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邪魔するなら帰って下さい(才女)

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https://mobile.twitter.com/eI7UnTYEV36owgL

「それでは次の事例です。三十年前に起きたスコルドでの疫病対策ですが、その内容と効果、欠点と改善方法を上げて下さい。十秒以内に」


 パンドラによる政務の授業は正直言ってスパルタで、これでも本人が受けた物よりは些か甘くなっているって言うんだから驚きだ。

 まあ、僕をパンドラと一緒にして貰ったら非常に困る、だって彼女は天才で、その差は努力でどうこうなる物ではないと、その程度を理解する頭は持ち合わせているからね。


「その場合は……」


 だけど絶対的な才能を見せられて腐る気も完全に丸投げする気も毛頭無いんだ。

 パンドラは僕の誇りであり、憧れで、少しでも追い付きたいと願う相手だ。

 僕を支える彼女を僕も自分の得意分野で支えたいけれど、どうせだったら得意分野以外でも支え合える関係になりたいじゃないか。


 圧倒的な力の差の前に屈して、諦めて生きるのはちょっと情けないと思うからね。


「……五十点。間違った答えは出していませんが、足りない部分が幾つか有りました。では、若様の回答に足りない部分を挙げていきましょう」


「うん、宜しく頼むよ、パンドラ」


「ええ、お任せを」


 僕の返答に微笑みで返す時のパンドラは知的で美しいと思う。


「君が僕の側に居てくれるのは助かるよ」


「……それは妻としてですか? それとも政務官としてですか?」


「勿論両方さ。知的で優秀で美しい、そんな君に片方だけ期待するのは失礼じゃないか」


「ふふふ、今のは九十点越えですよ。……最後に”愛している”等の言葉が欲しかった所ですね」


 ……厳しいなぁ。

 まあ、今後は頑張ろうか……。


 パンドラが気に入る答えを出す為にさ。


 こうして普段から感謝の念を伝えて置くのは大切だと実感しつつ、だからこそ普段役に立って貰って居るのに直ぐに恩を返せない自分が少し嫌になった。


「夜鶴には少し悪い事をしたなぁ……」


 十歳の時から僕の愛刀として、配下として色々と動いて貰っている上に本体は陛下の護衛を任せ、忠誠心が高いのに側に置かないって扱いを少し気にしていたし、だから戻って来たら徹底的に手入れをする約束だったのに……。


 実際に再会したらパンドラの授業が有るからと少し待って貰う始末で、表情一つ変えずに退室したけれど、何となく落ち込んでいるのが背中から伝わって来た。


 ”自分は道具であり、どの様な形で在れ主の意のままに動く事が存在意義で、其処に一切の私欲も善悪も介入しない”、それが夜鶴の信念だけれど、分体である忍者隊”夜”の面々が個性を見せ始めるのを見れば妖刀だろうと心があるのが伝わるし、何だかんだ言っても僕に誉められたり側に置かれるのが嬉しいってのは分かっていた。


 ……忠誠心を弄んだ気分だ。


「……ねぇ、パンドラ。夜なんだけれど……」


 本当だったら今直ぐにでも約束を果たしたいのが個人的な願いだけれど、クヴァイル家の次期当主としての責務が勉強を優先しろと告げ、この勉強が終わって夕食を食べたら一旦祖国に急ぎ足で戻って”時”の力を振るう事になっている。


 なら、就寝時間を遅らせても良いか尋ねる事にした。

 相手が武器であっても、意志を持ち役に立っているのならば働きに報いるのも貴族の役目だと思うんだ。


「了解致しました。本来は休息をしっかり取って頂きたいのですが、それが若様のご意志なら。……スケジュールを調節し、後回しに出来る事は明日以降に回します。連絡が御座いますし、一旦失礼しますね」


