親友なら、本命は?本命は誰?」
ハルはもう泣いていなかった。
と言うか、怒ってる?
「だから、本命は誰なのかを聞いてるのっ!」
ハルは怒っても可愛いけれど、そうじゃなくて、意味が分からない。
「えっと、本命って何の話?」
「本命は本命だよ!友達じゃなくて、本当に好きな女の子は誰なの?」
「え?待って?待って!もしかして恋愛的な意味?」
またハルが泣きそうだ。
とりあえず、誤解は解いた方がいいよね?
「えっと、私、可愛い女の子はもちろん大好きだけど、恋愛対象は男性だよ?」
「え?」
「え?」
「だって、ミナはいつも女の子を舐めるように見てるし、すぐ声をかけるし、すぐ連絡先とか聞くし、女の子が好きなのかと思ってた……」
「いや待って、もちろん可愛い女の子は大好きだよ!大好きだけれども、恋愛的な好きではないんだよ!」
「そう、なの?」
「そうだよ!」
「ミナの事、女好きのスケコマシだと思ってた」
待って、酷い!スケコマシ?
「じゃあ、何のために今まで……馬鹿みたい」
今度は馬鹿って言われた?
「ハル、酷いよ……」
情けない顔でハルを見ると、ハルはにっこり笑った。
急に泣きだしたと思ったら、怒りだして悪口言われて、今度は天使の微笑み。
意味わかんないけど、可愛いからいいか。機嫌も治ったみたいだし。なんて、ホッとしてたら、またハルが泣きそうな顔をした。
「あの、あのさ、ミナは、転換の血族って知ってる?」
「ん?」
「あの、あのね、私ね、転換の血族なの」
ハルは急に意味不明な事を言い出した。
「転?何それ?」
「えっとね、性別を変える事ができる血筋の事だよ」
ん?何か急にファンタジー?
「冗談じゃなくて、真面目な話」
ハル?大丈夫?今日ちょっと変だよ?
「私、私ね、ミナの事が恋愛的な意味で好き!」
「え?」
「大学一年の頃からずっと好きなの!」
「!」
「だから、私の本能は男性になろうとしてて……」
「!?」
「転換の血族は、好きな相手の伴侶になれるように性別を変える事ができるんだよ」
「??」
ちょっと、ハルが何言ってるのか分からない。
「ミナは、女の子が好きなのかと思ってたから、血に抗って男性に転換しないようにずっと耐えてたの」
ハルが、とても真剣だって事は伝わってきた。
だって手も唇も震えている。
言ってる事は意味不明だけど、とにかくハルが安心できる言葉を返さなくちゃいけない。
「えっと、転換?とか、よく分からないけど、私はハルが大好きだよ!性別とか関係なく、ハルの存在が尊いと思っているからね!」
いや、本当にハルの両親に感謝してる。ハルを産んで育ててくれてありがとうございます。
「ミナは、ずっと、側にいてくれる?」
「当たり前だよ!」
「私が変わっても、き、嫌いにならない?」
「どんなハルでも大好きだよ」
ハルが何を心配しているのか分からないけど、私がハルを嫌うなんてありえない。
「私は、これから男性に転換していくから、気持ち悪いって思うかもしれないよ?」
「ハル!そんな事思うわけないじゃん!怒るよ?」
ハルは、やっと安心した顔で笑った。
そうだよ、性別なんて関係ない。ハルはハルだ。
転換?して男性になったとしても、私はハルが好きだ。
その後、ハルは学校に書類を提出したり、友達にもカミングアウト的な事をした。
「え?小田桐さんって、転換の血族なんだ!」
ハルを囲んでみんなが盛り上がる。
「転換の血族の人に初めて会った!」
「って言うか、実在したんだね!」
どうやら、みんな転換の血族を知ってるらしい。
「転換するって事は、お相手は七瀬さん……だよね?」
ハルは嬉しそうに頷く。
「そっか、おめでとう!」
「良かったね!おめでとう!」
転換はおめでたい事らしい。
何故か私までお祝いの言葉をもらった。
「私、転換の血族の事、知らなかったんだよね」
と言うと、みんなに驚かれた
公表はされてないけど、芸能人にも何人か転換した人がいるらしい。
転換は長い時間をかけて体を変化させていくそうだ。
「個人差あるけど、完全に転換するまでに3年くらいかかると思うよ。体も心も少しずつ男性になっていくから、ミナもゆっくり慣れていってね」
ハルは、いつもと同じ可愛い顔で笑った。
大学三年になると、ハルの体はだいぶ変わってきた。
背が伸びて声も低くなってきたし、華奢だった手足は筋肉が付いて筋っぽくなった。
でも、内面はあまり変わってない気がする。
相変わらず私にべったりだし、私が女の子を目で追うと舌打ちされる。
「もっと筋肉付けたいから、ジムに行こうかな」
ぺらっとめくったシャツから引き締まった腹筋が見える。
私は、何だか恥ずかしくなって目を逸らす。
男性に転換したハルは、可愛いのにカッコイイ。
ずるい。
それから、何だか服装に厳しくなった。
「そのスカート短かすぎない?」
とか、学校の先生みたいな事を言う。
「そのワンピース、胸元が開きすぎ」とか「そのシャツ、少し透けるから上にもう一枚着て」とか「そのセーター、体のラインが出るから家用にして」とかね。
「誰も見てないよ。気にし過ぎじゃない?」
って言ったら、もの凄く怒られた。
「ミナは、男の性欲を舐めすぎだよ?本当にさ、何にも全然分かってないよね?人の気も知らないで、平然とよくそんな事が言えるね?」
キレイな顔でそんなに怒らないでほしい。
でもさ、ハルが女の子だった時って、もっと露出度が高めの服を着てたよね?
