3,タンポポとノイズとラジオ
川沿いに歩きながら、自然の多さに驚いた。
川沿いの花は綺麗に咲いていて、木などの緑も多い。木や花の色は灰色のままだから、形で判断して、記憶で少し補完している。
綺麗なのに、誰かに手入れされている、という感じがあまりせず居心地が良かった。
ふと、川辺に咲くタンポポが目についた。独特な形は、本来の色が無くてもタンポポだとすぐにわかる。タンポポは、私の幼馴染が好きな花だった。無性に、その幼馴染が懐かしくなった。
その時、ずっと聞こえていたノイズが急に大きくなった。
ジジッ。
耳鳴りのように不快で、眉間に皺を寄せたけれど微かに聞こえていた声は聞き取れるようになった。
『こんばんは~! えす、えいち、おー、SHOでーす』
ノイズ混じりに聞こえる話し声。あぁ、これラジオだ。と気付くと同時に、私は音の出どころを探した。
辺りをきょろきょろしても、それらしき音源は見つけられない。
私は走り出した。声のする方へ。
『皆さんいかがお過ごしでしょうか? 今日は俺、ショウが月に一回登場するレア回ですよ~ 一緒にパーソナリティーを務めるのは~?』
『こんばんは! 毎度おなじみハルです。今回は久々にショウさんとご一緒出来てテンション上がってます』
二人とも男性。ショウは人懐っこい話し方で、少し高めの声。ハルと名乗ったメインパーソナリティは低めの声で、万人受けしそうな落ち着きがある。
――知ってる。
『うんうん、ハル君は大人っぽい声しながら、相変わらず可愛い後輩だなあ~』
『放送前にスタジオ横の事務所ではよくお会いするんですけどね』
『そうだね~ 俺は毎月28日に出演するけど、朝、昼、夜の生放送のうち一回しか出ないから』
28。何故かその数字を聞いて頭痛がした。
『ローテーションなんですよね』
『そうそう』
『俺は毎週金曜担当だから、28日が金曜になってくれないとご一緒出来ない…』
残念そうにハルさんが言い、その声から思わずシュンとした子犬の姿を想像した。
『それでも朝昼夜の枠があるから』
ショウさんがそう付け加える。
『確率は三分の一…』
『久々なわけだ』
落ち込むハルさんの声を、ショウは笑って吹き飛ばした。
『今日はよろしくおねがいします』
『こちらこそ、今日もよろしく』
基本的にハルさんの方が年下だからか、彼は敬語で話が進む。
『ではでは〜?』
『週末イブニング! 始まりまーす』
パーソナリティー二人がタイトルコールをして、ラジオ番組は始まった。