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ゴリラ・ザ・ブーメラン

「成る程。少しは……いや、かなり出来るみたいっすね。しかも未完の大器って感じで素晴らしいっす」


 アルラウネを倒した途端に現れた襲撃者は不意打ちをしておきながらも、超強い私によってあっさり防がれる。

 なのに評価側ってのが気に食わないわ。相手を評価しようってんなら正面から来なさいよ、正面から!


「そりゃどーも!」



 ……それでも目の前の女が強いのも事実。認めたくはないけれど私を推し量ろうってだけあるわ。


 走り出した姿勢からの大振りの一撃。腰が入ってないってのに腕に響く衝撃、咄嗟に地面を踏み締めなかったら少し後ろに下がっていたわ。急に襲って来た女の拳を受けたハルバートは軋んだ音を立てていて、足下狙いの蹴りは脚を上げて避け、回転させて柄をわき腹に叩き込もうとしたけれど背後に跳んで避けられる。



 ああ、糞! 上から目線で来られて凄く腹が立つわ。しかも相手にそれだけの力があるのは今の攻防で明らかで……。



 認めるわ。アンタが私よりも格上だってね。


「ありゃ? 自分を見てニマニマしているけれど顔に何か付いてるっすか?」


 私の視線を受けた襲撃者は怪訝そうな顔を見せた後で手鏡を取り出そうとするけれど私が直ぐ前に居るからか止めたわ。

 あ~あ、惜しいわね。私の前で顔を気にしている余裕なんか見せた日にはさっきのお返しをしてあげる所だったのに。

 顔面に拳を叩き込み損ねた事は残念だけれど、私はそれでも笑みを浮かべるのを抑えきれない。



「ええ、ほっぺにコートの襟の金具の跡がクッキリとね。でも、私が笑っているのは別の理由よ。久々に血湧き肉踊る戦いが楽しめそうって高揚感! 強敵の登場だなんて嬉しいじゃない!」


 思えば格上の敵が相手だなんて久々じゃない? レナスとかお兄ちゃんとか私より強い相手は居るけれど、私も向こうも互いに敵として相対するのは暫く無かったし。だって私の成長率って凄いんだもの。レナスを越える日も数年……十年以内ね。


「ああっ! 此奴だ! 此奴だよ、僕が山の中で発見した不審者は!」


「成る程ねぇ。……まあ、急に襲って来た時点で敵である事には間違い無いし、アンタも私を親の敵か何かと間違えたとか無いわよね?」


 一応確認しつつも相手を観察、ドライアドが言っていた変な格好の女に間違い無いでしょうね。

 

 ペンギン(ドラゴン)の頭の形をした帽子に何処か軍服っぽいコート……その下はビキニ。パンドラみたいにすらっとした高身長なんだけれど胸が私と同レベルだから隙間だらけのブッカブカ。

 ……うわぁ。話を聞いた時点じゃ露出狂の苦労人って感じだったんだけれども、こうして相対すると相対したくなかったって言うか、気苦労が重なってストレスでどうにかしちゃった人って感じね。


「所で訊きたいんだけれど……”裸マントのラドゥーン”で良いのかしら?」


「し、失礼っすね! その格好で居たのは生まれてから半年の間だし、周りの格好を見て”あれ? 私、ちょっと肌を見せ過ぎている?”って思ってからは下着の上からエプロンにしたんっすから黒歴史ほじくり返して人を露出狂の痴女みたいに言うのは失礼っす!」


「うわぁ……」


 恥ずかしさを誤魔化す為にか両腕をぶんぶん振り回しながら叫ぶ姿に出て来た言葉はそれだけだった。

 だって裸マントも下着エプロンもそんなに変わらないじゃない。


「惜しいですね。其処は裸にリボンか裸エプロンを挟んでから下着エプロンに移行すべきでした」


 私達を代表する様に……凄くして欲しくないんだけれどレナが数歩前に出て淡々と意見を述べるんだけれど、真顔でどんな事を提案しているのよっ!?


