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そう簡単にはいかないよ

 風を受け、上空からの景色を楽しみながらの遊覧飛行はポチに乗った時の醍醐味だ。

 街の建物が豆粒に見える程の高い場所ならば少し寒いのだけれども、僕の着ているコートも二人が着ているローブも魔法の力が込められているから寒さを少しも感じない快適な旅。


 ポチは速度をグングン上げて、景色が早送りみたいに後ろに飛んで行く様は凄く見応えが有るし、向かい風だって賢いこの子は魔法でどうとでもしてくれるから初めて乗るアリアさんでも十分楽しんで貰える……と思ったんだけれど。


「きゃぁあああああああああっ!? 高いっ!? 速いっ!?」


 う~ん、ジェットコースターなんて物が無いこの世界じゃ流石に刺激が強すぎるのかな?

 アリアさんは叫び声を上げて身を竦ませる。

 ああ、遊園地に行った時、観覧車に乗ったリアスの前世もこんな感じだったっけ、懐かしいな。

 

「大丈夫。僕が傍に居るよ」


 なら僕がするのは同じ事だ。

 手綱を握りながらもアリアさんの手に自分の手を添えて優しくささやいて落ち着かせる。

 良かった、静かになって。


「キュイ?」


「うん、それは今度ね」




「いぃぃぃやっほぉおおおおおおおー!!!!」


 風の音さえかき消す程に明るい声を上げながらリアスが空を自由自在に飛び回る。

 僕も何時もは急降下からの急上昇や連続ループに大回転、曲芸飛行を楽しんでいるし、ポチも今日は普通に飛ぶ事に違和感を覚えて僕の方に頭を向けていた。


 今は搭乗初心者なアリアさんだけれど、あのスリルは最高に気持ちが良いから何時かは体験させてあげたいな。

 流石に今は高い所を高速で飛ぶのが怖いみたいだし、せめて後ろに乗せてあげれば良かったんだけれど揺れが大きいから経験者が後ろ……あっ! しまった!


「ポチ、一旦着陸!」


「キュイ!」


 了解とばかりに一度鳴くなりポチは急角度で地面に向かう。

 まるで落下するみたいな迫力に僕は高揚するけれどアリアさんは悲鳴を上げる余裕すら無いみたいだし、万が一にも落ちない様に彼女の体を軽く押さえながらだろうしポチに速度を落として欲しいと伝える。


「キュイ?」


 何時もはもっと迫力を出しているのにどうしてだろうと疑問を声に出すポチだけれど徐々に速度を殺し、最後はゆっくりと地面に降り立った。


「ありがとう、ポチ。……えっと、最初に謝っておくね。ごめん、アリアさん。ポチは空を飛ぶから別に前に乗せる必要が無かった。後ろに乗って僕の背中を見ていて」


「は、はい。でも、その前に少し休憩を……」


 安心した様子でポチの背から降りるなりヘナヘナと崩れ落ちたアリアさん。

 うーん、リアスが逞しいだけで普通の女の子はこんな物なのかな?


「休憩? だったらトランプでもする? 今日は手加減無しよ、お兄様!」


「アリアさんは余裕が無いし、休ませてあげようよ。帰ったら僕とレナで相手してあげるからさ」


「絶対よ! 約束だからね!」


 アリアさんを心配した様子で降りて来たリアスも合流し、寝そべったポチに持たれ掛かって座り込む。


 さて、後で拗ねたら困るから、ちゃんと手加減してあげないとね。

 レナと再会した日もトランプを三人でしたんだけれど、あの時は大変だったよ。



「……次は本気出す!」


「今までのは練習よ!」


「ふっふっふ。もうお遊びは終わり…いや、もう寝ようって意味じゃなくて……」


 ああ、僕の妹は負けず嫌いな所が可愛いし、誇り高いからわざと負けるのも嫌いなんだよね。

 リアスが楽しい上機嫌でいられるかどうかはレナと僕の連携が鍵だ!




「……私、本当に足手纏いですよね。お二人とは全然違って駄目駄目で……」


 ポチのフカフカな最高の羽布団の誘惑に負けて半分寝ていた時、アリアさんは空を見上げて呟いた。

 僕達が何を言っても、自分が絡まれたのが騒動の原因だと思うのは今までの人生の影響かな?


