1,読めない駅名
――私は電車に乗るのが好きだ。
とある週末、私は駅のホームに居た。
都会と田舎を繋ぐ鉄道。私はそれに乗り込んだ。政令指定都市の繁華街の駅と、真ん中で一つ市を経由して、二つ隣の市までを繋いでいる。
なるべく人のいない車両を選んで、気が向いた席に座る。空いていれば私は端っこに座る事が多い。隅でチマッとしているのが落ち着くのだ。
幸い、週末のこの時間は乗客が少なく、人のいない車両もあった。私はその車両に乗り、電車の発車に合わせ、窓の外を見た。
流れて行く景色を眺めるのは、色々余分なものを置いていけるようで気持ちがすっきりする。
いらないものにサヨナラをして、私は前を向く。
発車独特の高揚感が収まると、私はポケットからイヤフォンを出して、スマホに繋いだ。
スマホを操作して、音楽を流す。うるさいこの世の雑音をかき消してしまいたかった。
家には家族がいて、寂しくは無いけれど煩わしいこともある。そんな現実から、どんどん離れて行けるようで、私は電車に乗るのが好きなのだ。
気が向いた駅で降りて、ぶらぶらするのも一興だ。
気が付くと、私は眠ってしまっていた。
『終点ー 終点ー』
車内アナウンスで目を覚ました。目を覚まして初めて、眠っていたことを自覚する。
電車が止まり、私はその駅で降りた。駅に降り立ってふと、違和感を覚える。
振り返ると、車内は私だけだったようだ。他に人の気配はしない。ひとまず、辺りを見回すと、駅名の書かれた看板を見つけて一安心した。
「オワリ××?」
片仮名の不思議な駅名に首を傾げながら、ひとまず改札を探した。
今思えば、読めない不思議な駅名も。曇りどころじゃない、暗いとかの問題じゃない、色の無い世界にも。疑問を持つべきだった。
この時の私は、少しも疑問に思わなかった。疑問に思わないことを、疑問に思うべきだったのに…。
終点なのだから、反対方向で来た電車に乗れば帰れるだろう。
そう、楽観的に捉えていた。
私は、いつも使っているICカードをかざして、改札を出た。