5,あの日の曲
曲を聴いて、無性に翔に会いたくなる。
スピードスターは、私の好きなアーティストだった。女性のソロシンガーで、この曲はドラマの主題歌だった。
翔にスピードスターを勧めたら、この曲を気に入って聞いてくれていたっけ。
ふと、高校三年の通学電車がフラッシュバックする。翔に似た男子学生は通学カバンに、スピードスターのグッズを付けていた。
今更遅いけど、一つ確信に変わる。
『さて、今日もここ、駅前ショッピングモール内のいつものスタジオからお送りします~』
耳の奥で、ジジッジジッ、とノイズ音がしていた。さっきから少しずつ収まりつつあって、ラジオははっきりと聞こえる。
チューニングというか、ラジオのチャンネルを合わせてる感じだ。
――なんだろう、この耳鳴り…。
『僕ここのスタジオ、ショッピングモール内で外に面してるっていうか、窓の外で通りすがりの人が見えるの好きなんですよね~』
ハルさんが話を続けていた。それに翔が応える。
『わかる、たまに手振ってくれる方いるよね』
『そう! でもショウさんと一緒の時はショウさんがいつも窓の外が見える方に座るから』
『ハル君は背中側に窓があることになっちゃうね』
ハルさんの話を、翔がリスナーにイメージしやすいように情報を付け足すように話している。
『大好きな先輩のショウさん相手じゃなきゃ譲らないですよ』
笑い声とともに、翔が言った。
『いや~、ほんといつもありがとう』
『もう、ショウさん登場回はショウさんの特等席ですよね、そこ』
『他のパーソナリティーの方も優しくて譲ってくれるんです』
いや~、人に恵まれてますほんと。と翔は呟きながら、それを受けてハルさんが言った。
『それだけ色んな方に好かれてるショウさんの人柄ゆえだと思いますが。毎月28日だけパーソナリティーしてることに関係あるんですか?』
『お、ハル君鋭いなあ』
『大好きな先輩のことはね、いつも見てますからね』
『なるほど?』
『疑問形でしたね』
『うん』
私はスピーカーからのラジオを聴きながら、手元のスマホでホームページにアクセスした。イヤフォンでラジオを聴きながら、駅前に向かって走り出す。
商店街のスピーカーは、離れると聞こえないから。
ショッピングモールの中のスタジオ。外に面してるって言ってた。通行人が見えるなら一階だろう。
「ショッピングモールの建物の外側を回ったら見つかるかな」