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4.立ちはだかる者達

 アンデッドジェネラルを倒しても、流石に城の門は開かなかった。

 “討伐者”は、魔法を用いて城の扉を打ち破り、城内へと入った。

 そして、ワイトやマミーなどのアンデッドを次々と倒しながら歩を進める。


 やがて、上の階へ上る階段で、毛むくじゃらの男が“討伐者”の前に立ちはだかった。

「ここから先は通さねぇよ」

 そう言うと、男の身体が変化し始める。顔中に剛毛が生え、その造形も肉食獣のものとなる。手の爪も長く伸び、鋭い鉤爪となった。男は狼人間(ワーウルフ)だった。

 だが、狼人間が変身を終えて飛び掛かる前に、“討伐者”の呪文が完成した。

「何!」

 狼人間が呻く、その足元は凍り付いて床に張り付いていた。


「あなた、格闘家、というやつでしょう? 接近されると面倒なので、動きを封じさせてもらいました」

 “討伐者”がそう告げた。

 狼人間は足元の氷から冷気によるダメージを受け続けている。普通なら、このまま動けずに死んでしまうだけだ。

 だが、この狼人間は、普通ではなかった。


「ガアァァ」

 狼人間が叫び声を上げる。すると、その身体は巨大な狼に代わり、足元の氷を弾き飛ばす。そして、そのまま宙を跳んで“討伐者”に迫った。


 しかし、それでもなお足りない。

 狼人間が喰らいつこうとした正にその時に、“討伐者”の次の呪文が完成した。

 階段の床から鎖状に紡がれた炎が飛び出し、狼人間を絡み取って拘束する。

「グゥゥ」

 狼人間は唸り声をあげ、懸命に動こうとするが、魔法の炎鎖は緩む事はない。そして、狼人間を焼いた。


 “討伐者”が何事も無いかのように告げる。

「完全獣身化しても理性を保っているのですか? 随分鍛えていますね。ですが、相手を拘束する手段は、いくつもあるのですよ。

 さて、このまま放っておいてもそのうち焼け死ぬでしょうが、待つまでもないでしょう。さっさと終わらせますか」


 そしてまた、呪文を唱えた。

 狼人間の身体から青白い炎が噴き出す。狼人間は、焼き尽くされて死んだ。




 次に“討伐者”の前に立ったのは、執事服の老人だった。

 レイピアを手に、長い廊下の先で姿勢よく立っていた老人が“討伐者”に告げる。

「私がお相手いたしましょう」


 “討伐者”は小首をかしげながら問い返した。

「私は構いませんよ。

 ですが、ひとつ聞きたいのですが、あなた方は、何故わざわざ一人ずつ現れるのですか? 皆で一緒にかかって来た方が、多少は勝率が上がると思うのですが?」

「あなたには、理解できませんか。矜持というものが」


「ええ、分かりかねますね。矜持というのは、勝利よりも大切なものなのですかねぇ?」

「理解しあえない者と言葉を重ねるつもりはありません。参ります」

 執事服の老人は、そう告げるとレイピアを抜き払って、正面に構えた。

 “討伐者”も呪文の詠唱を始める。


 だが、“討伐者”の呪文が完成する前に、突然その胸からレイピアの切っ先が飛び出した。

「おや?」

 “討伐者”がそんな声を上げ後ろに顔を向けると、正面に居る老人と全く同じ顔で同じ服を着た者が、“討伐者”の背中にレイピアを突き立てていた。

 と、次の瞬間、“討伐者”は正面からの衝撃を受けた。

 正面に居た執事服の老人が急速に接近し、“討伐者”の胸を刺したのだ。

 “討伐者”の顔が驚きの表情を作る。

 前後に居た同じ姿形をした老人は、いずれかが幻だったわけではなく、共に実体を持っていた。


 正面の執事服の老人が告げる。

「考えを改めました。やはり、矜持より勝利の方が重要ですな」


 その声を聞き、驚きの表情を作っていた“討伐者”の顔が、ニヤリと笑った。

 そして“討伐者”は、その場で物凄い勢いて一回転した。少なくとも重傷なのは間違いないはずなのに、全くダメージを感じさせない力強い動きだ。

「うぉッ!」

 執事服の老人達は、そんな声をあげ2人とも弾き飛ばされる。


 2人の老人は、ただ弾き飛ばされただけではなかった。2人共胸に大きな傷を負っていた。猛獣の爪で抉られたような傷だ。普通の人間なら即死は免れないほどのものだった。

 その傷は自動的に回復しようとしていたが、簡単に治し切れるほど軽い傷ではない。

 老人たちは驚愕しつつ、“討伐者”を見た。

 そして、自らを抉ったのが何だったのかを理解した。

 “討伐者”の両腕は、巨大な肉食獣の前肢となっていたのだ。黒い体毛が生えているが、色合いには濃淡があり、縞模様のように見える。


 “討伐者”は陽気な声で告げた。

「これは一本取られました。同型のホムンクルス? それとも、単純に双子ですかな?

 どちらにしても、まだ人間だった頃の私なら、今ので倒されていたかも知れませんね。

 ですが、残念。

 私、実はもうずいぶん前に人間を止めているのです。この程度では殺せませんよぉ」


 執事服の老人たちは、驚愕しつつも、レイピアを手に立ち上がった。

 その2人に、“討伐者”は更に言葉をかけた。

「それではお返しに、私もとっておきを披露しましょう。対個人用最強魔法というものをご覧にいれます」

 そして、浪々と呪文を唱え始める。


 逃げても無駄。そう思った2人の老人は、共に“討伐者”に向かって走った。

 そして、同時にレイピアを刺突する。鋭く、しかも互いに連携した見事な一撃だ。だが、“討伐者”は、軽く体を動かしてその両方を避けた。そして、次の瞬間、呪文の最後の一節が紡がれる。

「万物よ、振るえよ」


 “討伐者”両肩の上あたりに1つずつ、渦を巻く白い球体が生じ、それぞれ執事服の老人に向かって飛び、そして過たずぶつかった。

「「ぐッわあぁぁァァァ」」

 2人は同時に叫ぶ。そして、数瞬後、唐突に叫び声が途切れる。2人の老人の存在は、完全に消滅していた。


「少し、大人げなかったですかね?」

 “討伐者”はそう告げると、神聖魔法で傷を癒し、人のものに戻った手で服を払う仕草をすると、また歩みを進めた。

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