忍者と乳母
包丁、鋸、鉈、鋏。一口に刃物と言っても用途が色々有る様に、妖刀にも色々存在します。
例えば私”夜鶴”と、その対になっている”明烏”みたいに……。
刀工……不明
銘だけが伝わり、宿す力も不明なまま主も見つからず長い時を過ごした私達二振りは何時しか妖刀である事も忘れられ、只の名刀として多くの者の手を渡り歩いた。
時に十把一絡げの芋侍に使われ、不不相応な刀を手にして調子に乗った所で討ち死にし、それを拾った凡庸よりは少々ましな位の侍に、次はその主に献上され、その国が滅ぼされた後は商人から好事家に渡り、最後に意識を保っていた時は屋敷の居間に飾られていた。
……その後? どうやら押し込み強盗に奪われて再び人の手から人の手に渡り、最後は居間の主の屋敷の倉に納められていました。
尚、次々に主が変わる理由ですが、簡単に言うと”呪い”です。
これでも妖刀ですから。
呪いが発動する条件は二つ
1・二振りを別々の者が所持してはならない。
互いに引かれ合い、主が死んで別の物の手元で合流するから。
2・力を引き出す条件を満たさずに鞘から抜き、そのまま所持してはならない
その場合、次の者の手に渡るから。
そしてその条件とは”夜鶴と明烏が妖刀である事を知っている者が、それとは知らずに鞘から抜いたのが一度目の時に意図せずに刃に血を垂らす事”。
正直言って無茶苦茶で、偶然に偶然が重ならないと達成は不可能。
ですが、今の主はそれを見事に達成し私を目覚めさせた。
故に妖刀としての力で自らを振るう肉体を顕現させて跪いて忠誠を誓ったのです。
「……へ?」
例えそれが年端もいかぬ子供であろうとも理不尽としか言えぬ条件を乗り越えて主となったなら、本来なら刀剣が宿さぬ筈の心を鬼にしても……いや、心など蓋をして、道具として存在する事に喜びを見出すのが在るべき姿。
私が持つべきは道具としての誇りのみ……だったが。
「……何だか怪しい奴だねぇ。チョイとボコって話しを聞き出すか。ロノス、アンタも刃物に不用意に触るからこんな事になるんだ。罰として稽古は暫く延期だよ!」
困惑して立ち尽くす主を庇う様に立ち塞がった本物の鬼の姿を見た瞬間、持ち得ぬ筈の死への恐怖が私を支配する。
頭部の紅い角に尖った八重歯、凶暴そうな瞳で私に警戒と疑念の色を向け、同時に庇った幼子三人へは厳しくも暖かい母の慈愛が籠もった眼差しを向けていた。
その女性に乱暴に頭をグリグリと撫でられている主の背後の二人の女児、片方は双子らしく主に似ているが、もう片方は女性似で、同様に頭に角がある。
恐らくは後者が実の娘だろうが、それでも双子へも愛情を向けているのは感じる。
命を奪う為の道具として生まれた私でさえそれが理解出来た。
「ほら、レナはロノスの手当をしてやんな。手の平を切っただけだが、それでも妖刀の類だ、油断ならない。刃物を持つ時は細心の注意をって何度も言った筈だけどねぇ」
「ご、ごめんなさい」
「よし、反省してるね。なら稽古の延長と尻叩き十回で勘弁してやるとして、今は目の前の奴から妖刀の力について聞き出すよ」
成る程、私の様な妖刀から人が出現すれば危険視するのが当然で、子を守る親ならば尚更だ。
私は主の母親だろうと判断した女性に弁明をしようと口を開き、言葉を発する前に殴り飛ばされて壁をぶち抜いた。
いや、幾ら何でも理不尽過ぎないだろうか?
「……あっ」
あの日から六年程が経過し、私は強くなったと思う。
正確には主が強くなった結果連動して力が上がり、それと同時に体の動かし方を洗練させたのですが、走馬灯の様に蘇った記憶がそれを確信させてくれる。
「へぶっ!?」
だって当時は殴られてから攻撃に気が付いて居たのが、今は咄嗟に腕を間に挟み込み、結局意味無く殴り飛ばされる程度にはなったのだから……分体が。
「ひ、酷い……」
自らを振るう肉体だけでなく、五感を共有可能な分身を作り出すのも我が力の一つ。
長期間出しっぱなしにしているせいで微妙に個性が生まれつつある中、今殴られたのは分体の指揮官ポジションの為に何かと主の命を受ける事が多いが、それは囮に選んだ事には無関係。
私、心捨てている。故に無関係。
扉が開く寸前、呼び出したのは殴られたのも入れて三体。
分体三体が間を開けた横並びになり、私は天井に天地逆転の姿勢で飛んで折り返す。
本体権限で正面の一体の動きを止めて隙を作り、左右と上からの強襲こそが本命。
……お覚悟!
「……ふ~ん」
全く気にも止めない言葉と共に左右の分体の腕が掴まれ、真上の私に左右から叩き付ける。
「及第点……時間稼ぎとしてはだけどね。まあ、中々だったよ」
そう、これは全て本命の為の布石であり、私は本体である大太刀を放り投げて距離を取って肉体を消し、私が稼いだ一秒で魔法を発動させたリアス様が拳を振るう。
身体強化魔法”アドヴェント”。絶大な威力を誇る光魔法の中で本人曰く”結局一番強いのがこれ”な切り札。
剣に炎を纏わせる類の追加ダメージの効果を狙った物ではなく、体に纏った光自体に攻撃判定は皆無。
只単純に肉体を強くする、本来ならば補助程度に使われる単純明快な力……故にリアス様が使えば理不尽な間での力を発揮する。
「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃっ!!」
「へぇ……成長したじゃないのさ」
繰り出されるのは拳打の嵐、猛乱打。
一撃一撃が巨大な鉄の門さえこじ開ける程の威力を秘め、それが腕が何本もに増えて見える速度で放たれる。
そんなリアス様の気合いの入った猛攻に対し、相手は只々感心した少し嬉しそうな様子で迎え撃ち、その全てを手の平で受け止める。
只止めるだけでなく、衝撃を逃がす事でリアス様の拳に猛攻の反動が来ない様にと気を配る余裕すら見せ……最後に両腕を大きく広げて正面から抱き締めた。
「少し見ない間にずいぶん成長したじゃないのさ、リアス! それに背の方も結構伸びてて何よりだねぇ。まっ! 胸に関しては全然だけどさ! あっはっはっはっはっはっ!」
「もー! 久し振りに会ったのに胸の事は言わないでよ、お母さ……レナス!」
「悪い悪い。可愛い娘との再会が嬉しいからついね」
普段気にしている胸について指摘されても怒り出さず、拗ねた様子も何処か演技に見える程に嬉しそうなリアス様を抱き締めたまま彼女は、レナス様は豪快に笑って頭をガシガシと撫でる。
ああ、あの瞳は初めて出会った時と全く変わらんし。
あの瞳は子を愛する母親の物だった……。
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