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まじめな危険人物

 十歳の時に十歳まで生きた前世の記憶を取り戻した僕だけれど、転生した事による価値観への弊害って思ったよりも少なかった。


 だって十歳迄その価値観で育ち、十六になった今までもそのままなんだ。

 気分的には、少しの間風習が違う所で暮らして居たから、其処に慣れるまでと戻って暫くは違和感を覚えてしまうって感じだ。


 でも、例外は存在する。


「な、何だ、あれはっ!? あの巨体はまさか”エンシャントドラゴン”!?」


「……その姿を模したゴーレムだし、エンシャントドラゴンゴーレムって所だね」


 ”エンシャントドラゴン”は大空の支配者であるドラゴンの中でも長命にして最強格の存在で、他の種族ともテレパシーを通じて話せる上に知能も魔力も人間とは比べ物にならない。


 ……ゲームでは体力無限で”負けイベントバトル”の相手だった。

 まあ、無限だなんて現実では有り得ないから規格外にタフな上に治癒力が異常って所だろうね。

 実際、知り合いの二人が喧嘩友達の相手との本気の戦い勝ったのを見た事あるし。


 いやね、寝ている所を叩き起こされて、”後学の為”だって言ってグリフォンに乗せられて向かった山脈の頂上で見せられた戦いは迫力があったよ。



「あんな偉大な存在を再現したゴーレムを創り出す相手に恨まれる覚えが無いのだが、君はあるか?」


 恨まれる覚えは……うん、逆恨みを含めて身内関連が多い。

 お祖父様と叔母上様、どっちも腐敗貴族に厳しいからね。



「僕達は貴族だし、知らない所で恨みを買っている可能性はあるね。ただ、どう見ても超一級の使い手が万全の準備を整えないとあんなの出せないし、当人にせよ莫大な報酬で動いたにせよ、依頼人を含めてそんな大物が動いたって情報は無いよ」


「確かにそうだな。あんなのを出す実力者にも、そんなのに依頼出来るのにも思い付く限りでは変な関わりは無いぞ、僕も」


 この世界のドラゴンは前世の世界にいたペンギンなんだけれど、他の人は格好良さとか偉大さを見出すんだ。

 それこそ前世の神話やおとぎ話に出て来るタイプのドラゴンを前にした様に。


 ……でも、僕は十一の時まで絵でしかドラゴンを目にしていなくて、前世では水族館やテレビや絵本、ヌイグルミによってペンギンを目にして、”可愛い”って印象が深く刻まれている。


 尚、エンシャントドラゴンはコウテイペンギンで、タマはイワトビペンギンだ。


「最初に強く残った評価って中々覆せないよね、アンリ」


「何の話か知らないが、今は集中しろ! 来るぞ!」


 霧が立ちこめてもいないのに見えない程に深い谷底に立っているにも関わらず、超巨大ペンギンゴーレム……じゃなくてエンシャントドラゴンゴーレムは頭の先が崖の際ギリギリに達する程に大きい。


 これが前世のゲームとかでお馴染みのドラゴンの姿だったら凄い迫力だったんだろうけれど、目の前の相手じゃね……。


「確かに上の空じゃ相手は務まらないね。ポチ!」


 どうも可愛さとか間抜けさを感じ取ってしまう僕だけれど、アンリの叱責に気を取り直して魔力を練り上げながらポチに指示を出して距離を開ける。


 餌でもねだる雛鳥みたいに上を向いて開いたエンシャントドラゴンゴーレムのクチバシの奥が赤く輝いて熱線が放たれた。

 一気に周囲の空気が熱せられ、旋回して避けた僕達を追ってなぎ払う熱線に触れた岩が溶け、近くの木々は燃え盛り始める。


「アレだけの大質量のゴーレムを創り出すだけでなく、この規模の火魔法……僕達は戦争にでも巻き込まれたのか? どれだの人数の凄腕が僕達を狙っているんだ。追って来られれば誰かを巻き込むし、取り敢えず相手をしない訳には行かないが、先ずは森林火災を防ごうか……”アイスストーム”!」


