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お間抜け紅一点

 この辺で一応改めて確認をしておくべきだと僕は思う。

 何の確認かって? 倒さなくちゃ駄目な”敵”についてだよ。


 ゲームについての知識と文献、各国に散らばった夜が集めた情報から存在するし相対するであろう相手。……敵対を避けられるのなら避けるし、モンスターとかの危険な相手だったら事前調査で発見してから精鋭部隊でも向かわせれば良いけれど、て言うか、学生よりも軍人とかに任せるべきだ。

 税金から支払われるお給料は何の為だって事だよ。


 でも、向こうから僕達に接触して来るのなら簡単には行かない。

 下手に避けても無駄で、周囲を巻き込むのならば待ち構えた方がマシだって。


 ゲームにおいてラスボスだった僕とリアスだけれど、主人公のアリアさんの前に立ちふさがったのは別の勢力だ。


 大昔、それこそ聖王国が建国された時代に人を滅ぼそうとした光の神”リュキ”と闇の神”テュラ”。リュキは途中で思い直し、人に対する憎悪の部分である悪心を切り離し、テュラ共々封印すべく立ち上がった。

 その際に創り出した存在こそが光の使い手と闇の使い手で、それぞれ相反する属性の相手をする……筈だった。


 結論だけ言うと戦いの結末はリュキの勝利であり、その戦いの過程に起きた事件によって闇の使い手が忌避される様になる。どうやって生まれたのか、そして光の神が人を滅ぼそうとしたという事実、この二つは葬り去られて。


 そしてその事件こそが僕が、時の使い手が生まれた理由なんだ。



「……君、誰かな? どうやら僕の事を知っているのみたいだけどさ」


 ネーシャに誘われて入った店に急に現れた少女に対し、僕は警戒を見せながら問い掛ける。

 相手が誰なのか、その答えはとっくに知っていたんだけれど。


 リンゴの日傘にゴスロリドレスを着た幼い少女であり、その髪の色はリアス以外では見た事がない。


 リュキが人を殲滅するべく創造した神獣。その神獣を統率する神獣将の紅一点。

 先日戦ったシアバーンが多くの事件の陰で暗躍する愉快犯でありプレイヤーのヘイトを集めるなら、彼女は……。


「私様が誰なのか知りたいのなら教えてやるのじゃ。人を滅ぼすべく生まれ、主の本当の意志のままに行動する忠実なる下僕! 神獣将が一人”サマエル”とは私様の事……じゃっ!?」


 窓の縁に立ち、自分に酔った様子で見得を切るサマエルの靴は少し底が分厚いブーツ。

 見事に足を踏み外し、後ろによろけた。日傘を手放してバタバタと手を振るけれど体勢を立て直せずに地面に向かって真っ逆様。

 結構な音と共に地面に落ちて、呆然とした様子で空を見上げ、それを見たネーシャは気まずそうに呟く。


「……えっと、何をしに現れたのでしょうか?」


 うん、そうだよね。

 そう、サマエルは神獣将の紅一点にしてギャグ担当、例えるなら子供向けアニメで毎回主人公に負ける面白い敵のポジションなんだ。


 ……ゲームでの初登場シーンでは猿のモンスターが捨てたバナナの皮で滑って川に落ちて流されたっけ。



「サマエル……文献で目にしましたわ。確か聖女によって封印された怪物の名前だったかと。急に姿を現しましたし、少なくても見た目通りの子供ではないでしょうね」


 そう、僕達は声を掛けられるまでサマエルの存在に気が付かなかった。格好付けた挙げ句に足下を滑らせて転落する間抜けにだ。

 シアバーンも使っていた”転移魔法”、それが連中の持つ厄介な手札。

 少なくても直前に察知するだけなら可能だけれど、それでも何時現れるか分からないのは本当に面倒な話だ。


「……見た目が子供でなければ曲者として攻撃するのですが、十歳程度の特に分かり易い悪さをした訳でもない少女相手にすれば外聞が悪過ぎますわね。先ずは捕らえて話を聞き出す、それからかしら?」


 うわぁ、合理的だなぁ。人目が無かったら手足の一本でもへし折っていそうな剣呑な視線をネーシャはサマエルに向け、何が起きたのか漸く理解した様子の彼女は跳ねる様に飛び起きて服に付いた土埃を払い落とす。


