順調に依存が進む少女(メインヒロイン)
「お早う御座います、ロノスさん!」
「あら? 私も居るのだけれど?」
「お、お早う御座います、リアスさん」
今日は珍しく私の思い人はギリギリになって登校して来た。
あのアンダイン(興味は無いけれど家の格差から覚えるかしかない)が一緒に行こうと迎えに来る時間帯を避け、尚且つ少しでも一緒に登校する気分を味わおうとしているが今日は失敗して残念だった。
しかも今日は馬車で来なかったのは何故だろう?
後、友達だと思っているリアスも遅れて来たけれど、今日は妙に眠そうで、聞いてみれば二度寝が出来なかったらしい。
「いや、朝の鍛錬が盛り上がっちゃって、最終的にお兄様達との三つ巴戦をメイド長が止めるまで続けたのよ。そうしたらお説教までされて参ったわよ。そのせいで汗掻いたからパッと風呂に投げ込まれて急いでご飯食べてたらギリギリだったからメイド長の魔法でパッと転移して来たの。……あんな魔法が使えるなら、睡眠時間を増やせるし普段から送ってくれたら良いのに」
「……転移魔法をメイド長さんが?」
「うん、そうなんだ。便利なのが使えるならもっと早く教えてくれたら良かったのに、”今回だけです。甘やかす為には使いません”だって言われてさ」
二人は平然と話しているけれど転移魔法は妖精とかの限られた種族のみの筈、それを使えるっていうメイド長とも一度会った事があるけれどヒューマンにしか見えなかった。
あっ、でも他の種族が変身している可能性も……あれ? 私、どうしてそんな事を気にしているのだろう?
さっきまで疑問に思っていた事が一瞬でどうでも良いと感じられて来て、私はその事を思考から追い払った。
あまりにも不自然な切り替わりを一切疑問に思う事も無く……。
「それでは皆さん、パートナーが決まった人達はその相手と、未だ決まっていない人達は僕が何度かに分けて割り振りますから相性の良い相手を見付けて下さい。申し込み締め切りまで時間はありますし、焦る必要は有りませんよ」
一限目は舞踏会に向けたダンスの練習で、殆どの人達は家の付き合いや妥協でパートナーを決め、一部は私みたいに家は関係なく親交を深めた相手と、残りは高望みして選べた筈が出遅れたり特に関係の有る人が居ない人達が余り物として残っていて、それでも残った中で良いのを見付けようと張り切る人や、もう諦めた顔をしているのも数人見掛ける。
「ふふふ、計画通り。このまま余り物のままならマナフ先生とダンスのパートナーに……うへへへへ」
「誰が先生に選ばれても恨みっこ無しよ! 闇討ちは……」
「じゃあ、他の連中をくっつけるとして、この中の一人は誰か男子とくっつけられるわね。……当日休めば……」
そして本当に極一部は……私は何も見聞きしていないので知らない。
どっちにしろ私にはロノスさんというパートナーが居るのだから無関係だ。
「それでは始まりです」
舞踏会では専門の音楽家を呼ぶらしいけれど授業ではマナフ先生がピアノを奏で、余った女子生徒同士で一緒に踊っている人も居ればあてがわれた相手と意外に相性が良かったのか楽しそうに踊っている。
そして私はと言うと……ちょっと不安になって来た。
「が、頑張りましょう!」
昨日もダンスの練習は設けられたのだけれども凄く失敗した。
私と違ってロノスさんならばダンスの心得が有るって思ってたのに、何と言うか……下手ではないのだけれど上手でもなく、全くダンスの心得が無い私と踊ったら当然ながら互いの足を踏みまくり、最後は足がもつれ合って見事に転んで笑い物。
……私はどうでも良い相手に笑われても何も感じないけれど、ロノスさんが笑われるのは腹立たしい。
誰かの為に怒ったのは本当に久し振りで、此処まで怒ったのも何時以来か分からない。
でも……。
「あの……。昨日の様な失敗は、その……避けようか」
昨日、私は怒り以上に幸福感も覚えたけれど、それを隠して恥ずかしそうな表情を作る。