 何か話したいんじゃないかって思ったからこうして休んでいるんだけれど、どうやら正解だったらしいね。

 抱えている物を全て話せとは言わないけれど、少しは仲良くなったのだから話してスッキリ出来る物は話して欲しい。

 最初は利用する気が有ったのに、直ぐこうやって情が移ってしまうのは貴族として苦労しそうだよね、我ながらさ。


「……言っておくけれど私達が天才なのは認めるけれど、凄く努力だってしてるのよ? 私達の師匠ったら鬼なんだから。正直、お祖父様の軍の新米への訓練よりも厳しいのを十歳から受けたわ」


「戦場での仲間なら有能かどうかを気にするのは当然だけれど、別にそうじゃないなら別に良いんじゃないの? ……でも、君がそれを気にするのなら……そうだ!」


 僕は思い付いた事をそっとリアスに耳打ちすると、リアスもそれが気に入ったのか笑顔で親指を立てて笑う。

 

「リアス、もうちょっと作法のお勉強しようね」


「……お兄様の鬼」


 やれやれ、アリアさんを励ましている最中にお説教なんかしちゃったから拗ねちゃったよ。

 頬を膨らませてそっぽを向く妹に苦笑しつつ、僕はアリアさんの肩に手を置いて目を見詰めて言った。


「君が自分を僕達と関わる価値が無いと思うのなら、これから価値を高めれば良いのさ。家の地位も、持って生まれた属性も、そんな自分ではどうしようもないのに足を引っ張る事すらねじ伏せる程に凄くなって、それらを理由にした陰口が叩けない位に功績を挙げれば良い。君なら出来るって僕は思うよ。……勘だけど」


「か、勘?」


 今更だけれど会って間もない女の子にベタベタ触るのって失礼なんじゃないかな? 

 ……ちょっと自己嫌悪に陥っている間にもアリアさんの表情はコロコロ変わり、肩に触れられて最初は驚いていたのが直ぐに恥ずかしがり、僕の励ましを聞いたらキョトンとした後にクスクス可笑しそうに笑い出した。


「……ふふふ。そうですね。私、信じてみます。未だ自分には自信が無いですけれど、私なら可能だって言って下さったロノスさんの勘を信じたいです」


「うん、良かったよ、笑ってくれて。僕、女の子は笑ってる顔の時が一番好きだからね」


 レナが僕を誘惑する冗談を口にする時の笑顔? あれは捕食者的なのだから別物だよ。


 それにしても表情をコロコロ変える姿は見ていて飽きないし、ちょっと魅力的にも思える。

 流石は乙女ゲームの主人公、侮れないや。


「じゃあ、行こうか」


「はい!」


 僕が先にポチの背に乗ってアリアさんに手を差し出せば、少し恥ずかしがってから手を取った彼女もポチの背に飛び乗り、そして勢い余って反対側に落ちちゃった。


「……大丈夫?」


 繋いだ手は滑って離れ、咄嗟にアリアさんの方を見た僕は直ぐ様別方向を向く。

 だってさ、ひっくり返ったアリアさんのローブの裾も下に着ているスカートも見事にめくれちゃっていて……一瞬だけ見えちゃったんだ。


「ちょっと大丈夫? ほら、お兄様はもう少し向こう見ててよ」


「な、何とか怪我も有りません……」


 僕が顔を背けた間にリアスが助け起こしたらしく、今度は慎重な様子で乗る音が背後から聞こえて来る。

 忘れよう、今のは絶対忘れよう!


「あ、あの、ロノスさん。今、私のパ……い、いえ、何でも有りません……」


「そそそ、そう! だったら先に急ごうか!」


 二人して声が上擦っているし、互いに相手が何か見たのか、何を言いたいのか嫌でも察してしまったんだ。

 他の家は兎も角、僕は使用人の女の子にエッチな要求はしないし、少しドジだから偶に見えちゃうリアスのは妹のなんかに一切興味が無いから僕はこういった事に耐性が殆ど無い。

 これじゃあレナがあんな冗談を言って来る筈だよ。


「キューイ?」


「……うん、大丈夫」


「キュイ!」


 こんな時こそポチが頼りになる。

 純真なこの子が僕の不審な様子に心配そうに鳴いて、それが僕を落ち着かせた。

 大丈夫だ、耐えられる……多分。


「じゃあ、しっかり掴まっていてね」


「はい!」


 さっきまでが余程怖かったのかアリアさんは僕の体にしっかりと掴まって体を密着させる。

 多分本人は無自覚だし、怖さで冷静じゃないんだろうね……。



 胸、凄く押し当てられているや……。


 アリアさんの胸はリアスとは段違いに……。


「……お兄様?」


 何でもないよっ!?


宣伝漫画下書きが届きました

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