よけいに怒られそうだから言わないけど。
ハルの転換は想像していたよりみんな好意的だった。
なんと、大学で『小田桐君ファンクラブ』なんてものが発足したと聞いたので、るんるん気分で入会しに行ってみた。
ハルの尊さをメンバーと語り合いたい!
「な、七瀬さんが、にゅ、入会希望ですか!?」
会長さんは、私を見てもの凄く驚いた。
「も、も、申し訳ありませんが、うちのファンクラブは普通のファンクラブではなくてですね、あの、何と言うか、小田桐君を密かに応援するというか、じれったい関係性を影から見守るというか、イケメンなのにモダモダしている姿を尊ぶというか……あの、とにかく、七瀬さんは入会出来ないんですっ!ご、ごめんなさいっ!!」
土下座をされた。
活動内容はよく分からなかったし、入会出来なかったのは残念だけど、ハルが、みんなに尊ばれて応援されているのは嬉しかった。
女の子だったハルと私は、スキンシップ多めだった。
手を繋いだり、ハグしたり、ほっぺにチューもしてた。
でも最近、全然できなくなった。
何か緊張してしまって。
目が合うだけでもドキドキするし、ほっぺにチューとか絶対無理だと思う。想像しただけで心臓が飛び出そうだ。
ハルは時々、不安そうな顔で私を見る。
安心させてあげたいって思うけど、考えれば考えるほど挙動不審になってしまう。
「ミナ、最近、変っていうか…何か冷たいよね?」
「そ、そんな事は、ないけど」
「もしかして、避けてる?」
「え、いや、ち、違くて……」
「ミナ?こっち見て?」
ハルの瞳が不安そうに揺れる。
「受け入れられなくなったなら、ちゃんと言って」
「違う!違うの!」
顔を上げると、ハルと目が合った。
吸い込まれそうな程に美しい瞳が悲しそうに歪む。
「ハ、ハル、ごめん、私、緊張してしまって……」
「……緊張?」
「き、緊張って言うか、恥ずかしい?みたいな……ハルを見てると、何か、心臓がバクバクして、どうしたらいいか分からなくなる」
「緊張して、恥ずかしくなるの?」
ハルは私の顔を覗き込む。
私はもう、ハルと目を合わせるのは無理だった。
きっと顔も耳も真っ赤になっていると思う。
「ミナ?こっち見て?」
ハルの優しい声が耳をくすぐる。
無理!無理!無理!心臓が口から出そう。
「…………可愛いっ」
ついに幻聴まで聞こえた。
「抱きしめていい?」
次の幻聴が聞こえた瞬間、私はハルの腕の中にいた。
ハルは、いつのまにこんなに背が伸びたのだろう?
私はすっぽりとハルの中に収まった。
「ミナ、好きだよ」
ハルはギュッと抱きしめながら、私の頭に何度もキスをした。
それ以来、ハルはスキンシップが多めになった。
すぐ赤くなる私を見て、嬉しそうに笑う。
何だか少し意地悪になった気がする。
私は結局、どんな事があってもハルの事が好きなのだ。
大切で大好きで、言葉にするのが難しい。
キレイなお姉さんだったハルは、もちろん大好きだったけど、キレイなお兄さんになったハルは、苦しくなる程に愛おしい。
きっともう離れる事なんて出来ないと思う。
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