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クラスで一番嫌いなあいつが、クラスの人気者である幼馴染に告白しやがった。あいつに取られるぐらいなら、俺が惚れ薬を使って幼馴染と付き合いたい

「ねぇ、晴彦。惚れ薬ってあると思う?」と、俺の横を並んで歩く渚は、携帯をそう言った。


「はい?」

「だ・か・ら、惚れ薬ってあると思う?」

「そんなのある訳ないだろ? 朝だから寝ぼけてるのか?」

「寝ぼけてなんていません!」


 渚は俺が即答で否定した事が御立腹だったのか、強い口調でそう言って可愛らしく頬を膨らませた。


 まったくこいつは、いつまで経っても子供っぽいな。


 まぁ……そこが可愛いと思う時もあるのだけど。


「まったく……」


 渚は呟くようにそう言って、正面を向くと、何やら携帯の操作をし出した。


 その時、微かに風が吹き、ポニーテールを揺らして歩く渚からシャンプーの香りが漂ってくる。


 小さい頃から同じシャンプーを使っているのだろう。


 なんだかこの匂いを嗅ぐと、とても落ち着いた。


「――ほら、これ見て」と、渚は俺の顔に携帯を突き出してくる。


「近くて見えねぇよ」

「あ。ごめん、ごめん」


 渚が携帯を離すと、「どれどれ」

 と、俺は渚の携帯を取ろうと手を伸ばす。渚は慌てて、携帯を引っ込めた。


「ちょっと、何をしようとしてるのよ!」

「いや、自分で持った方が見易いだろ?」

「だからって女子の携帯を取ろうとしないの!」

「幼馴染なんだから見られたって平気だろ?」

「そんな訳ないでしょ!」

「はいはい、怒らない怒らない。それで、何を見せてくれるの?」


 渚は携帯の画面が見える様に俺の方へ差し出し、「これこれ」


「どれどれ」


 誰もが使っているSNSの画面か。なになに、惚れ薬ゲット? これ、釣りだろ?


「渚……もしかしてこんなの信じてるの?」

「えぇ、悪い」

「いや、これ釣りだろ」


 渚は携帯をスッと引っ込めると、「どうしてそう言えるの? 本当かどうか分からないなら、本当にあるかもしれないじゃない」


「相変わらずだな」

「相変わらず?」

「何て言うか、相変わらず乙女チック? だな」

「乙女だもん」


 これはどうやって返せばいいんだ? 俺が迷っていると、渚はドンッと俺の背中に平手打ちを食らわす。


「だ・ま・ら・な・い! 恥ずかしくなるじゃない」

「いや、なんて返せば良いのか分からなくて」


 渚は正面を向き、携帯を制服の紺色ブレザーのポケットにしまいながら「そんなの何だって良いじゃない。まったく……」


 渚に叩かれた背中がジンジンと痛い。確かに何と返しても、結果は同じだったかもしれない。


 ――それにしても惚れ薬ねぇ……渚の奴、そんなことを誰にでも話しているのか?


 俺は別にそういうのに興味持つ事を悪いとは思わなねぇけど、中にはそういう事を馬鹿にする人間も居るから、ちょっと心配だ。


「なぁ、渚」

「なに?」

「惚れ薬の話、他の奴にもしてるのか?」


 渚はなぜか何も言わずに俯く──既に誰かに話して嫌なことでもあったのか? 少ししても返答がない。


「――そんな訳ないじゃない。晴彦だけよ」

「え?」


 渚は急に手を合わせ、「ごめん、晴彦。用事思い出したから先に行くね」


「え、あ、うん」

 と、俺が返事した頃には、渚は背を向け走り出していた。


 俺だけか……その言葉に一瞬、ドキッとしてしまったけど、幼馴染だからだよな。俺に気がある訳じゃない。


 あいつは優しくて可愛くて、社交的だから、クラスの中の人気者。小さい頃から一緒に居たからこそ、あいつは高嶺の花だってぐらい分かってる。


 落ち着け……渚とは側に居るだけで幸せなんだから、それ以上は望んじゃ駄目なんだ。



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