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運命の日は近付く

『……えますか? 私の声が聞こえますか? 聖女よ! 神に選ばれ世界の頂点に立つべき存在よ!』


 ……ああ、これはきっと夢だ。月明かりが照らす中庭で、舞踏会の為に着飾った僕とリアスの頭に突如響く声。曰わく”光の力の使い手は世界を統べるべき”、そんな事を多くの賞賛と共に向けられてその気になるリアスに対して僕は疑念を抱く発言を向けるんだけれども言っても聞かず、そのまま指示されるままに動く事になる。


「あら、流石は神様ね。私の価値が分かってるじゃないの」


「ちょっ!? ちょっと待ちなよ、リアス! 何か怪しいって思わないのっ!?」


 頭に突然響いた声なんて怪しい物だけれど、何故か本当に神様からのお告げだってのは何となく理解させられていた。

 その上で怪しいと思うんだけれどリアスは鵜呑みにしちゃってて、止めようとするも睨まれる。


「……ロノスの癖に私に意見する気なの? 私は光の使い手よ? 聖女の再来よ? 時なんて訳の分からない力のロノスとは全然違うの! だから貴方は私の側で言う事だけ聞いてりゃ良いのよ!」


「で、でも……」


「あー、もー! 五月蠅い五月蠅い! ちゃんと反論も出来ないのに口を出して来るなんて情けないわ! ……レナスとは全然違うじゃない」


「リアス……」


 両親の事は殆ど知らず、懐いていた乳母は幼い頃に自分達を守って死んでしまった。

 それからリアスを待っていたのは自分を褒め称えて、叱ったり意見したりしないイエスマンな人達ばかり。


 誰も彼も宿す力ばかりを見ていて、リアス自信を求めはしない。


 そんな妹が哀れで、利用する気で近寄る人達と違って最後まで本当の味方で居てあげたくて、だから遠ざけられない為に強く出られなかったんだ。


 それが駄目な事だって分かっていても、妹を直ぐ近くで守るにはそれしかないって自分に言い聞かせて。


 妹は妹で兄はどれだけ暴言を吐いても側に居てくれて、力を失っても絶対に味方を止めないと分かっているからこそ高圧的な態度に出てしまう。

 本当は叱って欲しいと心の何処かで願いながら。


 リアスとロノス、ゲームにおいて悪役であり、最後はリュキの悪心の力を吸収してラストダンジョンで待ち受ける敵。

 その実態は互いを想っていてもすれ違い、それが破滅へと繋がってしまっただけの二人。

 もし宿す力が普通ならば、もう少し理解する為に歩み寄って居れば、破滅的な最期は向かえなかったのに……。


「兎に角、今後は指示通りに動くわよ! あの魔女だって追い落とせる所まで追い落としてやる。ロノス、ちゃんと手伝ったら将来的に今より上の立場をあげる。でも、裏切ったらあの商人の女にも何かあるって覚悟しなさい!」


 ……ああ、駄目だ。早く目覚めなくちゃ。


 可愛い妹がこんな事を口にする姿なんて見たくない。

 だってさ、リアスは何も悪くない。ちゃんと心を守ってあげられなかった僕が悪いんだから……。



 これはゲームでの一場面。主人公に恥を掻かせる為に舞踏会の会場で主人公のパートナーをダンスに誘い、断られて逆に恥を掻かされ会場を飛び出した先での出来事。


 そして、これが破滅への第一歩であり、僕達が絶対に避けるべき未来。


「……いよいよ明後日か」


 夢から目覚め、目蓋越しに日光を感じながら僕は呟く。幾らゲームと違ってリアスが良い子で頭だって……まあ、それ程悪くないと言えない事もないんじゃないかなぁ、多分、だし、普通だったら騙されない筈だ。

 でも、相手の正体は闇の神テュラ。普通の相手じゃないって運命の日が近付く毎に不安が増して来る。でも、後込みも迷いもしている暇は僕には無い。


 だって、一度死んで永遠にお別れだった筈の妹と再び兄妹として転生出来たんだから……。


「よし! さっさと起きて……あれぇ?」


 隣に感じる誰かの気配。最初に思い当たったのは夜鶴か夜の誰か、もしくはレナだ。……大穴でパンドラかな?