 最後まで言い切る前にパンドラは僕の希望を受け入れ、それを叶えるべく動き出してくれる。

 本当に彼女は僕を助けてくれるなぁ。


「有り難う、パンドラ。何かお礼をするよ」


 だから彼女にも報いたい。

 僕に可能な事なんて彼女からすれば自力でどうにか出来るのだろうけれど、それでも何もせずには居られなかった。


「……そうですね。将来的に側室の地位は約束されていますし、この仕事にも十分なお給金を頂いていますが、此処で断るのも若様の厚意を無碍にする事になりますし……」


「僕に可能なら何でも良いよ」


 貴族としては少々不用意な発言だけれど、それだけの功績が彼女には存在するだろう。

 実際、実質的に領地を運営するのは彼女だしさ。


 僕の言葉にパンドラは少し迷い、急に背中を見せる。

 一瞬見えた彼女の顔は照れからか真っ赤になっていた。


「……で、では、僭越ながらお願いが。レナより前に私を抱いて下さい! し、失礼します!」


 少し早口で願いを告げたパンドラは急ぎ足で部屋から出て行き、扉が閉まる寸前に廊下の壁にぶつかる音が聞こえて来る。


「うーん、この前の誘惑の時も実際は随分無理をして見えたけれど、矢っ張りパンドラって純情な所が有るよね」


 レナと仲が悪いから感情的な物なのか、側室間の序列みたいな物の為なのか、兎に角無茶でも無理でもない以上は聞き入れるのが僕の責務だろう。


 まあ、レナの誘惑を自制する口実が増えて良かったよ。

 だって、レナスじゃあるまいし、てか、レナスも屋敷に来たなら顔を見せてくれたら良いのに、これは僕が勉強中だから先にリアスの所に行ったか……リアスが先なら諦めよう。


「あの子、本当にレナスが大好きだし、だから僕達を守る為に死んじゃってからは変な風に……あれ? あれれ? 僕、何を言っているんだ?」


 今、僕はどうして本当に体験した事みたいに感じていたんだ?


 確かにお姉ちゃんが語った裏設定で子供の頃に乳母が死んだ事で周囲の歪んだ教育の影響が強くなったって知っているけれど、僕達自身が体験していない以上は同名の登場人物の物語程度に過ぎないのに、僕は本当にレナスが死んでリアスがおかしくなって行くのを見ているしか出来なかったみたいな後悔の念を感じたし、目の前で息を引き取るレナスに泣いてすがりつく幼いリアスの姿が頭にハッキリと浮かび、一瞬で消え去った。


 変だ、あまりにも変だよ。


 言い表せない不安が押し寄せ、一刻も早く唯一相談出来るリアスの所に向かいたくなる。

 いや、こんな時こそ詳しく話しをしなくても励ましてくれるレナスを頼りたい。


 前世でも今の人生でも両親との関わりが薄い僕達にとってレナスは母親同然で、向こうだってレナ同様に僕達の事を自分の子供みたいに扱うし、時々息子とか娘って呼んで来る。

 リアスを守りたいって想いや家を継ぐ事の重圧で潰されそうな僕にとって寄りかかれて弱みを見せられる数少ない相手がレナスなんだ。


「……どうせだったら向こうから来てくれたら良いのに」


 それでも男の子としての意地が授業を放り出してまで探しに行くのを阻止して来る。

 我ながら馬鹿みたいな意地だとは思うけれど、男の子ってそんな物だろ?




「邪魔するよっ!」


 そんな僕の悩みなんてどーでも良いとばかりに壁が蹴破られ、右足でヤクザキックを放った姿勢のレナスが現れた。

 腕組みをして、相も変わらず八重歯を見せた凶悪そうな顔で……そして暖かい笑みを浮かべてくれていた。


「久し振りだねぇ、馬鹿息子。なーんか悩んでるみたいな顔だし、此処は一丁アタシに相談してみな! 乳飲ませてやってオムツ換えてやって風呂に入れてやってんだ。今更恥ずかしがる事は無いだろうさねぇ!」


「あはははは、レナスは相も変わらずだね。久し振り」


 本当にこの人は昔から何も変わらず、豪快で乱暴で、優しくて暖かい。接しているだけで勇気が湧いて来る、そんな素敵な母親だ。







「んで、ちょいと聞きたいんだけれどさ……レナは何時抱くんだい? 餓鬼の時分にくれてやるって言ったじゃないのさ。アタシがアンタの年頃の頃にゃ旦那を毎晩抱いてレナを仕込んでたよ」


「うん、レナスと一緒にしないで欲しいな」


 ……あ~、でも種族から来る考え方の違いだけはどうにもこうにも。

感想とかくれば嬉しいです 簡単なので良いので 一言でも嬉しいです


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