 燃え広がり始めた森を見ながら焦りを顔に滲ませるアンリが魔法を放てば森林の中央で風が渦を巻き、氷の粒を大量に含んだ嵐になって吹き荒れる。

 木々は霜に覆われ、火事は消えて、これで一旦は安心……一旦はね。


 次のが来るまで時間が掛かるってのは楽観的過ぎると警戒しながらエンシャントドラゴンゴーレムを観察すると、濛々と煙が上がる口の部分が崩れ落ちていた。


「自分の攻撃に耐えられていないのか。まあ、この辺りの土は粘り気が少ないし、岩も中がスカスカだ。ゴーレムにするには向いていない。誰かは知らないが、魔法の才能はあっても魔法を使う才能には乏しいらしいな」


「挑発は程々にね。ほら、何処に居るのか分からないけれど聞こえたみたいだよ」


 エンシャントドラゴンゴーレムは両の翼を力強く羽ばたかせて宙に浮き、崖の上に降り立つと再生を始めた口を向けて再び熱線を放とうとしたんだけれど……。


「……居たな」


「丸分かりだね」


 下腹部の中心辺り、その部分が赤く明滅して内部には人影が見える。

 強い魔力も感じるし、あれが術者で間違い無いって言うか、ゲームでもそうだったからね。


「僕がやろうか? あの程度ならどうとでもなるけれどさ」


 中が誰かは知らないけれど、感じる力からして楽に下せる相手だし、これ以上は好きにさせておくのも癪だ。

 さっさと倒して口を割らせる……と言うのも理由だけれど、もう一つは……。





「いや、僕がやろう。……何時こんな事態に巻き込まれても良い様に準備をしていたんだ。実戦形式の実験の機会のな!」


「……あ~あ、遅かったか」


「……ピー」


 頭が痛くなる僕とタマの前でアンリは前側のボタンを全て外して服を両側に開いた。

 ……まるで露出狂の痴漢みたいなポーズだよね。


 そんなイメージを抱くけれど口にする勇気は湧かないし、その勇気は蛮勇だろうさ。

 だってアンリの服の内側には大量の爆弾が隠されていたんだから。



「相変わらずの爆弾マニアかぁ……」


「違うな。爆弾制作マニアだ!」


 それ、そんなに堂々と否定する程の違いなんだろうか? 

 でも、細身の瓶みたいな形の爆弾を大量に仕込んでいるのが相手だから言わないってか言えない。



「先ずは此奴だ!」


 再び熱線を放とうとした口の中に投げ込まれた瞬間、大爆発。口の周辺が大きく削り取られている。

 威力が予想以上に高いな……。



「どうだ、驚いたか? 魔力に反応して暴発させる新型爆弾、名付けて……”マナ・ボム”だ」


 ……この通り、アンリは爆弾制作を趣味兼特技としている変わり者で、新しい物を作り出す度にこうして実験を楽しんでいる。

 友達でありライバルでなかったら関わりたくない類の危険人物だよ、正直さ……。


「ああ、本当に脆いみたいだね。自分の体重を支えるだけで精一杯みたいだ」


 頭のヒビが徐々に広がり、術者が居るであろう辺りギリギリで漸く止まる。

 徐々に修復されているけれど、後一押しで完全に砕け散りそうだ。


 そんな状態でエンシャントドラゴンゴーレムは満足に動ける筈もないし、此方に半壊した顔を向けるけれど動かす度に首の表面の一部が剥離する。


「最後まで手を出してくれるなよ? ロノス。今度は強力な衝撃を一点集中させるとっておきの……」


 さて、この辺りの岩は脆いのはアンリが語った通りだ。

 そんな岩の崖の上で巨体が暴れ、更に爆発の衝撃が有ったならどうなるかって言えば、得意顔で別の爆弾を取り出したアンリの目の前で音を立てて崩れるさ。


 エンシャントドラゴンゴーレムは崖底に真っ逆様、落下と崩落によって粉々に砕け、術者が居ただろう場所も岩の下だ。


「えっと、手を出して良いよね? もう終わっているしさ……」


「……ああ」


 非常に気まずい空気の中、アンリは何事も無かったみたいに爆弾を仕舞い、僕は崩れた崖のみの時間を戻す。残されたのはエンシャントドラゴンゴーレムの残骸のみ。



「……逃げられたか」


 でも、その中には誰の姿も無く、地面には深い穴。わざわざ追うには準備が足りないな。



「やれやれ、手落ちだね。報告が憂鬱だ」


 それにしても、一体誰が何の理由で襲って来たんだ?

漫画作成中 キャラ設定画来ました

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