 僕が女馴れしてないにも程があるからって始まる事になった特訓。最初の一回は水着姿で身体を洗ってくれたりタオルで普段より露出を下げて混浴したりだったけれど、これは恐らく二回目だ。


 ……密着してない所からして夜鶴だな。他だったら僕の頭を胸元に押しつけるみたいにして抱いて寝る位しているだろうし、手を握るだけの現状から考えて……。


 目を開けずに落ち着くまで待ち、ちょっとどんな姿か想像してみる。正式に特訓が決まる前はパンドラが無理をして下着姿で潜り込んで居たけれど、夜鶴には絶対に無理だ。

 精々が普段の露出の多い忍び装束に網タイツってエッチな服装が関の山。


「……起きるか」


 服が乱れていたら嬉しい、とか、寝ぼけた振りで胸をちょっとだけ触っても良いんじゃって欲望が頭を掠めるけれど押し殺して横に居る誰かを見ようとすれば頭に向かって裏拳が振るわれる。


 咄嗟に身体をひねって回避、ギリギリだけれど避ける事に成功した。


「……なんでリアスが? いや、そうか……」


 さっき見ていた夢を思い出せばリアスが僕のベッドに潜り込んだ理由が直ぐに分かった。

 別の大陸でお仕事していだけれど聖王国に戻るからって顔を見せに来たレナス、僕達の乳母が昨日屋敷を出たんだった。


「元々直帰する所を一旦顔を見に来たんだからね。リアスが駄々を捏ねても延期には出来なかったけれど……寂しかったんだろうなぁ」


 記憶が戻る前から寂しがり屋だったのに、八歳の時に同じ歳まで生きた前世の記憶が戻った事で得た家族を失った喪失感。

 それを僕の記憶が蘇る十歳までの二年間、ずっと耐えていたんだ。

 今の自分の家族は確かに居るけれど両親は居なくって、前世の自分が前世の家族を求める。


 今でも自分が前世での死を受け入れられている事が不思議なのに、僕と違ってリアスは一人で耐えて来た。


 だからか心を許した相手にはベッタリだし、許していない相手が許した相手と仲良くするのは少し嫉妬しちゃうのは困った物だけれどさ。

 特に友達であるチェルシーが嫁いで行っちゃう先のフリートには僕の友達だから少しは態度を和らげて欲しいけどさ。


「あっ、今日は特訓を休んで身体を労る日だった。僕は目が覚めたけど……リアスはもう少し寝かせてあげようか」


 寝相が凄く悪いから下手に近寄れないってのも有るけれど、幸せそうに寝ている可愛い妹を起こすのは忍びなく、僕は音を立てない様にして椅子に座る。目が覚めた時、一人だったらリアスが心細いだろうから。



「……主、少々お耳に入れたい事が」


 背後から一切の気配を感じさせず夜鶴が告げる。振り向かなくても跪いて一切の感情を捨て去った表情をしているのは分かる。この声は少女らしい人格を一切捨てた本当の仕事時の顔をしている証拠だ。この時、彼女は文字通り血も涙もない冷徹な刃と化すんだ。


「リアスが居るけれど……熟睡しているから構わないか。それで何だい? 誰か消す必要でも生じたのなら、君に裁量権を与えていた筈だけど?」


 僕も今は個人ではなく、クヴァイル家の次期当主としての仮面を被り、情け容赦を捨て去った。


「はっ! ネペンテス商会に関与し助力していた者の内、数名が抹殺条件を満たしましたので昨晩風呂で溺れ死んで貰いました」


「うたた寝でもしてたのかな? 怖い怖い」


「それともう一つ……帝国に忍び込ませた夜が得た情報ですが、どうやら皇帝は娘を聖王国に嫁がせる予定らしく、重臣達と打ち合わせをしていました」


「……娘? 皇帝の子供は娘が一人だった筈だけど? 表向きはってのが付くけどさ」


 少し思い当たる節と言えば先日出会った少女であり、何故か初対面なのに心を乱されたネーシャの事。


「……ちょっと不愉快かな?」


 幾つかの意味を込めてそう呟いた……。






(これは”消せ”という命令? いや、違う? 保留しておこう)



応援お待ちしています 感想とか評価がくればモチベーションが違うので


絵とか新しいの欲しい

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