熱い想いに燃える青年は頑張れる!〜たとえそっけなくされても〜
「アナベル・フロスティさん! 貴女が好きです! 結婚してください!」
「お断りします」
アナベル・フロスティは今世紀最高の美女と呼ばれている、資産家の娘である。
生まれ持った立ち位置とその優れた容姿ゆえ、嫉妬されることもあるが、異性からの人気は絶大である。
……と言っても、本当に行動に移すところまで至る者は少ないのだけれど。
「ではせめて気持ちを伝えさせてください!」
「結構です」
ちなみに今は、アナベルは、一人の青年からプロポーズされている。
「いや待って! それは酷い!」
「帰ってください」
そんな幸福そのものに見えるアナベルにも悩みはある。義母のことである。義母エリカテリーナは、数年前に父親が再婚した女性。整った容姿と落ち着いた雰囲気を持つ女性なのだが、前妻の子であるアナベルのことを気に入っていない。
エリカテリーナは、ことあるごとにアナベルにいちゃもんをつける。
実父も、エリカテリーナに嫌われることを恐れて、あまり強いことを言えない。そのため、エリカテリーナはやりたい放題。罵るのも嫌がらせをするのも、自由自在なのだ。
「少しくらい聞いてくださいよ! お願い! お願いします!」
「お断りします」
「なぜそんなに頑ななのですか!? ……どうか話を聞いてください。少しで構いませんので」
「プロポーズされている、なんて、明らかにしたくないのです」
アナベルが発した答えに、青年はきょとんとする。
「……何か理由が?」
「そういう話が義母の耳に入ると、また、色々余計なことを言われるのです。それが困るのです。分かっていただけましたか? 分かったなら、帰ってください」
アナベルの言葉を聞いた青年は一旦黙る。唇をぴたりと閉じた。が、数秒の沈黙の後、彼はゆっくりと口を開く。
「あの」
「何でしょうか」
アナベルは青年に冷ややかな視線を注ぐ。
「義理のお母さんに余計なことを言われているのですか? それでいいのですか?」
「関係ありません」
「よければ力になります! 協力させてください!」
「……いい加減にしてください」
「貴女の力になりたいんです!」
アナベルは青年に特別な感情を向けることはなかった。が、青年はそれでも諦めず。アナベルに色々なことを問い、彼女の心に踏み込み続けた。その結果アナベルの心は徐々に開かれていって。やがてアナベルは、義母との事情を青年に打ち明けた。
数ヶ月後。
青年は、色々手回しをして、義母がアナベルを虐めているという事実を世に出した。
義理ではあるが一応娘となっている者に手を出していた。その事実が明らかになったことで、エリカテリーナの評判は急落。近所の人たちや知り合いからはことあるごとにひそひそ話をされるようになり、エリカテリーナは心を病んだ。アナベルを虐めるほどの元気すらなくなり、自室にこもり始めて。あっという間に抜け殻のようになってしまった。
そんなエリカテリーナに、アナベルの父は離婚を告げる。
エリカテリーナを家に置いていると色々言われる、それが耐えられなくなって、アナベルの父は離婚を申し出ることにしたのだ。
そしてアナベルの父とエリカテリーナは離婚することとなる。
アナベルはエリカテリーナの意地悪から解放された。
その後、アナベルは青年のことを信頼するようになり、二人は夫婦となった。
◆終わり◆