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恥を知る

「半信半疑だったな。まあ、僕だって”攻撃される理由に覚えはないけれど、国に一人居るか居ないかレベルの使い手に襲われました”って他国の人間に言われて直ぐには信じないか」


 あの後、何とかサラシを巻いて胸を潰した頃合いに騒ぎを聞きつけて王国騎士がやって来たけれど、僕達が(爆弾関連は省いて)した状況説明は完全には信じられなかった。


 ”何かあったのは確実だが、自分達の武勇伝の為に盛っているのでは?”、そんな疑いの眼差しだったし、アンリが言うみたいに僕だって騎士の立場なら信用はしない。

 だって他国の貴族で、更に言うなら特に高名な武勇伝を持っている訳でもない学生だ。


 長時間の拘束もされず、簡単な聞き取りだけで済んだのは過小評価の結果か、はたまた何か王国に問題があって、それに他国の貴族が巻き込まれたとなった場合が怖かったのか、有力なのは王妃の甥っ子が関わってるから変に睨まれるのが嫌だったって所じゃないのかな?


 ……あの人、お祖父様と同じで身内贔屓とか合理的じゃないって嫌うタイプの人なのにさ。

 怖いのは認める、凄く気持ちが分かる。


「……多分別口でお呼び出しが掛かるんだろうなぁ。ごめん、アンリ。その時は爆弾の事を隠し通せないかも」


「まあ、公式の聴取じゃないのなら王国だって騒ぎはしないだろうし、国同士が敵対したなら強制的にでも聞き出される情報だろうから構わないさ。あくまでも再現不可能な上に僕の趣味の産物だ。軍事機密でもあるまいしな」


 アンリは叔母上様の怖さを知らないが、僕の様子に何かを悟ったのか肩を竦めるだけで許してくれる。

 流石は木で隠しているだけで直ぐ側に居るのに着替えられる位の信頼を築けている友人なだけあるし、僕はそれが凄く嬉しい。


「悪いね。今度何か奢るよ」


「じゃあ王国随一の高級レストランのフルコースを頼む。学生の身分じゃ気軽に利用出来ない値段だからな。まあ、君は結構稼げているのだろう? なら遠慮はしないさ」


「稼げている、かぁ……」


 うん、確かに書類上は任されているけれど実際の運営はパンドラに任せている街だって有るし、僕名義の財産だってそれなりに有る……けどさ。


「……む? 君、もしかして財布の紐でも握られているのか?」


「一部だけね。まあ、その内ご馳走するよ。まあ、それはそうとして……先ずは勝利を称え合おう」


 エンシャントドラゴンゴーレムの撃破後、アンリが胸に巻いているサラシが解けたからやっていないが、僕達はレースが終わったり、途中で襲って来た相手を撃破した時はやる儀式みたいなのがある。

 始まりは僕が前世で映画か漫画かで見たシーンの再現、向き合って擦れ違う寸前に顔の辺りでのタッチ。

 僕は冗談で提案したんだけれど、アンリの方が気に入ったから毎回しているんだ。


「じゃあ、久々のレースと……」


「強敵の撃破を祝して……」


「「お疲れ様っ!」」


 互いの手の平を叩き付ける乾いた音が響き、思わず笑みがこぼれる。

 男の友情ってこんな物だと思うよ、アンリは女の子だけどさ。


「さてと……もうすっかり遅くなっちゃったし、帰ったら怒られそうだ。アンリ、寮の門限は大丈夫、な訳無いか……」


「夕飯抜きだな。一応使用人は連れて来ているが、ルールを破っての罰則な以上は作って貰えないだろう。想定外の事態の結果だが、自分の意志で出掛けた先でのトラブルなら特別に免除はしないのがウチの家訓だ」


「互いに厳しいね。僕も帰ったらメイド長に怒られそうだ」


 彼女、昔はレナスとは別に僕達を叱る役目だったし未だに苦手なんだよね。

 ……所であの頃から既にメイド長だったし、見た目は若いけれど何歳だっけ?



