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彼女は聖女の再来で、本来は悪役令嬢です

「変な夢だぁ? それを最近毎回見るって?」


「うん、ちょっと気になって……」


 お兄ちゃんはお仕事に行って、レナはメイドの仕事中だからレナスは私が独り占め出来るって喜んで、今は組み手前の準備運動の最中だけれど、背中を押して貰いながらしたのは最近夢で見る光景について。


 ……ちょっとお兄ちゃんには相談しにくい内容なのよね。


「成る程ねぇ。”僕には言いにくい内容みたいだし、母親になら話せるだろうから聞いてあげて”ってロノスが頼んで来たが、どんな内容なんだ?」


「うへっ!? お兄ちゃん、気が付いて……お兄様、気が付いてたのね」


「別に母親の前まで直さなくって構わないよ、馬鹿娘。あの馬鹿息子は自分より妹が大切って奴だからね。色々察したんだろうさ。ほら、話しな。柔軟後の小休止中に聞いてやるよ」


 私としては隠し通せている積もりだったのにお兄ちゃんったら……。

 嬉しいやら恥ずかしいやらで複雑な心境の私の背中を最後に一段と強く押したレナスは地べたにドシって座り込んで胡座をかいて、私は何となく正座をして向き直る。


 うん、それにしてもレナスって矢っ張り”お母さん”だなあ……。

 お父さんっぽくもあるけれど。


「えっとね、お兄ちゃんと一緒に行動してるんだけれど、色々振り回すの」


「……今更じゃないかい? アンタ、その場の勢いで行動して、ロノスが流されて付き合うって元からだったじゃないのさ」


「そ、それはそうだけれど……お兄ちゃんへの扱いが酷くって。呼び捨てにしたり、見下してこき使ってるみたいな言葉遣いで罵倒したり。……でもね、心の中では大好きで、何をしても味方だって思ってるからで……」


 あんなのが夢の中だとしても私だってのが嫌になるんだけれど、同時に少しだけ気持ちが分かる気もするわ。

 お兄ちゃんだけは最後の最後まで側に居てくれる味方で、頼りっきりになれる英雄で、夢の中の私は情けない姿を見せるお兄ちゃんに憤慨してて……本当は叱って欲しかった。

 でも、お兄ちゃんは最後まで私を否定せず、孤立させない為に側に居る事を選んでくれて……。


 あの私はゲームでの私で、奇妙な事に画面を適当に眺めていただけなのに本当に自分が体験した事みたいに鮮明で、気が付いたらレナスに抱き締められて頭を撫でられていたわ。


「……よしよし。全部吐き出しちまいな。夢だろうが辛いもんは辛いんだ。此処にゃアンタに聖女の再来なんてくっだらない役割を求める奴も居ないし、気楽で良いのさ。まっ、聞いた限りじゃ既に結構やってるみたいだがね」


 この歳で母親同然の相手に抱き締められて頭を撫でられて、感じたのは恥ずかしさよりも安堵感だったわ。


 ……あの日、レナスが死んじゃって、その役割までロノスに求めて、完全に全うしてくれないから八つ当たりまで……あれ?


「私、今何か変な事を考えていたみたいな気が……」


 凄く悲しい気分になりながら自己嫌悪していた気がするけれど、不思議な事に何も思い出せない。……何故かしら。


「もう少しこうしてて良い?」


「はいはい、相変わらず甘ったれな娘だよ。まっ、子供に甘えて貰うのは親の勤めで楽しみだ。好きなだけこうしてな……」


 正面から何でも受け止めて包み込んでくれる。それが私の大好きなレナス。

 ああ、幸せね……。





「……しっかし相変わらず薄っぺらい胸だねぇ。餓鬼の頃からちっとも成長してないんじゃないのかい?」


「少しは成長してるもん!


 ……こうやって遠慮無しに余計な事を言ってくるのもレナスなのよね。



「お兄ちゃん、今頃何やってるのかしら?」


「無自覚に女を口説いてるんじゃないかい? その癖色仕掛けに耐性がないってんだから情けないねぇ」


「お兄ちゃんだものね……」


 両方の意味で呟いて暫し黄昏る。さて、そろそろ組み手よ、組み手!


