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忍者は悶え、妖精は踊る

 道具を手に取り、そっと夜鶴の体に触れる。そのまま適度に力を込めて往復させれば押し殺した声が聞こえて来た。


「あっ……んっ……くふ……ひゃっ……」


 口を手で塞ぎ、こそばゆいのと心地良いのが合わさったみたいな声を出すまいと耐える夜鶴の顔は紅潮し、まるでマッサージでも受けている時みたいに気持ち良さそうに蕩け始めていた。


 ……うーん、ちょっとやり辛いけれど、此処で終わりにするのは悪いし、”嫌なら止めるように言って”とは伝えて有るからなぁ。

 そんなこんなで継続を選び、次の道具である毛先が柔らかい筆を手に取る。

 色々と道具を試したけれど、本人……本刀曰く、明烏同様にこれが一番良いらしい。


「夜鶴、触れるよ?」


「は、はひっ! ど、どうじょお願いしましゅ……」


 だらしない顔になった夜鶴は呂律が回っていない口で返事をしていて目は焦点が合っていないし、もう限界が近いな。

 既に足腰立たなくなってしまったから僕がベッドまで運んであげたんだけれど、丈が短いせいで見えちゃってさ……赤フンかぁ。





「ひゃんっ! あっ、あうぅぅ……うあっ! あっ、あっ、ひゃっ!」


 そして筆先が身体に触れて動き出せば声を抑える余裕すら無くなり。身悶えしながら切なそうな声を漏らし、息を荒げる。




「ごめん、夜鶴……一旦身体を消してくれる?」


 僕は夜鶴の本体である大太刀を手入れする手を止めて頼む。……うん、流石に限界だ。

 だって反応がエロいんだものっ! セクシーくノ一が切なそうな声を上げて身悶えるとか、年頃の男の子には目に毒だからねっ!?


「ぎょ、御意っ!」


「君の体(刀)の事は僕だってよく理解している。例え暫く離れて居たとしてもね。ほら、だから今は全て僕に任せて身を委ねてよ。それで不備が有れば言ってくれたら良いからさ。……ちゃんと今晩は君に付き合うから遠慮は要らないよ」


