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クラスで一番嫌いなあいつが、クラスの人気者である幼馴染に告白しやがった。あいつに取られるぐらいなら、俺が惚れ薬を使って幼馴染と付き合いたい

――――――――

渚 視点

――――――――


 晴彦と付き合い始めてから数週間が経つ。私達は手を繋ぎながら、鳥のさえずりが聞こえる通学路をいつも通り歩いている。


 付き合い始めたからといって、ほとんど変わらない日常だったが、手が触れ合う時間と、素直な気持ちを打ち明ける機会がほんの少し増えただけでも嬉しいと思える。


 ふと晴彦の方に視線を向けると、晴彦は何やら考え事をしているのかミディアムヘアの髪を撫でていた。


「なにか考え事?」

「あぁ。――なぁ渚、惚れ薬って本当にあると思う?」

「はい?」

「いやだから、惚れ薬って本当にあると思う?」

「朝だから寝ぼけているの?」


 晴彦は髪から手を離し、ニコッと笑うと「どっかで聞いたことがあるセリフだな」


「あなたが言ったんでしょ!」

「はは、そうだった」

「惚れ薬ね……実を言うとあの時は、晴彦に惚れ薬を信じさせたかったから、あぁ言ったけど、私は半分半分ぐらいかな。どうして?」

「渚が見せてくれたSNS。あれは渚が投稿したやつじゃないんだろ?」

「うん。私がたまたま見つけたやつ」

「もしあったらと思ったら、少し心配になっちゃって」


 心配? そんなのある訳ないだろって言ってたのに?


「何かあったの?」

「――いや、何でもない」

「そう? 何かあったら遠慮なく言ってね」

「おう!」


 そこで会話が途切れ、私達は無言のまま歩き続ける。


 何でいきなり惚れ薬の事を言い出したのか気になるけど……何も言わないんだったら仕方ない。


 ※※※


 体育の授業が終わり、更衣室で体操着から制服へと着替えると、教室に向かう──。


 教室前の廊下を歩いていると、肩に触れそうなぐらいの長い髪を揺らして歩く、健二の姿を見かけた。私は告白の件もあって、気まずいから避ける様に廊下の端に寄ったのに、奴はなぜか私の方へと寄って来た。


「渚」


 気安く呼び捨てにしないで欲しい! と、思うけど、そんな事は言えないので、とりあえず「何ですか?」


「今日の放課後、空いてる? ちょっと二人だけで話がしたい」

「えっと……何で? この前の話だったら、申し訳ないけど付き合ってる人いますから」


 健二は眉間にしわを寄せ、明らかに不機嫌そうな表情を浮かべる。非常に面倒臭い。


「そんなんじゃねぇよ。放課後、化学実験室で待ってる。誰にも言わずに来てくれ。もし誰かに言ったり、来なかったりしたら、タダじゃおかないからな!」と、健二は身勝手に自分の言いたいことだけ言って、スタスタと歩いて行ってしまった。


 どうしようか……健二のタダじゃおかないは、脅しじゃなくて本当だ。だから色々な人に嫌われているが、従ってしまっている所がある。


 とりあえず言われた通り化学実験室に行ってみて、危なくなったら大声出して逃げ出す。そんな感じでいこうか。嫌だな……何の話だろ。


「廊下で突っ立って、どうしたんだ?」

「ヒャッ!」

「ヒヤ?」


 慌てて振り返ると、切れ長の目を丸くして驚いている晴彦が立っていた。


「なんだ、晴彦か……ビックリさせないでよ」

「俺もビックリしたわ」

「何でもないよ。ちょっと考え事していただけ」

「考え事?」

「うん、あのね――」


 辺りを見渡し、健二が居ない事を確認する──居ない。居ないけど、ここで打ち明けて良いのかな? もし健二にバレたら……。


「ごめん。やっぱり言えない」

「そう……」と、晴彦は心配そうな表情を浮かべながらも、私に気を遣ってなのか、それ以上は聞いて来なかった。


「何かあったら、遠慮なく言ってくれよ」

「うん。さて、教室に戻ろう」


 晴彦がスッと私の前に手を差し出してくる。私は黙ってその手をギュっと握った。晴彦は大きく逞しい手で握り返してくれた。


 子供のころ、些細なことで男の子と喧嘩して、守ってくれた晴彦。晴彦の手の温もりを感じると、その時に手を差し伸べて握ってくれた事を思い出す。なんだか不安だった気持ちが少しだけど、落ち着いた気がした。


 私達は肩を並べて歩き出し「ところで晴彦。もう着替え終わったの?」


「いや……今日は体育の授業、サボった」

「どうして? 体育、好きじゃない」

「好きだよ。でも今日はそんな気分じゃなくて」

「ふーん……珍しい」


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