「互いに下が怖いと大変だな」


「下が何も言えないなら、それはそれで問題だけど、ちょっと勘弁して欲しいとも思うよ」


 メイド長への疑問は不思議な位に気にならなく、僕達は少しでも怒られるのを防ごうと慌てて帰路を急ぐ。

 アンリは寮だから途中でお別れして屋敷に戻れば門前でパンドラとメイド長が待ち構えていた。


「既に連絡は来ています。なので遅くなった事は何も言いません……が」


「先日の騒動の後に人目の無い所へ向かって騒動に巻き込まれた軽率さは後ほど咎めさせて戴きますね」


「……うん



 返す言葉もないとはこの事だろう。

 確かに事前にレースする事は伝えたけれど、向かった先が悪かったとしか言えないもんなぁ……。


「まあ、それは後にするとして、重要なお客様が来ています。直ぐに客間にお向かい下さい」


 客人が誰かなんて聞くまでもない。

 だって屋敷の内側から漏れ出す光が少し離れた場所からでも見えていたからね。


「キュイ?」


「あー、うん。ポチの件だろうね。先払いで言葉が通じるようにして貰ったけど、別の相手に問題を解決されたからさ。……でも、それなら呼び出すよね?」


 ポチとは門前で分かれ、僕は急いで客間に向かう。

 別れる直前に交わした会話の通りにあの方が来た理由は思い浮かぶけれど確信に至るには弱いし、何か不安になって来たぞ……。


 屋敷の中は客間の扉から漏れる光に照らされていて日光に照らされた屋外みたいに明るい。

 少しは光を抑えてくれたら……そんな気遣いが出来るタイプじゃないか。


 本人に聞かれたら少々不味い事を考えながら客間までたどり着き、ノックをしてから扉を開ける。

 眩しさに目を細める中、優雅な仕草でワイングラスを傾ける高貴そうな女性が足を組んで此方を正面から見ていた。



「久し振りであるな、ロノス。息災であったか?」


「お久しぶりです……女王陛下」


 亜麻色の髪を伸ばした美高貴さとそれに見合った傲慢さと気高さを併せ持つ美女。

 緑を基調としたドレスと銀のネックレスと金の王冠で着飾った彼女の背には虹色に輝く透明な蝶の羽があった。


「先日は娘の所に行って貰い助かった。あれは気丈で他人に頼るのを嫌う。まあ、気楽に接しろ」


 彼女はレキアの母であり、妖精を統べる者。



 妖精女王”ニーア”は僕を見定める瞳を向けながら微笑んでいた。




「は、恥ずかしい!」


 リアスから借りた本を閉じ、鏡に目を向ければ耳まで真っ赤だった。

 私が読んでいたのは”普通の”恋愛小説で、本棚に在る古びたのは母から受け継いだ”普通じゃない”恋愛小説。


 例えば貴族令嬢と庭師の少年が禁断の恋に落ち、偶然が重なって二人っきりになっったら主従が逆転、メイド服の令嬢が体を使ってのご奉仕をする……まあ、官能小説だ。


 恋愛について語る友達も居なかったし、そういった事を教えてくれる教師を雇うお金が無いくらいに私の家は貧乏だった。


 仮にも貴族の家の跡継ぎ娘が使用人の一人も連れて来れないのは言わずもがな、隙間風や雨漏りの修繕にも困っていた位だ。


 だから私は本で恋を学んだけれど、驚く事ばかりだった。


 先ず、少し良い感じになった程度で会ったばかりの男女はキスをしないし、当然だけれど肉体関係だって結ばない。


 私達位の年頃は恋愛に興味を持つけれど、キスなんて中々其処まで進展せず、手だって気軽に繋がない上に体を密着なんてはしたない……。


「私、もしかして恥ずかしい事ばかりを……」


 普通の恋愛を知った今、思い返すだけで顔が熱くなるし、体で取り入っていると噂されても当然な気がして来た。


 じゃあ、明日から普通に接する? 今更変えると逆に意識してしまいそうで……。


 それに既に告白までしたし……。


「は、恥ずかしいけれど今のままで……」



 だって恋が叶うなら私の立場は家柄からして側室か妾、それは構わないが、どうせなら一番になりたいという欲が出て来た。


「べ、勉強の為……」


 母が遺した本の一冊を手に取って開けば目に入って来たのは挿し絵のページで、丁度初夜を迎えた場面で、色々と行為の方法について詳しく描かれていた……。





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