「有り難き幸せでしゅ……」


 鍔を外し、装飾の細かい溝を筆で掃除し、鞘を磨いて行く。

 ……普段から自分でしているのか特に僕が手入れする必要が無いとも思うんだけれど、賞賛の他にこの程度しか報いる方法が無いのが現状だ。

 新しい鍔とか鞘とかを贈ってみようか? 人間の姿の時の服装は自在に変えられるそうだし、お金は受け取ってくれないからね。


「それにしても……綺麗だ」


 抜き身の刃は曇り一つ見当たらず鏡の様で、指先で刃の腹を軽く撫でる。

 暫く陛下の護衛として離れて居たけれど、こうして手元に在ると本当に落ち着くよ。

 何せ僕もリアスも武具の収集癖が有るし、その中でも夜鶴と明烏はお気に入りで、コレクションの中で随一の業物だ。


「夜鶴、陛下は君を気に入っているけれど、僕の物なんだから僕の手元に置くのが一番だ。うん、明日にでも君を使いたいよ」


 この状態では言葉を喋れない夜鶴だけれど、返事代わりにでもするかの様に刃が光った気がした。

 そうか、君も僕に使われるのを待って居たんだね。


 こんな時、僕が向けるべき言葉は……。


「愛い奴だよ、君は」


 刀の柄に軽く口付けをする。

 流石に女の子の姿の方にこんな事は出来ないけれど、夜鶴の本体はこっちだし、刀相手なら抵抗は感じない。




「……もうこんな時間か」


 夜鶴の手入れに夢中になって時間が経つのを忘れて居たけれど、最後に丹念に刃を磨いた後で時計を見れば普段なら寝ている時間だ。

 多分リアスの事だからレナスの部屋にでも潜り込んで居るだろうし、寝る前にお休みの挨拶だけして来ようか。


 一応先にリアスの部屋を覗くけれど予想通りに誰も居ない。

 それにしても今日は色々有った、本当に色々と……。


 レナスが屋敷に来た事とか、パンドラが出して来た条件とか、夜鶴に関する事とか……うん、あの恥ずかしがっている時のパンドラは可愛かったな。

 普段の澄まし顔のクールビューティ系美人も良いけれど、あんな風に純情で恥ずかしがり屋な所も素敵だ。


 夜鶴も夜鶴で普段の”自分、感情なんて有りません”って感じが、手入れの最中に本体を触られる度に反応して、それがちょっとね……。


「駄目だ、変な趣味に目覚めそう……」


 案外僕ってSなのかと考えていた時、窓の前で浮かんで外を眺めているレキアの姿が視界に入った。


「……むぅ」


 腕組みをしつつ少し不満そうな表情で見詰める先には夜だってのに仕事をしている庭師の姿だ。

 子供程度の身長に緑色の皮膚を持つゴブリンで、作業着姿で器用に木の枝の剪定を進めていた。


「やあ、レキア。矢っ張りゴブリンは苦手かい? この前も出していたしね」


「……分かってはいるのだがな。だが、幼き頃から植え付けられた嫌悪感は簡単には払拭出来ぬ」


 僕に気が付いていたのか声を掛けても驚きはせず、レキアは深い溜め息を吐くだけ。

 そう、レキアは……いや、妖精全体にゴブリンをモンスターとして扱い、忌み嫌い、そして争っていた歴史が在ったんだ。


 だからアリアさんを連れて森に行った時、庭師のゴブリン達とは違ってボロ布を纏って知性を感じさせない醜い怪物として偽物のゴブリンを出して来たし、だからリアスだって野生の勘は七割程度で偽物だと見抜いて容赦無く戦えた。


 確かに独自の言語を話すけれど、学んだら他の種族の共通語だって使えるし、手先の起用さはドワーフに匹敵する。

 


 そんなゴブリンを先代の女王の在任期間までは敵と見なし、互いに攻め込んで居たのだけれど、現女王が母である先代に反旗を翻して王座を奪取、聖王国の介入もあって和平が結ばれた。


「お祖母様の幼い頃には既に争っていたし、妾とて幼き頃にはゴブリンは仇敵だと教わって育った。だが、変わらねばならぬとも理解しているし、お祖母様が反発して側近と共に姿を消したのも致し方ないとも思うのだ」


 そんな風に語るレキアは行方不明になったお祖母さんが心配なのか少し寂しそうだ。


 こんな時、僕は何を言うべきだろうか?


「……何も言ってくれるなよ? これは妾が背負うべき事だ。まあ、祖母としては心優しかったあの方との日々を少し思い起こして少し寂しい」


 僕が何か言う前にレキアはそれを制し、肩に乗るとそっと寄りかかって来た。


「だから……暫しこうさせてくれ」


 僕は言葉を返さず、そっとその場で立ち尽くす。

 何も言えないのなら、せめて気が済むまでは寄り添っていてあげたかったんだ。


 だって、僕にもレキアの気持ちが分かるから……。





「……迷惑を掛けた。礼を言う」


「別に良いさ。君と僕との関係じゃないか。あの程度だったら何時でもどうぞ」


 あれから暫く時間が経って、庭師のゴブリン達が別の場所に向かって姿が見えなくなった頃にレキアは僕の肩から降りて、何時もとは違って素直にお礼を言って来る。

 多分女王様に実は僕を嫌っていない事を喋られたのが理由だろうし、友達になりたかった僕としては嬉しい限りだ。


「じゃあ僕は寝るよ。……明日は最初の授業からダンスの練習だからね」


「ああ、貴様は下手くそだからな。ズブの素人よりは多少マシ程度で見ていられん程に」


「……言わないで」


 うん、否定はしないよ。

 リアスは結構上手なのに僕はどうもダンスは苦手で、アリアさんに期待していたら彼女はズブの素人で、互いに足を踏んだり、足が絡んで床に押し倒すかっこうになったりとダンスの授業は散々だった。


「……ほれ、今から軽く妾が練習相手になってやろう。まあ、今の妾では一曲が限度だが、貴様への礼ならばそれでも過分だ」


 僕の目の前でレキアが人形サイズから人間サイズへと変わり、僕の手を取ると窓に向かって歩き出す。

 そのまま二人して壁を通り抜けて月明かりに照らされた庭に出ると、レキアは静かに美しい歌声を披露し始めた。


「成る程、これが演奏代わりか」


 歌いながら頷いた彼女にリードされて始まったダンスのレッスン。

 お礼に踊りに誘うなんて随分な自信だと思ったけれど、レキアは下手くそな僕を上手に導いて踊り続ける。


 やれやれ、これは本当にお礼を貰い過ぎたし、何か僕からもお礼をしないとね。




「ねぇ、レキア。今度の休みに一緒に出掛けないかい?」

漫画公開中  感想評価等の応援待っています


https://mobile.twitter.com/eI7UnTYEV36owgL

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