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今後の方針

 神獣将サマエルとの邂逅とその道具だろう道化仮面の男との戦いから数日後、僕は相変わらず忙しい日々を送って居たんだ。

 いやね、”為政者に完全な休日は御座いません”って感じでパンドラが仕事とか勉強課題をどんどん持って来るし、”無理”だとか”休みたい”とか彼女の仕事量を考えれば言えないし、言ったら駄目だ。


 僕は誰だ? ロノス・クヴァイル、クヴァイル家の次期当主で、継ぐべき家はお祖父様の計画で将来的に分割する予定だけれども、聖王国では屈指の力を持っていて影響力の大きさは陛下にも匹敵する。

 まあ、分割するのは確かだけれど、それは僕の次の世代だし、パンドラに政務の殆どの権利を任せるとは言っても最終的な責任は僕に有るし、有るべきだ。


「ふぅ~! 疲れた~!」


 今日は王国で発生した山崩れの処理、本来は土属性の魔法でどうにかする案件なんだけれど、規模が大きく時間が掛かるからって僕に仕事の依頼が回って来た。

 まあ、結構重要な道で聖王国の商人にとっても必要な道だったし別に良いんだけれど、山崩れの時間を戻しても、山崩れによって生息域が変わったモンスターが襲って来たのには参った


 鋼鉄の毛皮を持つ大猪”メタルボア”の群れ、ゲームではフリートの好感度を上げたら起きるイベントで戦う事になった中盤のボスだったけれど、まさかゲームではラスボスだった僕が倒す事になるなんてさ。


「まあ、襲って来たんだから仕方無いし、主人公が行かない間は存在せずに被害も出さないって事も無いんだから別に良いけどさ。友達の実家だし、大公家に恩を売れたのは家への利点だし。それにしても……」


 屋敷の大浴場で天井を見上げながら一人呟く。風呂に入る前に体を洗うんだけれど、今日は洗う係の人が遅れているとかで待つ事になっていた。


「体なら自分で洗えるし、一人でゆっくりとしたいんだけど、貴族ってのは此処が面倒だよなあ。さて、ちょっと確認。天井から滴り落ちる水の時間を停止……よし。使用割合が減った気がする」


 此処最近の戦闘によって結構レベルが上がった感じだ。……ステイタス画面なんて存在しないから確認は出来ないし、”戦ってたら戦闘中の興奮によって眠っていた力を引き出せる様になる”とかの類なのかも知れないけれど、こうやって戦いによって力を付けられるのは本当に助かる。


 まあ、逆を言えば時間を与えただけ敵側も強くなって行くって事だし、悠長に時間を掛けて鍛えるって訳には行かないのは凄く厄介だけどさ。

 ……中盤のボスに挑む為にレベリングを繰り返していたら相手も鍛えて終盤レベルになってたとか冗談にすらならない。

 

「ゲームでは学園生活内でラスボス戦まで行ったけれど、時間は流れるのを待ってくれない事を考えれば猶予はもっと少ないと考えるべきだろうね。……レナスが生きていて無茶苦茶鍛えてくれたし、あの方法がもしかしたら上手く行くかも……いや、駄目だ」


 思い浮かぶのはアリアさん達との戦闘後のリアスの死因、急激に力を付けた方法の副作用にして隠しボスであるテュラ復活の要因。


 光の神リュキの悪心がアリアさん達に倒されて弱体化した状態に陥った所を取り込んでの強化と、それによる暴走。


「……駄目だ、絶対に駄目だ。二度とあの子を目の前で死なせてなるものか。その為に僕は鍛えて来たんじゃないか」


 浅はかな考えを捨てようと怒りで震える拳を見つめる。

 何の為に二人で無茶苦茶な特訓に耐えたのか、それを忘れちゃ駄目だ。


「先ずは最初の分岐点。舞踏会で起きるだろうテュラからの勧誘だ。ゲームではリュキを名乗って居たけれど……来たか」


 前世の記憶なんて信じて貰えず妄想かなんかだと思われて恥を掻かさぬようにって行動が制限されるだけで、聞かれたら面倒だし今後の確認は此処で一旦終了だ。

 脱衣室の方から聞こえて来たのは新人でも居るのか妙に慌ただしい複数の足音。……複数?


