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占い師

「おや、また来たのですね。そんなに他人の評価が気になりますか?」


 乙女ゲーム”魔女の楽園”で好感度を教えてくれるキャラである占い師はそんなセリフを最初に口にしていたのを覚えている。

 お姉ちゃんが何度も話し掛けてるものだから隣に座ってテレビ画面を見ていた私だって同じ感想を抱いたのよね。


 その占い師の名前は”プルート”。隠された数値として彼女の好感度も存在して、イベントの選択肢次第では主人公に強力な魔法を教えてくれたり、特定のイベントの最中だけ仲間になってくれる”闇属性”の使い手よ。


 ゲーム中では眼帯の下の傷とか過去とか色々とほのめかされるだけだったけれど、この世界での十六年の人生経験が私に何となく予想させる。

 忌み嫌われる属性を持って生まれた彼女がどんな仕打ちを受けて育ったのか。



「同情は結構ですよ」


「……矢っ張り心を読まれてる」


 それは闇属性の魔法の力なのか(魔法って結構発想次第な所が有るし、無理にでもこじつけたら使えるのかしら?)、それとも全く別の力なのかは知らないけれど、突然姿を見せた彼女は私の心を見透かしているみたいだった。


 さっきも二十代前半って所を念押ししていたわよね。もしかしてギリギリ前半?


「話を続けましょうか。ええ、私の年齢についてこの場で思考する意義は皆無ですし、生涯しないで結構です。そんな事よりもこれを御覧下さい」


「あっ、矢っ張り気にして……って、それはクヴァイル家の紋章!? それに光ってるって事は……」


 今度はニッコリ笑いながらも威圧感を発するプルートが見せたのは実家の家紋が描かれた腕章。ちょっと特別な品で、お祖父様が許可を出した相手が着けた時だけ光る身分証明書の代わりの品。


 それを持ってるって事は彼女がパンドラが言ってたスカウトした人材で……。


「ええ、その通り……」


「だったら探す時間損したっ!」


「……え、ええ、その通り。……本当に読みにくい方ですね」


 あれ? 何か様子が変ね? ……でも、ちょっと気になった事が。


「パンドラから時期しょうしょ……そーそ……」


「時期尚早、ですね。パンドラさんは貴女がその様に口にしたから顔合わせを遅らせたと聞いていますが? えっと、占い師のプルートさんでしたよね?」


「レナ?」


 急に話に割って入ったレナは何処か問い詰める感じで少なくとも友好的って感じじゃない。

 戦いが終わった途端に急に現れたからか、私の心を読んだからか、仲の悪いパンドラがスカウトした上に顔合わせを遅らせたからか、ちょっと止めに入れる様子じゃないけれど、事によっては私が止めないと。


 だってお兄ちゃんが居ないなら、この場で二人の主は私しか居ないもの。幾らレナでも贔屓は……多分しないわ。


 固唾を飲んで見守る中、悪い物でも拾って食べたのか何時になく真剣な表情を浮かべたレナは微笑むプルートに向かって進み出る。


 やばっ!? まさか初手から暴力に訴える気じゃ……。


 私は慌てて間に入ろうとするけれど間に合いそうになくって、レナは真剣な表情を浮かべたまま口を開いた。



「若様の性癖を詳しく教えて下さい」


「尻よりは胸、慎ましいよりは大きい方が好みですね。それと全脱ぎよりは半裸や着崩した方が」


 ……あれぇ? 何か変な展開。でも止めた方がいい感じ。


「今後とも宜しくお願いします。私はレナ。何かあれば何なりと」


 私の心配を余所にレナはプルートの手を強く握って頼もしい表情。

 だけど理由は最低よ。


「……いや、何なのよ、この流れは。レナはそんな事訊かない! プルートも教えない! お兄ちゃんがかわいそうでしょっ!? て言うか、そんなの知って何する気!?」


「答えた方が信頼を得られると分かっていたので。それに姫様は私のこの格好を知っているから、私が誰か分かって頂きやすかったでしょう?」


 ……確かに。改めてプルートの姿を見て私は納得した。だってクヴァイル家に就職したのに服装が服装なのだもの。

 

