9,ロマンチストなディレクター
無言の時が流れた。
『後から聞いたら、体の弱い子だったから、最後の文化祭だって無理をして持病が悪化してしまったらしいんだ』
『それは…ここで話して大丈夫です?』
『大丈夫、おばさん――幼馴染のお母さんに、幼馴染のことをラジオで話す許可は貰ってるから』
『用意周到ですね?』
素直に、疑問そうにハルさんは尋ねた。
『毎月28日はね、幼馴染のことを思い出すんだ。で、ラジオ――音とか声なら天国まで届きそうだと思って』
『なるほど』
『隠してるわけじゃないのでリスナーの皆さんにも説明すると、ボクこのラジオ局でディレクターしてまして。普段は曲流したり音量調整する裏方なわけです』
『はい、いつもお世話になっております』
翔の一人称がボクになったのは、リスナーに向けて改まって、真面目な話をするから。かしこまったのだろう。
それに合わせて、ハルさんの声も落ち着いたトーンになる。ハルさんの日頃の感謝に翔は笑った。
『ボクがディレクターになったのは、ボク自身ラジオが好きだったのと、幼馴染にラジオなら天国まで何かを届けられるんじゃないかと、ふと思ったからなんです』
『僕、その話聞けて、なんか嬉しいです。ショウさんのこと、もっと知れた気がして』
ハルさんが静かに、しみじみと言うので翔は優しい声で答えた。
『より、仲良くなれた気がするよね』
『はい』
『それで、幼馴染もボクの影響で音楽が好きだったので、命日には幼馴染の好きな曲を流そうと思って。たまに流してたんです』
『ロマンチストは健在ですね。幼馴染さんも嬉しいんじゃないでしょうか』
ハルさんは、考えたような一瞬の間があってから、そう明るく返した。
『実はこの話、うちのラジオ局では社長しか知らなくて』
『そうだったんですか!?』
『入社の志望動機で話したのを覚えていてくださって、まだ気持ちが変わってないなら月命日にディレクターじゃなくて話してみたらどうだってお話を貰って』
『す、凄い…。社長も、それでパーソナリティーをやれるショウさんも』
『告白の件で後悔してるから、やらずに後悔するよりやってみようと思って。それを許してくれる社長だったので』
『やり手って感じの女社長さんですもんね』
『そうそう。あと、頼りになるディレクターの大先輩も背中押してくれたから』
『良い話…』
『ハル君、ハンカチ貸そうか?』
声の震えたハルさんに、翔は笑いながら優しく言う。
『泣いてないです! ギリギリ…』
ハルさんがそう応えて、ラジオは少し和やかになった。