表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/393

見知らぬ記憶

反応が薄いと一気にやる気が削がれて新作に気が移る この前はは感想が来た 今回もくれば嬉しい

 想い人……いや、人間にしてはそれなりに気に入っている男の肩に乗って街の中を見渡せば、幼い頃に野蛮で下等なモンスターだと教わったゴブリン達の姿が多く見えた。


 肌の色、基本的な体格は違えども確かに理性と知能を感じさせる顔付きで、比べてみれば妾が魔法で作り出す偽物は粗悪な贋作でしかない。


 ……今までこれまでの教えは間違っていたと何度も教わったし、ちゃんと自らの目で確かめて考えを完全に改めたいとは思っていたが踏ん切りがつく機会に恵まれず、今回の事が無ければ何時になって居たのだろうな……。


「……感謝するぞ、ロノス」


 小さな体の小さな声は夜空を照らす花火の音に掻き消されて届かず、私は仕方無しに花火によって様々な色に照らされるロノスの横顔を見詰め、花火の音に紛れさせる様にして小さな声で次々に呟いた。


「妾は本当は貴様を嫌っていない」


「友になろうと言ってくれて嬉しかった」


「何時も感謝している」


 不思議な事に面と向かって聞かせられない言葉でも、こうして聞こえないのなら幾らでも伝えられる。

 聞こえないなら、伝わらないのなら無意味な自己満足ではあるが、今はこれで構わん。


 まあ、聞こえておけと理不尽に怒りたくもあるが、母様が素直になれていないだけと教えたせいでどの様な視線を向けられるのか分かったものでないがな。


 さて、此処まで伝わっていないが伝えたのだし、どうせなら最後まで口にするか。



「ロノス、妾は貴様が……」


「ロノス様! ロノス様ではありませんか!」


 どうせ花火の音にかき消されていたであろう妾の声は、背後から掛けられた人の子の声によって更に塗りつぶされる。




「まあ! お会いするなって奇遇ですわね。お帰りになる前にお茶でもご一緒致しませんか?」


 親しげに寄って来るが、その目は利用したい相手を値踏みする目だと直ぐに気付く。

 ……不愉快な女だ。


 ああ、本当に不愉快だな。目の前の無粋な女も、臆病な妾自身も不愉快で仕方が無い。


 ……!?


 今、あの時の奴と、商人を名乗って近付いて来た神獣将と似た気配がした気がしたが……。


 だが、下手に口にすれば混乱を生むだけ。

 ならばロノスと妾だけになった時に教えるべきであるな。


「おい、ロノス。此奴が誰かは知らぬが放って先に行け」


 だからまあ、目の前で馴れ馴れしくロノスに近付いて来る女から離れたいのには正当な理由あっての事だ。



 嫉妬? 愚かな解釈であるな……。






 僕は今、非常に困っている。


「お茶? どうしようかなぁ……」


 知り合ったばかりの女の子からのお茶のお誘いは少し緊張するし、出会った時から変なモヤモヤを感じる子だから遠ざけたいんだけれど、彼女の裏事情や今の家との今後の関係を考えれば無碍にも扱えないんだ。


 でも、何故かレキアはネーシャの事が気に入らないみたいだし、こっちとの今後の付き合いも有るんだよねぇ。

 ま、喉が渇いた頃合いだし、お茶の一杯程度なら付き合いの内か。


「今日中に帰る予定だし、少しの間なら構わないよ」


「そうですか! 凄く嬉しいですわ! 花火がよく見える場所を予約していまして、早速行きましょうか」


 僕が受け入れると本当に嬉しそうに見える顔でズイッと近付いて来て、喜んだ様子で僕の手を取ると引っ張って来た。


「きゃっ!?」


 でも、足の不自由な彼女が慌ててそんな事をするから石ころに躓いて転びそうになったんだ。

 僕は咄嗟に腕を引き戻し、そのまま自分の胸で受け止める。やれやれ、危機一髪だったね。


「大丈夫? 矢っ張り誰か従者の人と一緒の方が良くないかな? 宿まで送って行くよ?」


「お陰様で助かりましたわ、ロノス様。それにしても意外と逞しい……わ、私ったら何を言ってるの!? お忘れを! 今のはお忘れ下さいませ!」


 僕の胸板を服の上から触ってうっとりした後でネーシャは急に慌てた態度で耳まで真っ赤だ。


 この子、色仕掛けをしてくる可能性が有るから警戒してたけれど、結構ウブ? でも、実は演技だったら凄く上手いなあ……。


「それに……こんな風に殿方と一緒に出掛けるなんてデートみたいではありませんこと? 私、ちょっとだけ憧れていましたの」




 あ、レキアの怒りを買ったのかネーシャに見えない角度で抓って来た。

 え? 従者の目を盗んで出掛けられる筈も一人で出掛けさせる筈もないから気を付けろって?

