1.夢の始まり
虚ろげな夢の中、ここは駅のホームだろうか周りには男と女以外誰もいないようだ、見るからに若い学生のような、男女二人が立ちながらお互いを見つめあっている。
男の方は全体的にモザイクのようなものが覆っているのか顔までは鮮明に見えない、骨格と身長で男だということは分かる
学生服を着た女は他の学生よりも少し大人びており黒くロングの綺麗な髪の毛は腰まで伸び、女性の中では平均的な身長より少し高めだ。
そんな女がゆっくりと口を開くと
_____██、█は█の事が██..._____
女が少し悲しいような恥ずかしような顔で呟いたと思うと視界が歪み眩しい光が全てを包み込む___
夕方四時頃、窓のカーテンから漏れた光に怒りを覚え、冬の寒さに耐えながら洋服が散乱したベットから身体を起こす。
「...またあいつの夢か」
彼はその伸び切った髪の毛を邪魔くさそうにかきあげ、ボサボサの頭を最低限整え、散らかった部屋に足を下ろす。
「夢の中でもあいつが出てくるなんて最悪だ...」
俺は夢に出てきた女には覚えがある
それは俺が通っている学校で同じクラス2-Aにいる学校1の美女だが、性格がキツく俺に棘のある言葉を放ってくる可愛げのない女だ
俺が登校する度に毒を吐いてくるので俺も言い返すが、今のところ全敗だ
そんな事を考えていると俺以外誰も居ない家のチャイムが絶え間なく鳴り響く。
ピンピンピンピンピンポーーン
「うるせぇ...」
俺は訪問者が誰だか検討は付いているが散らかっている床のゴミを避け、自室から玄関へと歩を進め、玄関の鍵を開けた。
「どちらさm
俺が言葉を言い切る前に玄関の扉は勢いよく開き、
「どちら様じゃないよ!!!」
と、見慣れた顔の女が俺の腹に頭から突撃してきた。
「グハッ!」
俺は急な出来事に混乱しつつ、顔を上げると仁王立ちした、学生服を着た幼馴染の姿がそこにあった。
彼女の名前は成瀬 やよい(なるせ やよい)
ショートカットの髪に青いメッシュが入っていて、身長は女子の中でも少し小さめだが元気で身長とは裏腹に態度と胸はでかい女だ
やよいは満面の笑みで、
「どうだ!威力70のずつきは!」
こいつはゲームが好きでハマってるゲームの技をかけてくる迷惑な奴だ。
「せめてポケ○ン出せよ、このデカ乳!!」
「ふーん?Z技行こうか?」
といいながら含みのある笑顔で俺を見下している
俺は勝てる気がしないので諦めて倒れた身体を起こす
「で...なんの用だよ」
「なんの用じゃないよ、学校休んでるから家が隣の私がわざわざ学校の書類届けに来てるんでしょ!」
やよいとは幼稚園からの幼馴染であり家も隣なので学校の書類等は毎回やよいが届けてくれるのだ
「それは感謝してるが、毎回毎回技をかけないと気が済まないのか!?」
「別に減るもんじゃないし良いじゃん」
「俺のHPが減ってるんだよ!!」
と、そんな下らないやり取りをしていると開けっ放しの玄関からまた一人の女が顔を覗かせている
「こんばんは、ゆうだい君」
そう言いながら先程夢に出てきた女、
工藤 わかな(くどう わかな)が玄関の外から此方を見ながら話しかけてくる。
「君達は本当に仲がいいね」
と笑みを浮かべてはいるが、その言動一つ一つに知性を感じ誰も寄せつけない雰囲気を感じさせる。
「なんでわかなも来てるんだよ、家反対だろ?」
わかなは不思議そうな顔をして首を傾げ、
「あら、買い物ついでに貴方のアホ面を拝みに来たのだけれど?」
さも当然の様な顔をしながら言ってくるので余計タチが悪い女だ
「俺もこんな性悪女を頼んだつもりは無いぞ、チェンジで」
「そう、こんな絶世の美女にそんなこと言うのね」
そんな自画自賛を言ったと思いきや
「貴方が私を家に連れ込みあんな事やこんな事をしたと学校中に噂を流すことも出来るのだけれど?」
淡々とした笑顔で恐ろしい事を言い放つ
「お願いします辞めてください俺が悪かったです!!」
俺の抵抗虚しく彼女にあっさりと負けてしまう
そんなやり取りをしているが俺たち三人は入学してから同じ散歩部という部活に所属していて、こんなじゃれ合いが出来るのはこの二人くらいだ
そんな事を思いつつ彼女達を見て違和感を覚える
