素直になれない、面倒臭い
「ふむ。流石はクヴァイル家、仕事が速い上に上々な出来映えだ。……妾も母は予想が付かん方とは思っていたが、まさか家のドアを開くと庭に出るとはな」
ロノス達の登校後、昨夕に急遽屋敷の庭と管理地を繋げられたレキアは満足そうに用意された部屋を眺める。
本来なら管理する領域に家があるのだが、入り口のドアを開くと外に繋がって居たというのが慌てて窓を叩いていた理由だ。
驚き慌てふためいて当然である。
急に管理する領域の接続先を無断で変えられ、お気に入りの家具を揃えた家に入ろうとすると知人の屋敷の庭に繋がっていた、実に意味不明な事になって業腹だろうが、何せ相手は母にして王、直々に文句を言うには相手が悪い。
「若様も随分と心配していまして、私財から幾らか資金を出して頂きました。”長い付き合いだから”と言って」
そんな彼女が満足そうに頷く訳は用意された部屋にある。
人形の家と言い表すには精巧に作られた小さい家は、それでも大きめの客室の半分以上を占めるサイズであり、中の調度品も妖精の職人が作った物。
用意を指示したのが昨夕で、用意が終わったのがお昼前、実に早い仕事にラキアは何時もの高飛車な態度での文句を一切口にせず、パンドラから告げられたロノスの行動に嬉しそうにしていた。
「……ふふふ、そうか。ロノスの奴が妾の為にな。これは礼をせねばならぬだろう。さて、何が良いものか……」
妖精サイズのソファーに座り、腕組みをして考えて始めるラキア。
普段ロノスに対しての言動からして別人であり、双子の姉妹で別人だとでも言われればロノスが信じてしまいそうな変わり様だ。
「……そうやって素直に接すれば仲が進展するのでは? 確か”ギャップ萌え”とか呼ばれる奴で」
「言うてくれるな。妾とて素直に接したいと思ってはいる。初対面の時、奴は妖精の姫である妾に臆する事も媚びへつらう事もせず、”友達になろう”、そう言ったのだ。まあ、当時の妾はかしずかれて当然で、”人の子は妖精を恐れ敬うべき格下”、そんな考えがあったから反発してな、珍しい力だから従えようと躍起になるが、どんな態度でも奴は対応を変えず……何時しかそれが嬉しくなった」
高貴な態度を崩さなかったラキアだがロノスとの思い出を語る時は年頃の少女の顔となっている。
それに対してパンドラはと言うと……。
「はあ。ですが今更素直になれず、高圧的な態度を改められないという面倒な状態なのですね?」
”この人、面倒”と思っているのが一目で分かる表情だ。
「……それも言うてくれるな。と言うか、貴様は妾に媚びても良いのではないか?」
懐かしそうに語った直後に受けた指摘が図星だったのはラキアの顔を見れば明らかで、パンドラの言葉に気まずそうにしている彼女だが、其処は気位の高い王族、負けてたまるかと不機嫌さを向ける。
勿論これは演技であり、ロノスの側室となるパンドラを牽制する気……なのだが。
「いえ、私の役目は正室と側室全員の取り纏め役も含まれますので」
「下に就けども従わず……という奴か。いい性格をしているな、貴様」
「お褒めいただき光栄です、ラキア様。……所でその口振りからすると若様との婚姻に異議は唱えないと受け取れますが、若様に報告しても? ああ、これも”言ってくれるな”、でしょうか?」
「……本当にいい性格をしているな、貴様」
此奴には勝てる気がしないと、逆に力の差を思い知らされるラキア。
パンドラは丁寧な態度でお辞儀で返し、腹の中を一切読ませなかった。
「……まあ、否定はせぬ。だが、正直言って妾の恋心は幼い。婚姻に至るかどうか微妙な位にな」
「自覚はあったのですね」
「だが、母上は奴と妾の婚姻を望んでいる。母娘と言えども相手は女王。意向に添うべく動くのは当然であろう?」
笑みを浮かべるラキアにパンドラは返答を無言の礼を持って返す。
「まあ、奴がどうしても婚約して下さいと頼み込んでからの話だ。それまでは貴様も話すなよ?」
「……だったらもう少し素直になったらどうですか?」
「……言ってくれるな」
”これは時間が掛かりそうですね”、そう思ったが飲み込んだパンドラであった。
当然顔には出していたが。
「・・・・・・にしても少し浮かれ過ぎじゃないの? たかが舞踏会じゃないの」
お昼休み、今日は女子会って事でお兄ちゃんと別々にご飯を食べている私達だけれど、本日何回目かの歓喜の雄叫びが聞こえて来るのに辟易しちゃう。
パートナーが見付かったからってそんなに嬉しいのかしら?
