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6,命日と、同じ想い

 走る私に、イヤフォンは調子良くラジオの音を届けてくれていた。


『外…というか、空が見える状態で、話したいんだよね』


少し間をおいて、翔が話し出した。


『今まで話したことないんだけどね。まあ、今日は折角だし。三月だし、夜だし、良いかな。ハル君聴いてくれる?』


不思議そうにしているのが伝わってくる声音で、ハルさんは勿論ですと答えた。


『俺には大事な幼馴染がいたんだ』


私はどきっとした。自分の話題が出たことに。同時に、頭と胸がズキッと痛んだ。



 ――いたんだ。



『さっき流したスピードスターはその子が好きだったアーティストで、俺の好きなアーティストでもある』


絶対私のことじゃん、と心の中で突っ込む。私の知らない翔の幼馴染がいたのかも、とも思ったがその可能性はほとんど消えた。


『へえ』


ハルさんは興味深そうに、けれど邪魔しないように静かに相槌を打つ。


『幼馴染に勧められて好きになった、”夢を探して”って曲。思い出の曲なんだ』


 ――ユメ。


翔の声で再生されて、初めて思い出す。そうだ、私は外岡有芽(とのおか ゆめ)だ。一番名前を呼んでくれたのは、翔だった。


『今日はその子の祥月命日なんだ』


ぐっと、心臓を掴まれたようだった。心臓が痛いのは、きっと走っているからだと、言い聞かせていたのに。


きっと私が生きていたら、冷や汗をかいているような心境だ。体は冷たいけれど、いっこうに冷や汗は出てこない。


「おかしい、なぁ」


しりすぼみになりながら呟く。



 冷や汗が出ない、体が冷たい。自分の体の違和感から自分の現状を少しずつ把握する。信じられなくて、胸が苦しい。


 やがて駅前のショッピングモールが見えてきて、私はゆっくりとその周りを歩き出した。


 自分の名前を思い出して、命日とか、自分の現状を把握して。ノイズのような耳鳴りは消えていた。聞きたくない現実は、否応無く、クリアに聞こえる。



 マイクの性能が良いのか、かすかに息をのんだハルさんの様子が伝わって来た。


『それは――』


『中学までは家が隣同士だった。少女漫画とかでよくあるよね』


翔の様子に、ハルさんも持ち直して、雰囲気を少しずつ、違和感の無いように変えていく。暗く気まずくなることを翔が望んでないと察したようだ。


『恋が始まっちゃうやつですか』


ハルさんも多分気を遣って、ハルさんなりに明るい話題に振る。


『高校入学前に俺が引っ越しちゃってさ』


微妙に答えになっていないような、さらっとスルーしたする翔。


『でも、高三の時』


私はラジオを聴きながら息をのんだ。彼の言う学年に、私も心当たりがあったから。


『通学で使ってた電車で、その子っぽい人を見かけたんだ』


『運命じゃないですか!』


ハルさんはハルさんらしく適度に盛り上げている。


『可愛い子で、自信無かったんだよね。違ったらどうしようって』


『声かけなかったんですか?』


『かけれなかったな~。もう、年頃の男子高校生だからさ。家帰ってこの曲ずっと聞いてるの』


『”夢を探して”?』


『そう。願掛けみたいに、通学でも聴くようになった。探したい、見つかりますようにって』


『うわあ』


ハルさんの受け答えに、翔が苦笑いするのが声で伝わってくる。


『青春ですねえ』

『引いたでしょ、ハル君。今』

『いやいや』

『嘘つけ~』


『ショウさん意外とロマンチストだなとは思いましたけど』


『それな』


翔も自ら同意して、ラジオの場は和んだ。私は、驚いていた。


 ――同じだったんだ。


「声、かければ良かったなぁ」


目の前がぼやけて、私は慌てて涙をぬぐった。駅前の大通りに面した店の並びを見終わり、建物に沿って角を曲がる。ラジオに気を取られ、どうしても歩くのがゆっくりになってしまう。


『とりあえず、曲に行こうか』


『一旦曲ですね。では、本日二曲目はSAKURAで”たんぽぽ”』

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