彼女達をよく見るとマフラーにストッキングと暖かい格好をしていて、学校指定のスカートに長袖の黒い制服を着て、鞄を持っている
「あれ?なんで制服着てるの?」
聞いた途端、彼女達は冷たい眼差しで此方を見つめながらやよいが口を開いた
「むしろなんで学校来ないのさ、約束したじゃん冬休み開けたら登校しよって?」
「貴方は登校日すら忘れてしまう鳥頭なのに、よく今まで生きていけたわね」
俺は完全に登校日を忘れてしまっていたようだ
、辛辣なわかなを無視しつつ心配してくれるやよいに謝罪をする
「まあ、明日ちゃんと登校するなら許してあげる!」
何故か胸を張りながら得意げだ
無視されたわかなは少しムッとした顔で
「とりあえず貴方が生きている事が確認できただけでいいわ」
そう言い背を向ける
「もう帰るのか?」
「ええ、買い物のついでに来ただけだもの」
「そうか...ありがとうな、気を付けて帰れよ」
「わかなちゃんまた明日ね!」
「ええ、また明日ね」
後ろ姿で去っていく背中はどことなく寂しそうに見えた
幼馴染のやよいと自宅から、わかなの帰りを見送ったところでやよいはこちらを向き少し沈黙してから提案をしてきた
「...まだ、ご飯食べてないでしょ?」
「ああ、まだ食べてないがどうした?」
「ご飯食べに行こう、ほら四角い豆腐のお店!」
また分かりづらいネタを突っ込んでくる
「普通にガ○トって言えよ...」
そんなことを言いつつも承諾し、シワがよった服に着替え歩いて10分ほどかかる駅前のファミリーレストランへと歩き出す
俺とやよいはファミリーレストランに着き、お互い好きな料理を頼んで他愛もない話をしてたが、やよいが真面目な顔をしながら話を切り出してきた
「...どうして一ヶ月も学校休んでたの?」
やよいも知ってるであろう理由を聞かれ、俺は少し不機嫌そうに答えた
「どうして?それはやよいも知っているだろう?」
俺が不機嫌なのを察してか、やよいらしく無いよわよわとした声で答える
「知ってるよ...ただ、どうして周りの人がゆうだいを避けてるのか知ってるのかなって...」
そう、俺は12月の初めから何故か周りのクラスメイトから避けられて裏で色々言われるようになっていた
「知るわけないだろ!やよいだってその言いぶりは本当は知ってるんじゃないのか?」
怒りから口調が強くなり、やよいは怖がってるように見え俺は反省した
「いや...ごめん、少し言い過ぎた...」
クラスメイトが避けても俺を避けずに普段通りに接してくれてる、やよいを考えると自分がどれだけ愚かな事をしたのかと反省した
それはもちろん、わかなもそうだった
二人だけは変わらず接してくれた
「...大丈夫、私もゆうだいの気持ち考えずに...ごめんね」
「いや、俺が悪い...ここは奢らせてくれ」
と言うとさっきまでの悲しそうな顔を感じさせない満面の笑顔で
「え?じゃあパフェも頼んじゃおー♪」
なんていつもの調子に戻るのであった
「...こいつ」
やよいはウィンクしながら
「私に弱みを見せるなんて、ゆうだいもまだまだだね♪」
学校中でも美人で有名の幼馴染からのウィンクを貰った俺は
(まあ...いっか)
と思いながら食事を終え雑談をしてから店を出た
夜の八時を回っていたのもあり暗い夜道を二人で喋りながら自宅に歩みを進める
会話をしてると、お互いの自宅の近くまで来ており、あと数歩で着くと言う所でやよいが歩みを止めた
やよいの方を見る暗くて分かりずらいが何か悲しそうな顔をしている
「ねえ、ゆうだいは...わかなちゃんの事どう思う?」
俺は質問の意味が分からず首を傾げる
「どうって?大切な友達だと思うよ?」
これは俺の本心だし嘘偽りはない
ただやよいはどこか納得してない様子だった
「うーん...そっか...」
そう言うといつもの元気なやよいに戻ったが俺から見たら何か隠している事は一目瞭然だった
「じゃあ、明日朝に迎えに行くからちゃんと起きといてよ?」
そんなことを言いつつ俺の返事を待たずに家へと入って行った
(なんだったんだ...?)
やよいの家はリビングに明かりが灯っており、やよいの帰りを待つ家族がいることが分かる
そんなやよいを羨ましく思いつつ、俺は真っ暗な家の玄関を開け、いつもとは様子がおかしい、やよいの事を考えながら就寝するのだった____