「稽古を開始しましょ! 胸は確かにあんまり成長してないけど……戦いの方は成長したって見せてあげるわ! アドヴェント!」


 光のエネルギーが全身を駆け巡って力へと変わり、私はレナスに向き合うようにして拳を構え、向こうも八重歯を覗かせる凶悪な顔で嬉しそうに構える。


「上等じゃないのさ、アリア! アンタの成長を見せてみな!」


 さあ! 全力で行くわよ!



「んじゃ、先ずは小手調べからと行こうかねぇ!」


 先に動いたのはレナス、見切りやすい大振りの一撃で、それでも真っ直ぐに突き出される拳の速度は神速。

 二人の間は約十メートルで、腕が伸びる生物でもないと到底届かない距離。だけれど私は知っている。このまま棒立ちだと呆気なくぶっ飛ばされるってね。


 肌にピリピリ感じる圧力。突き出されたレナスの拳が巨大化して見える程の気迫、そして迫って来るのはドラゴンでさえ一撃で昏倒させる威力の拳圧。


「本っ当に容赦無いわね……」


 今の私なら同じ様な事は可能だけれど、レナスのに比べたら未だ未熟で威力だって段違い。ったく、強くなった私だけれど、強くなった事で相手がどれだけ高い場所に居るのか分かっちゃうのよね。


 でも! だからこそ!


「越えようと足掻く価値が有るってもんよね!!」


 レナスと同じく私も拳を振り抜き、空気をぶっ叩いて前方に飛ばす。威力はまだまだ及ばないけれど、だったら力を重ねれば良いだけ。


「シャインブースト!」


 大地を踏みしめ体の回転の力を全て突き出す拳に込めて放つ瞬間、肘から光を噴射して力を増大! 拳によって放たれた空気の塊と塊が二人の間でぶつかり合い相殺する。


 今しかない!


「だらっしゃぁああああああっ!!」


 掛け声と共にもう片方の腕を突き出して拳圧を更に飛ばし、それを連打で放つ。肘からの噴射は一瞬だけで、回転を重視したから一撃一撃の威力は先程と比べたら落ちるけれど、これはあくまでも布石。最初の一発がレナスに届く寸前、私は足元が爆ぜる程の威力で踏み込んで駆け出した。


 飛ばした拳圧に追い付くギリギリの速度を維持し、狙うのは僅かでも体勢を崩す一瞬、その一瞬に私は懸ける!


「おりゃぁああああああっ!!」




「狙いは良いんだけどねぇ。……まあ、及第点だ」


 私が放った拳圧が迫る中、レナスは避けもせず防ぎもせずに正面から突っ込んで来た。確かに当たっているのに全て当たった側から弾け飛び、お互いに拳を振り上げて射程距離に相手を捉えた。


 背が低い私は真下から振り上げるアッパーを、背の凄く高いレナスは真正面に向かってのストレートを。私は魔力をありったけ込めて肘から噴射した渾身の一撃を放ち、それよりも前に届いたレナスの拳が額ギリギリで止まり、風圧で髪が後ろに流される。


 ……ちぇっ。負けちゃった。


「その肘から光を放つ奴だけどねぇ、未だ使い慣れてないだろ? 折角全身の力を込めても最後の最後で体勢が崩れちまってたよ」


「……え? 本当に? 自分じゃ分からなかったわ」


「まっ、僅かだが、その僅かが格上との戦いを左右する。使いこなせりゃ強力な武器になってくれるし頑張りな。アンタならその内使いこなせるさ」


「うん! 絶対に使いこなして一年以内にレナスだって倒して見せるわ!」


「おっ! 言うじゃないのさ、小娘が。その意気だ、気張るこったね!」


 レナスは私の言葉に嬉しそうにしながら背中をバシバシ叩いて来て、少し居たかったんだけれど、私は戦い始める前のモヤモヤが完全に消え去ってるのに気が付いた。


「有り難うね、レナス」


 矢っ張り変な事を忘れるには体を動かすのが一番なのよね。思いっきり戦えばスッキリするし楽しいし、強くなれるから最高よ。



「んじゃ、第二回戦と行こうじゃないのさ。今度は組技を教えてやるよ」


「望むところよ。次も良い所を見せちゃうんだから!」


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