時には大胆に(割と普段から)
この状況、一体どうするべきだろう?
目の前には水浴びの最中だったらしく当然だけれど全裸のアリアさんがキョトンとした顔で僕を見ている。
濡れた黒髪が肌に張り付き、水滴が(リアスと違って)膨らみのある胸を伝い、括れた腰回りから小さめのお尻へと行き、最後に池へと戻って行く・・・・・・って、何を堂々と見ているんだ、僕は!?
普段からスタイルが良いとは思っていたけれど、こうやって何も着ていない姿だとハッキリと分かってしまう。って、そうじゃなくって、見ちゃ駄目だって!
「ご、ごめん! 直ぐにあっちに行くから・・・・・・」
直ぐに背中を向ければポチとタマと目が合った。さっきまで水浴びでバチャバチャと騒いでいたのに今は大人しくしていて、二匹同時に僕とアリアさんを真っ直ぐ見詰めて首を傾げる。
「キューイ?」
「ピー?」
タマの方は何を言っているのか分かるのはアンリだけだけど、多分ポチと同じ事を言ってるんだろうなぁ。
即ち”何で仲良しなのにお話ししないの?”だ。
瞑らな瞳が二匹揃ってキュートです。純真な心を瞳が現して、今直ぐにでも撫で回したいし、顔を羽毛に埋めて吸いたい衝動をグッと堪える。
耐えろ。耐えるんだよ、ロノス。
「えっとね、人間には色々と状況って物が大切になってだね」
「キューイ?」
あっ、うん。グリフォンのポチには少し難しい話だったね。だって服とか着ないし、今の君が一番可愛いから精々リボンとかしか着けさせないし。
ああ、凄く可愛い。ポチもタマも一目で心を奪われるレベルで可愛さが天元突破だよ……。
そう、そして”一目見れば”って言えばアリアさんだ。幾ら友達で……告白した相手だって言っても傷付いちゃっただろうし、早くこの場を去ってから落ち着いた頃に謝ろう。
もう会話すら嫌がる可能性すら有るし、そうだと凄く寂しい。家の格が違い過ぎても……いや、家の差が有って卒業後に関わりが薄いだろうからこそ気兼ね無しに友達付き合いを始めて、今じゃそんなの関係無しに僕の大切な友人なんだ。
普段の何気に多い接触の機会のシーンが脳裏に焼き付いた全裸の姿に置き換わりそうなのを必死に振り払う。駄目だ、忘れろ。
そんな風に言い聞かせるもアンリから移った匂いの影響なのか思考がそっちの方に向かって大暴走。だって年頃の男の子だし、媚薬効果のある香りを女の子を背負いながら嗅ぎ続けた後にこれなんだから仕方無いんだけれど、友達をそんな目で見るのはちょっと駄目だ。……いや、凄く駄目だね。
「えっと、ロノスさん」
慌てて去る途中、背後から聞こえて来たのは落ち着いた感じで普段通りのアリアさんの声。演技の様子も無いし、どうやら軽蔑されて会話すら嫌がるって事態にはならないみたいで一安心。
どうやら丸く収まりそうだ。
……そもそも未婚の女性、それも貴族の裸を事故であっても見てしまうのは結構な大事だからね。クヴァイル家とルメス家なら内々に収められる感じだけれど、そんなやり方は嫌だし、今の彼女には王女の可能性が浮上している。
ゲームではルートによって認定されるかどうかが変わったし、現実でも状況から変化するんだろうけれど、個人間で穏便に済ませるのが一番だ。
「大丈夫ですよ。私は平気ですし、事故だって分かっています。私だって後先考えずに水浴びなんてしてましたし……」
「そう? でも、本当にゴメンね? この埋め合わせは今度……アリアさん? 水音からして近付いてるよね? なんで?」
この状況、遠ざかるなら分かる。身を隠す岩だって有るし、服だって向こうに置いてあるだろう。
だけど聞こえて来る音はアリアさんの接近を告げていて、ポチの瞳にもアリアさんが近付く姿が映ってて……。
「埋め合わせなら今して欲しいです。……今日は朝からロノスさんに会えずに寂しかったんですよ? だから少しロノスさんを補給させて下さいね?」