「君、大丈夫かい?」


「ヤバいっ!」


 横から声が掛けられたのは当然の流れだったのだろう。

 十歳程度の女の子が二階から転落すれば目撃者は心配するし、医者を呼んだり無事を確かめたりするのは善人ならば当然で、その当然が当然の様に行われる事に僕は嬉しいと思うよ。


 でも、今は喜んでいる場合じゃないんだ。サマエルに声を掛けたのは若い男性で、子供なのか妹なのか幼い女の子と一緒に歩いていたけれど、サマエルを心配してか声を掛け、目立った怪我が無い事に安堵した様子でホッと一息。


「有象無象の人の子如きが私様に話し掛けるとは無礼な奴じゃな」


 冷たい声と共にその顔面に向かって閉じた日傘が振り抜かれた。


「わっ!?」


 響いたのは重厚な金属同士が衝突したみたいな音で、日傘と男性の間に現れた黒い板状の物から響びき、驚いた様子の男性は腰を抜かし、今度は傘の先が心臓を貫こうと突き出されるけれど、それも続いて現れた黒い板で防がれた。


「空気の時を停止させたのじゃな。成る程、卑怯なだけでなく腕も立つと」


「僕が卑怯? おいおい、不意打ちをした君が何を言ってるんだい?」


 サマエルの顔が自分から僕の方に向けられた途端に這いながら男性は逃げて行き、僕は二階の窓からサマエルを見下ろして睨み合う。

 ったく、ギャグ担当だからって油断していたよ、僕の間抜けが。


 頭が足りていない上に少女の姿をしていても、人を大勢殺す為に力を与えられて誕生した化け物で、人を殺す事に躊躇しない危険な相手だ。

 ゲームでは最終的にアリアさんに絆された所を復活したリュキの悪心に殺されたけれど、ゲームと同じ状況で同じ言葉を向けても同じ結果になるとは限らず、少なくても今は絆されている状態じゃない。



「誤魔化されると思わない事じゃ! 私様の足下を狙って滑り落とさせた事は見抜いておるぞ!」


「いや、違うから。君が間抜けなだけだって。……え? 自覚が無いの?」


 如何にも驚愕してるって演技で手を口元に持って行き、隠し持っていた小さな笛を吹く。人の耳には届かない音だけれど、幸いにもサマエルにも聞こえなかったらしい。


「ぐぅ~! 私様を愚弄するのじゃな。ならば貴様を仲間に引き込んでやるのは止めじゃ! 折角光の使い手と闇の使い手を殺すという使命を果たさせてやろうと、ぐぎゃっ!?」


 僕の言葉が随分と気に障ったのかサマエルは地団駄を踏みながら指先を向けて来て……絶対に許せない言葉を吐いた。

 サマエルの後頭部周辺の空気の流れを巻き戻しつつ時を止めれば絶対に壊せない強固な空気の塊が叩き付けられる。

 不意打ちによってサマエルは前のめりに倒れ込み、その矮躯を停止した空気が包む。情報を吐かせる為に頭は出したけどこれで動けない。


「僕が誰を殺すのが使命だって? まさかリアスじゃないよね? 可愛い妹のリアスを殺させてやる、だって? ……お前が死ぬか?」


 怒りによって頭の中が真っ白になりそうになるのを抑えるけれど、殺気と物騒な言葉は抑え切れそうにない。

 ああ、駄目だ。目の前の相手がリアスや他の大切な人達に危害を加える存在だと分かっているだけに自制が働かない……。


「落ち着け、馬鹿者。あの様な間抜けの言葉で我を忘れてどうする」


 背後から頭を叩かれ、続いて金色の光の粒子が周囲を舞ったかと思うと不思議と冷静になって行く。

 振り向けば不機嫌そうに腕を組むレキアの姿。

 どうやら妖精の魔法を使ってくれたらしいね。


「レキア……助かったよ」


「礼は後で良いから構えろ。……面倒なのが現れるぞ」


 突然の地震がミノスを襲い、地面が割れたかと思うと熱気が噴き出す。

 地中から巨大な怪物が姿を現した。


 

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