”愛想が良くて素直な女の子”、それがロノスさんと出会ってからずっと被って接し続けた仮面で、本当の私なんかよりずっと魅力的な女の子。
感情が殆ど死んで、極一部の相手以外には興味が湧かない私なんかよりもずっと……。
だから昨日の失敗を繰り返したくないという態度を示したのだけれど、本音を言うと繰り返しても良い、寧ろ繰り返したい。
昨日、足が絡んで二人揃って転びそうになった時、ロノスさんは私を庇ってくれて下になったのだけれど、転んだ拍子に私の唇がロノスさんの首に触れた上に、乗っかった私をロノスさんが抱き締めた形に。
……夢の様だった。
何度も読んで心を弾ませた恋愛小説……実際はエロ小説だったのだけれど、その中の登場人物みたいに……ゴニョゴニョ。
想いが通じてロノスさんと結ばれたなら、今度は互いに服を着ずに……。
強引に服を剥かれて……はロノスさんのキャラじゃないし、ベッドの上で優しく可愛がって貰えたら嬉しい。
いや、ロノスさんが望むならどんな風でも構わないし、興味が無いと言えば嘘になる。
でも、最初は普通に……。
「あの……アリアさん?」
今度はロノスさんから私の唇に唇を重ね、強く抱き締めて貰った所まで妄想が進んだ所で困惑した様子のロノスさんに声を掛けられた。
「えっと、優しくして下さ……何でも有りません」
危ない危ない、もう少しで妄想を口にする所だった。
慌てて取り繕って誤魔化したけれど、変に思われて居なければ良いけれど……。
「それじゃあ踊ろうか」
「はい……」
そっと差し出された手を取り、音楽に合わせて踊り始める。昨日は恥を掻いたから寮でイメージトレーニングをしたのだけれど上手く行くだろうか?
……あれ? ロノスさんのリードに任せていたら何か上手く行っている?
未だ辿々しいけれども決して無様ではない動きで私達は踊り、私のミスはロノスさんがフォローしてくれていた。
まさか昨日みたいに私に恥を掻かせない為に練習を?
「昨日、ちょっと練習に付き合ってくれる子が居てね。その子の動きを参考に……あたっ!?」
そんな私の気持ちを察したのか教えてくれたロノスさんだけれど、どうやら他の女の子が関係して居るみたいだし、どうも親しい相手なのは顔を見れば明らかで……うっかり、本当にうっかり足を踏んでしまった。
「ご、ごめんなさい……」
「大丈夫だから安心して」
踊りの練習を自分から妨げるのはこれで終わりにして今の時間を楽しもう。
舞踏会で共に踊るだなんてまるで本当に恋人の様で、告げた想いが叶わなくても私の心に深く刻まれる事だと思う。
ああ、いっその事、叩かれていた陰口みたいに本当に……。
「あ、あの、ロノスさん。もし宜しければ……」
いや、止めておこう。”身体で取り入る”、だなんてロノスさんが受け入れる筈が無いし、そんな事をすれば私達の関係は終わりになってしまう。
「アリアさん、何か焦ってる?」
「……え?」
ロノスさんは私の目を見つめて心底心配した様子で私に尋ねる。
ああ、そうだ、私は舞踏会が近付いた事で焦りを感じていた。
私の父親かも知れない国王との事、何を血迷ったのか私に寄って来るアンダインの事、そして実家の事。
私は学園で婿になる相手を捜す事を祖父母から命じられてはいたが、別に親戚が一人も居ない訳ではなく、それこそ身分がずっと上の家から私を”側室にでもしたい”と申し出されたら、厄介払いの意味も込めて受け入れる可能性は高い。
「えっと、大丈夫です……」
そして、この国にロノスさんのお祖母様が嫁いだ以上、私が認知された場合はロノスさんとは……。
「ロノスさん、何度でも言いますね。私は貴方が好きです」
それは嫌だ。結ばれなくても構わない? そんな筈が無い。
この恋心は私が初めて誰かに抱いた期待なのだから、どんな事をしても……。
じゃないと、私は何の為に生まれて来たのかさえ分からない。
どんな形でも、どんな手段を使ったとしても……。