「アリアさん!?」
背後から回される細い両腕、至近距離から聞こえる声。そして押し当てられる結構な重量の一対の物体。
僕は今、池の中で裸のアリアさんに抱き付かれていた。
……いや、アリアさんってレナみたいなタイプじゃなかったし、エッチな小説も普通の恋愛小説だって勘違いして読んでいただけで……。
「こんな事して軽蔑しちゃいました? 嫌いになりました? だったら正直に言って下さい。でも、そうでないなら……まるで恋人みたいな今の状況をもう少しだけ味わいたいです」
「嫌いになったり軽蔑したりはしないけれど……アリアさんは平気なの? 幾ら告白した相手でも……」
「告白した相手だから平気です。じゃあ、もう少しだけ……」」
「あっ、うん。……アリアさんが構わないなら別に良いけれど」
「良かったです。ロノスさん、本当に私は平気ですからね? ほら、好きだって伝えていますし、こういう状況に至るって想定もしていますから。それにしても……ロノスさんの背中は大きいですね」
僕に抱き付く力は強くなって、胸だけでなく顔まで押し当てられるのを感じてしまえば心臓だって高鳴るし、どうしても意識しちゃうよね。
目の前には自分と友人のペット達で、背後には自分の事が好きな女の子。……本人には内緒だけれどパンドラが側室候補に挙げている子だ。
「ロノスさん、ちょっと意識しています? 良かったぁ。全然反応が無かったらショックでしたから。ほら、私って結構有る方ですし、多分大丈夫だとは思っていたんですけれど」
背後から聞こえる彼女の声は僕をからかっていたけれども彼女の鼓動だって僕に伝わって来る。普段の作った表情と違ってこれは偽れない物だし……。
「う、うん、まあ、アリアさんにこんな事されたら意識はするよ……あれ? 何か嫌な予感が。何でだろう?」
目の毒かつ目の保養になるアクシデントに続いて起きた予想外の事態に混乱してか何か忘れている気がするんだけれど、背中に裸の女の子が抱き付いているって状況が僕の思考を邪魔して来るんだ。
えっと、本当に何だっけ?
「もー! こんな状況で”嫌な予感がする”って酷いですよ? 女の子が折角大胆になっているんですから」
「ご、ごめん。えっと、アリアさん? 流石にちょっと離れない? 少し恥ずかしいし、此処にはモンスター退治に来たんだ。仕事を終わらせて報告を済ませないと明後日の舞踏会にだって間に合わないし」
「あっ! 私もその為に来たんでした。じゃあ、二人で力を合わせて……あれ?」
「二人じゃなくて実は三人なんだ。実はアンリも来ていてさ。ほら、タマだって居るでしょ? ……アリアさん?」
もう色々と不味い状態だったし、僕の言葉にアリアさんが離れてくれた事で一安心したのも束の間、今度は腕に抱き付かれるし、何か様子が妙だ。
極力首から下は見ないようにと気を付けながら、それでも至近距離で一瞬見えちゃった物にドギマギしながら顔を見ればちょっと赤いし息も荒くて、まさか風邪でも引いたのかと思ったんだけれど、僕の体に残っていた移り香が理由を教えてくれた。
忘れていた物も、嫌な予感の理由もそれだったって事をね。
「ロノスさん……ムラムラしちゃいました」
「少し落ち着こうかっ!?」
「……嫌です。こんな状況に持って行くのは難しいですから。だって何時も他の誰かが側に居ますし。……それともエッチな女の子は嫌いですか?」
潤んだ瞳での上目遣いに思わずドキッとさせられて、再び視線を谷間に向けてしまう。……この香りには個人差が有るって聞いた事が。
……いや、大き過ぎるでしょ?
「私、ロノスさんになら何をされても平気ですよ? だから……今だけでも恋人にして欲しいです」
そう言うなりアリアさんは僕の正面に回り込み、抵抗する暇も無く唇を近付けて来た……。