「あ、パンドラが言ってたスカウトした人って結局誰だろう? もしかしたら今から来る人……はいっ!?」


 入り口の扉が騒々しく開いたもんだから僕はそっちに視線を向けて……固まった。


「主、お背中をお流し致します」


「じゃあ、私は手と足を」


「私は頭を」


 脱衣所から姿を見せたのは夜の面々で、普段の忍者装束じゃなくて色取り取りの水着姿だった。

 赤いビキニに緑のハイレグ、そして青のスク水で、平然としてたり元気一杯だったり少し照れていたりと同じ顔で大本は同一なのに個性豊かだ。

 でも、一体どうして……あっ!。


 思い当たる節が一つ有ったよ。


「えっと、特訓の為……だよね? 僕が女馴れしてないから」


 前にパンドラが言っていた奴だとは思うけれど、まさか事前通告無しに行われるなんてビックリだ。

 この時点で恥ずかしいから僕は視線を微妙に外して三人を直視しない……いや、出来ないって。


「ええ、その通り。本当は本体がお相手する所ですがヘタレなので色々と言い訳をして動きません。故に私達が代役を申し出ました」


 分体の代表格が答えるけれど、真面目な顔なのに彼女が選んだのか最後に残ったのか着ているのはスク水だ。

 それでもスタイルが良い上に少し小さいのかパツパツで直視するには少し辛いよ。

 あっ、駄目だ。何処を見ても誰かが視界に入る様に囲まれちゃってる。


「クヴァイル家の当主たる者が多少の色仕掛けでたじろいではならぬからと今後も不意打ちを仕掛けますご無礼を先んじて謝罪させて頂きます」


「……うん。悪気とかは無いって分かってるから謝罪は不要だよ。だから正面で跪くのは勘弁して欲しいんだけれど……」


 三人揃って跪いたんだけれどもビキニ姿でそんなのやられたら谷間が間近だし、動いた時に揺れちゃって目に毒だよ。


「これも訓練の一環です。では、失礼しまして……」


 僕の申し出は速攻で却下され、三人は一斉に僕の身体を洗いに掛かる。この躊躇の無さ、夜鶴が仕事をする時みたいだ。

 汚れ仕事だろうと一切迷わず引き受ける彼女でも、こんな感じの事には急に人間らしい反応を見せるんだよね。


 さて、考え事をしながら何とか耐えよう。

 偶然か故意か水着姿の三人は僕の身体に時折身体を接触させながら洗い、髪を洗うからって目を閉じてないと羞恥心が限界だ。


 考えるな考えるな考えるな考えるな考えるな考えるな……。


 それにしても伝わってくる指の感触はしなやかで長いし綺麗な手だったからな。

 魔力で生成された肉体は当然だけれど肌荒れとは無縁で痣や古傷も残らない。更に言えば見た目年齢も今の姿が動かしやすいだけで自由自在、つまりは老けずにいられる。


 大きく見た目は変えられないけれど、十分美少女だし、そんな子が増えて僕を洗っているって考えたら凄いよね。

 ちょっと今の光景を思い浮かべると、声が聞こえた。


「主、此方が気になるのならばお触りになられますか?」


「主ならば何処でもご自由に満足なさるまで」


「私達は刀。忠臣にして道具。普段手入れで触るのと……ちょっと違いますが誤差でしょう」


 今の自分の状況を頭に浮かべるなと言い聞かせるけれど耳に届く三人の声がそれを許さない。

 でも、次の瞬間には戸が開く音の後に何かが飛来して三人に当たった音がした。


「「「あ痛っ!」」」


 桶が転がるみたいな音がしたし、これは夜鶴が助けてくれたのか。さては五感共有を利用して様子を伺っていたな、あの子。


「終わりました。では、身体が冷えぬ内に湯船へとどうぞ」


 流石に本体が怒ったタイミングで止める気だったらしく、その後は普通に進んだけれど……。


「ご苦労様……」


 よ、漸く解放された。お年頃の男の子には刺激が強い時間だったけれど、卒倒するみたいな情けない姿は晒さずに済んだと一安心。

 それにしても夜鶴も分体達をもう少し落ち着かせてくれたら助かるのにさ。

 三人は混浴まではしないのか一礼して出て行こうとするし、その背中を見送る。

 お尻の方に視線を向けてしまい、ちょっと惜しい気もするけれど気付かれる前に視線を外してお湯に浸かれば緊張とか疲れが溶けていくみたいだった。


「……そっか、一緒には入らないのか」


 思わず呟いたけれど僕は悪くない筈だ。

 まあ、でも妹だって一緒に住んでる屋敷の浴場で混浴するのもね、うん。

 納得させる言い訳を自分に向けて、煩悩を追い出す為に目を閉じる。脱衣所の方から騒がしい声が聞こえた気がするけれど気にしない気にしない。


 うん、一人でゆっくりと入浴するのって悪くない気分だ。

 このまま目を閉じて意識を集中させようか。……だって慌てた様子で誰かが入って来ちゃったもん。


「あ、主……」


 ……あー、声は全員同じだけれど恥ずかしがった時のイントネーションからして夜鶴かぁ。

 じゃあ、さっきの騒ぎ声は分体に押し出されて来たって所か。


 現実逃避は駄目だよねぇ。だってこれは特訓だし、だから横の彼女を見ても仕方無いんだよ、僕。


 今の彼女はバスタオルを巻いて普段より露出が少ない状態だけれど、直ぐ隣で混浴してるって状況がちょっと意識させるんだ。


 横目で見れば顔を真っ赤にして今にものぼせそうな夜鶴が同じくこっちを見ていて、ちょっと気まずい。


「……にしても、矢っ張り夜鶴も大きいよね」


 あ、口に出しちゃった。



応援待っています


Twitter モミアゲ三世  で漫画とかイラストとか

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