「リアス様は祖国で何度も参加していますからね。・・・・・・見ていて笑いを堪えるのを通り越して不気味よ、アリア。この方が淑女って感じで踊りの誘いに付き合うんだもの」
「幾ら私が疎い話題でも、そんな見え見えの嘘には騙されませんよ?」
「あんた達ねぇ・・・・・・」
好き勝手言ってくれるじゃないのよ、二人揃って。
「言っておくけれど本当に大変なんだから。陛下主催のパーティとかでご飯だけ食べてるとか無理だし、普段のガサツな態度だって駄目だから如何にも”聖女でございます”って態度を取らなくちゃ駄目だし」
仁義とか義理とか大切な物の為に無理してたけれど、思い出すだけで疲れがドッと押し寄せる。
……あ~、午後の授業がダッルイ。
「午後は何だっけ? 武器使った模擬戦?」
「そんな訳が無いですよ。確か舞踏会に向けてダンスの練習です。パートナーと踊り慣れていないと本番で転んで足を挫く可能性だって有りますし、リアス様も……えっと、共和国の彼と一緒に踊るのに慣れておいて下さいね。私はフリートとは既に慣れているので大丈夫ですが」
「はいはい、ダンスは苦手じゃないから大丈夫よ。アリアも頑張りなさいよ? お兄様、ダンスは下手じゃないけれど得意でもないし……あれ?」
アリアの目が泳いでいる?
あれ? 一体どうして……あっ。
「アリア、もしかして(ダンスは)未経験?」
「はい、ルメス家は貧乏で舞踏会を主催する余裕は有りませんし、他の家からの招待にしても私はほら……」
言いにくそうな様子で触れた自分の髪の色は黒、この世界では忌み嫌われる”闇属性”の証で、ついでに言えば私とお兄ちゃんが任された街の発展の影響でルメス家って財政が逼迫したのよね。
これで赤の他人だったら別の国だし正しく”他人事”だったのよね。
ほら、前世のテレビとかで危機的な貧困に陥ってる国で子供が過酷な労働をされているって知っても大変だとか同情しても、長年コツコツ貯め込んだお金を放出する人なんて稀でしょ?
だから家の力でアリアの実家を支援したりはしないけれど、思う所は有るのよね……友達だしさ。
「そっか、アリアは初めての相手をお兄様に選んだのね。お兄様も上手な方じゃないから大変だろうけれど頑張って」
「リ、リアスさん、その言い方は……ちょっと」
「え? 何で真っ赤になってるの? 私、何か変な事言ったかしら?」
「いや、その、あのぉ……」
私は全然変な事を口にしていないのにアリアったら凄く恥ずかしそうにしてるし変なの。
「ねぇ、チェルシー。私、変な事言った?」
こんな時、こんな時こそ友達であるチェルシーの出番よね。
この”私が変な事を言っちゃった”みたいな空気をどうにかしてくれる筈!
「リアス様はもう少し言葉遣いを学びましょうね」
……あれぇ?
私の味方、一人も居ない?
「それでどうしましょう? 私、舞踏会で失敗してロノスさんに大恥を掻かせちゃうのは……噂になっている”望みの国”が本当に有ったらなぁ」
「……うん? 望みの国?」
ゲームではそんなの出なかった……筈よね?
アリアの意味深な呟きに何故か私は不安を覚えたわ。
朧気だけれど起きるはずの大事件を把握していた筈のこの世界で起きようとしている大きな出来事、それに私達が巻き込まれる事になるだなんて、この時は予想もしていなかった……。
「……主は未だご帰宅せぬのでしょうか」
一方その頃、くノ一がお兄ちゃんの部屋で跪いたまま戻るのを待っていた。
「体の隅々まで主直々に手入れ……」
評価とか感想有れば嬉しいです
予定では本日宣伝漫画が届くはず