「にゃっ!? 何を言ってるんっすかぁあああっ!? そんな恥ずかしい格好で人前に出る上に神獣を率いて戦うとか正気の沙汰じゃ無いっすよ!?」


 ほら、向こうだって凄く動揺しているし、同じだって思われたら嫌ね。

 当然向こうは拒否した上で拒絶するし、レナはそれで不機嫌っぽくなってるし。


 いや、普通はそんな反応が普通だし、どうして不満そうな顔が出来るのよ、アンタ……。


「……ならば水着コートではなく水着エプロンになさい。そっちの方が肌面積は狭いでしょう。本来人に見せるのは恥ずかしい下着姿をエプロンだけで隠しても一見すれば肌エプロンに見えるという淫靡さ! 水着だから平気だと自分を誤魔化しながらも羞恥心は捨てきれないという背徳感! 水着にコートを羽織るだけなど中途半端も甚だしい!」


 レナは真顔で主張する。凄くとんでもない事を真剣な表情で堂々と。


「な、なんっすか、この痴女は!」


 ほらぁ、敵が顔真っ赤にして魚みたいに口をパクパク動かしながら指先を向けて来ているし、私とプルートは目を合わせる事も出来ないわよ。


「……よねぇ。でも、アンタが言うな。肌マントも下着エプロンも水着コートも自分の意思で着ているんでしょうが」


 だから家族同然のメイドよりも敵の意見を肯定するわ。うん、仕方無いわよね?


 それは兎も角、アンタが言うな、露出狂!!


「え? 水着だったら誰も普通に着るし、その上から何か羽織るのも別に変な事じゃないっすよね? ほら、海辺とか行けば見付かる……」


「うん、そうね。でも此処は山の中だし、部族の服でもないのにそんな服装で出歩くとか正直言って……」


「変……っすか? いや、サマエルにはこれなら問題無いとか言われてるし……」


 私の言葉に信じられないって感じで口元に手を当てて目が泳いでいる。半信半疑なのが出会ってから一番腹が立つわ~。


「変」


「変ですね」


「だからスタンダードな裸エプロンか寧ろ全裸をお勧めします」


「レナは黙ってて。……まあ、私から言わせて貰う事が一つ有るわ」


「……何っすか?」


 もうレナの発言のせいで限界に達しているラドゥーンは私の言葉に素直に首を傾げる。この短時間の会話で疲れたのか憔悴した顔で私がハルバートを持っていないのも有るんだろうけれど警戒した様子も無いし、私だって安堵して近付いて行くなり彼女の肩に左手を置いた。



「主として彼奴の代わりに謝罪するわ。痴女なの、ごめんね?」


「は、はあ。まあ、私も今になって思えばこの姿も露出過多かとは思うし……」




「それはそうと……一撃は一撃だから」


「ふべっ!?」


 向こうだって不意打ちして来たんだから私も不意打ち。何の警戒もしていなかったラドゥーンの腹に拳を叩き込んで全力で振り抜く。私と違ってラドゥーンは地面を踏みしめて堪える事無く飛んで行った。


「はんっ! 甘いのよ! ……にしても矢っ張り強いわね」


 不意打ちを受けた時にも感じたけれど、殴り飛ばした事でそれは確信に変わる。あの女、普通に強いだけじゃなくて……。



「ラドゥーン。アンタ……凄く重いわね! 知り合いのデブの誰よりも重いわっ!」


 予想以上に拳に掛かった負担。力任せに殴り飛ばしたけれど、下手したら腕を痛めていたわ。私と肉付きでは大して変わらないのに体重は数十倍ってもんじゃない。


「……アドヴェント”」


 あの体重からの攻撃なんてどれだけの威力だって話よ。さっきは警戒されない為に使わなかったけれど厄介だって分かったからには即座に強化魔法を使わせて貰う。


「……お、重いって! 重いってどういう意味っすかぁ!! 自分はデブじゃないし、絶対脂肪だって少ないんっすから!」


「じゃあ鍛えてるからじゃない? 多分頭の中まで筋肉なのよ。だってアンタって明らかに馬鹿じゃない!」


 私に殴り飛ばされて地面を削りながら岩に激突して止まったラドゥーンを指差して言ってやる。ふふん! この貧乳脳筋ゴリラ!



「……いや、初対面っすけれども何故かアンタには言われたくない気がするっす」


「何でよ!?」

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