 

 ……確かに。



「私からお誘いしたのにご迷惑をお掛けするだなんて情けない話ですわね。これは何かお詫びを致しませんと」


 ネーシャに連れられてやって来たお店は二階建ての大きなカフェで、二階の個室を予約しているからと一緒に向かったんだけれど、足の悪いネーシャが階段を昇るのは大変だろうからと僕が手を貸してあげる事にした。


 バリアフリーの概念なんて行き渡って居ないのか手摺りが無いのはどうなのかなあ?


 って言うか、普段はどうしているんだろう?


「普段は階段をどうしているのか、ですか? 何時もなら座ったイスを担いで貰っていますの」


「……あー、うん。お嬢様だし、その程度なら当然かぁ」


 だよねぇ。何時も苦労しながら必死に階段を昇ってる姿を想像したけれど、ヴァティ商会の規模を考えたら当然か。……階段とか危ないからね。


「でも、こうしてロノス様の様な素敵な殿方の手を取って昇るのも悪くないですの。ふふふ、まるでデートみたいじゃありませんこと?」


「端から見ればデートに見えるだろうね……っ!?」


 僕に好意を抱いているのだと勘違いしそうな態度に不覚にもドキッとさせられた時、不意に頭に痛みが走り、見知らぬ光景がフラッシュバックした。







「……こうして二人きりになれるのは久し振りですわね。何時も何時もリアス様が"ロノス、ちょっと来なさい”って連れ回してますもの」


 花が咲き乱れる丘の木の下、シートを敷いてお弁当を広げた僕とネーシャは肩を寄せ合って互いの顔を見詰めていた。


「ごめんね。でも、あの子が本当に心を許せるのって僕だけなんだ」


「……私にとってもロノス様だけですわ。最初は互いに相手の家を利用する為の関係でしたが……今はこうして愛し合っていますもの」


 僕の手にネーシャの手が重ねられ、次に唇が重なる。



 こんな光景、僕はゲームでも知らないし、会話の内容からして未来視みたいな魔法が発動したのでもなさそうだ。

 変な夢を見ている気分だったけれど、それにしては鮮明で……。


 まるで今体験しているみたいな現実感の中、密着した状態でネーシャは服を脱ぎ始めた。



「……人払いは済んでいます。このまま貴方と別れる事になるのなら、せめて忘れられない思い出を下さいませ」


 わっ!?



「……どうかされましたの?」


「い、いや、何でもないよ。ちょっと考え事をしてただけだって」


 階段で急にボケッとしたと思ったら驚いた顔をした僕を不思議そうに見詰める今のネーシャとさっきの彼女が重なって鼓動が高鳴る。

 あれかな? さっきパンドラや夜鶴相手に変な妄想した影響が出ているとか……。


 兎に角階段でこんな事をしていたら危ないし、気を付けながら昇るんだけれど握った手を通してネーシャの存在を嫌でも感じて落ち着かない。

 

「……おい、しっかりせよ」


 ネーシャには聞こえない程度の大きさの声でレキアの不機嫌な呟きが聞こえると共に頬を殴られる。痛くはないけどお陰で目が覚めた気分だ。



 ……お誘いを受けたのは失敗だったかな?

 どうもネーシャと出会ってからの僕は変だし、本当にどうしたんだろうか……?



「此方の個室ですわ。既に用意はされていますし、花火でも眺めながらお寛ぎ下さいませ」


 部屋に入ると漂って来たのは甘い花の香りで、テーブルにはポットとカップ、幾つかの軽食が既に並べられていた。……尚、二人分だ。


 出会ったのが偶然って割りには用意周到だし、あの時に夜を一体潜ませておくべきだったか。

 本当に僕は未熟者だと自分に呆れた時、不意にネーシャの声が微かに聞こえた。



「……これが幸運なのか不運なのか分かりませんが、すべき事は同じですわね」


 振り返れば直ぐに愛想の良い笑顔に戻った彼女だけれど、一瞬だけ自虐的な笑みを浮かべ、僕に向ける瞳はアリアさんが向けて来る物と同じに見えた。


 あれ? 変だな? 何故か胸が締め付けられる気分だ……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