2,不思議な町
そこは、不思議な町だった。
あたりは薄暗い。
というより、全てのものが灰色の世界。
まるで夢の中のように、そんな不思議な光景を私はなぜかすんなりと受け入れてしまっていた。
なぜだか、懐かしい感じがする。
駅の近くは少し高めのビルや、綺麗な建物が並んでいた。色が無いから、キレイな形と言うべきか。
丸みを帯びた、円柱のようなシルエットの建物は印象的だった。
ショッピングモールのような建物の中から何やら音楽が聞こえていた。その音は微かで、曲まで判断できないがうるさ過ぎず、気が散らず、絶妙に心地良い音量だった。
記念に、首から下げていたカメラで景色を一枚撮った。
灰色の世界は、人通りも無い。
カメラで撮った写真だけはカラフルで、そこにいないはずの人が沢山映っている。撮った写真を確認しなかった私は、その奇妙さに気付くことは無かった。
しばらく歩くと、昔ながらの商店街が見えて来た。
――懐かしい感じは、ここの雰囲気かな。
その商店街は今時珍しく、シャッター街と言うわけではなかった。どこの店も活気がある。シャッターは開いていて、営業中という感じなのに。
人は……一人もいない。それでも、活気を感じる。ついさっきまでそこに人がいたかのような、不思議な感じ。
商店街の真ん中や、一番奥というなかなか人の集まらない立地の店もきちんと店を開け、商売をしているようで、商店街内に温度差が無いのが歩いていて心地よかった。
その様子を、またカメラに収めた。
人のいない、けれど戸の開いた店先。誰もいない灰色の世界。
色づいて映る写真の中では、店主と数人のお客さんが談笑している姿が写っていた。
どうして写真だとここに居ない人を映すんだろう。
私は撮った写真を見て、やっと不思議に思った。写真を撮ったカメラ自体を見つめてみるが、どれだけ見ても、それは父のお下がりで私が中学時代から使っている、ただのデジカメだった。
試しにレンズを自分に向けてシャッターを切ってみたが、上手くレンズに映らなかったのか、カラフルな世界に私は居なかった。
――やっぱりスマホじゃないと、自撮りは難しいかぁ。
私の背後の、景色だけがカラフルに映っていた。
どういうことだろうと考えていると、ここでも何やら音が聞こえた。
商店街内のスピーカーから音が流れている。駅前より少し音量が大きく、けれど内容が聞き取れない。それは残念なことにノイズのようになってしまっていた。
商店街の突き当りに、川が見えた。川が商店街と平行に流れていたようで、川沿いに歩くと駅前まで戻れそうだった。
灰色の川。水墨画のような、濃淡のあるモノクロの川。
川は濁っている訳ではなく、不純物の無い様子はあくまで水墨のようだ。水面はキラキラとたゆたっている。
「そろそろ戻ろうかな」