 ボロボロのフード付きローブ。右目を眼帯で隠し、左目は禍々しい赤。肌は病的に白いという、いかにも怪しげな女性で、フードから覗く髪の色は黒。


 とても貴族の家臣には見えないけれど、ゲームそのままの服装だったから直ぐに誰かは分かったわ。


「答えを貰った方がエロい展開に持ち込めると分かっていたので。どんな格好かは若様の秘蔵の本で分かっていましたが、詳細は知っていた方が良いかと」


「……アンタ達ねぇ。私がツッコミに回るなんて。お兄様さえ居れば……」


 プルートは少し理解したけれど、レナに関しては駄目よ、絶対。


「そうですね。ツッコミは若様のお役目です。二つの意味で」


「二つ?」


 意味不明だわ。


「姫様には未だ早かったらしいですね。若様の口出しの結果ですが。……ちょっと過保護なのでは?」


 え? 本当にどういう意味なの?


 私は気になって尋ねるけれどはぐらかされるばかりでモヤモヤするし、こうなったら山で暴れてスッキリしないと。

 だって、お出かけしたのにイライラしながら帰るってレディとしてどうなのかってはなしじゃない?


「いえ、暴れるという選択肢自体がどうかと思いますが、山には行くべきかと」


「……そうなの?」


「姫様、まさかとは思いますが、”そうなの”とは”山に行くべき”に対してですね? 姫様の事だから違いますね、絶対に」


「レナ、ボーナス査定にマイナス付けとくわね。それでプルート、どうして山に行くべきなのよ?」


 さっきから気になっていたんだけれど、プルートの占いって好感度とか性癖は分かるのに時期尚早の理由を言わなかったり、私に対して”読みにくい”って言ったりと変なのよね。


 うーん、この質問で分かるかしら? 私やレナじゃ無理でもお兄ちゃんなら話を聞いたら分かるでしょうね。



「いえ、山に行くべき理由は全く見当も付きません」


「……へ?」


「凄腕の占い師なのでは?」


「ええ、その通り。山に行くべきなのは間違い有りません。しかし、どの様な理由なのか、行った先で何をすべきなのかは全然なのです」


 いやいや、一体どういう事?


 まさかの返答に私もレナも混乱するばかり。説明して貰う必要が有るわ。


「では、少し難しくなりますが……」


「いえ、姫様にも分かりやすくでお願いします」


「……それは難しい注文ですね」


 ……よし。パンドラに言って二人のボーナス査定を厳しくして貰おう。





「そうですね。先ず私の占いですが物語の結末を教えて貰うのと似ています。私が知りたいと思った事に対し、”何がどうなってこうなった”それが頭に浮かぶのですが、教えてくれる相手がうろ覚えなので途切れ途切れであり、その部分は占えない、その様な物です」


 折角なのでプルートも一緒に山に向かう事にして徐々に花の数が増えて行く道を進む道中、占いの力について教えて貰っていたわ。

 うん、半分は理解出来た気がするわね。


「それで性癖の方は?」


「……心についてですが、こっちの方は未来についてよりも鮮明に分かるのですよ。例えるならば小説の登場人物紹介が詳細に描かれている感じでしょうか? 後は登場人物同士の相関図みたいな物を目の前の相手を通して関わっている相手の分まで読み解く事で、どれだけ好かれているか等を。……ですが特別な力の影響なのか姫様や若様のは分かり難くて……」


「ふーん。そうなのね」


「ええ、ですから私を捜している誰かが居る程度しか分からず、その時にスカウトを受けたのでクヴァイル家に仕える事にしたまでです。御給金の方も良かったですし。……路地裏の占い師の収入とか糞ですから」


 最後にポツリと漏らしたプルートの顔は切実な感じで、それ以上は言及しなかったわ。


 まあ、こっちの心を全部読まれないのは助かったわね。未来に関しては残念だけれど……。




「ああ、でも同じ闇の使い手の未来ならお二人に比べれば微妙な差ですが分かります。今日……殿方に裸を見られます」


 ええっ!? あの純情っぽいけれど実はムッツリなアリアがっ!?

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