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妹の評価は厳しい

「ねぇ。お兄様って間違い無く尻に敷かれるタイプよね」


 馬車から降りて校舎に向かう最中、リアスがそんな事を言って来たから何となく否定しようとして、僕を尻に敷くのが確定のパンドラ以外で婚約者候補な子達を思い出してみる。


 レナ……絶対相手が上手


 他にも聖王国の防衛で重要な役目を担う例の部族の族長の娘とか、本人達を無視して女王様やお祖父様が話を進めそうな(貴族ならそれで当然なんだろうし、それでもそれが嫌われる理由であろう)レキアとか……。


「う、うん。僕は僕の得意分野で実績を重ねて発言力を高めるよ」


 何もパンドラに政務関連で対抗する必要は無い。

 僕は武力を高め、それで活躍すれば良いんだ。……多分。


「取り敢えずパンドラだけは諦めたら? 多分勝てないから」


「ま、負けは認めない!」


 だって悔しいじゃないか。

 せめて横に並びたいんだ……。


「お兄様なら大丈夫ね。まあ、パンドラは強敵だろうけれど頑張って」


 リアスは少し強めの力で僕の肩を叩いて勇気付けてくれる。

 こうして僕を信じて応援してくれる家族が居るのがどれだけ僕の支えになっているか、それを忘れたら駄目だと心に刻む中、不自然な影が僕達の背後から迫っていた。


 影とは光を遮る物が存在して初めて存在する物なのに、その影は違った。

 大きさは小柄な大人が体を丸めた位で形は歪。

 姿を隠すつもりなのか他の影から影へと移動するけれど、逆にそのせいで移動が増えて目立ってしまっている。


「……ねぇ、あれって」


「しっ! 気が付かない振りをしよう」


 顔は真横に向け、視線だけ影の方に動かしながらリアスが指摘するけれど、反応するには少し早い。

 ちょっとだけ歩く速度を上げれば影も慌てた様子で追って来るし、何やら震えて目立っていた。

 他にも気が付いてはいる生徒が居ても、何やら気味悪そうにするだけで何かしようとする人は居ない。


「……」


 流石に此処までが限度かな?

 僕が無言で立ち止まればリアスもそれに続いて止まり、後ろから付いて来ていた影は形を波打たせながら慌てた様子で僕達の前に回り込み、そして言葉を発した。



「お二人共、お早う御座います!」


「やあ、お早う」


「お早う、アリア」


 声を出すと同時にまるで水中の魚が飛び出すかの様に影から飛び出して来たのはアリアさんで、悪戯が成功した時の様なお茶目な笑顔を向けている。


 だから僕達も敢えて驚いた演技はせずに普通に対応、アリアさんは混乱している。

 凄く可愛い。


「え? ええっ? あの、驚かないのですか? 昨日思いついて成功した魔法でして、影に潜って移動が出来るんです。息が出来ないのが欠点ですが」


「まあ、ちょっと目立ち過ぎね。影に同化して隠れるってのを意識するあまりに逆に目立っていたわ」


「そ、そんなぁ。絶対驚くと思ったのに……」


 こうやって悪戯が失敗して落ち込む姿も可愛いし、本当に表情が豊かになったよ、彼女。

 出会った当初は上っ面だけの偽物の明るさだったのに、今じゃ本当の明るさになりつつあるし、あの眼鏡もそんな所に惹かれたのかな?


「アリアさんは見ていて癒されるね」


「ほへっ?」


 おっと、思った事がつい口から出てしまった。

 でも、紛れもない本音で、こうやってアリアさんと一緒に行ると何か落ち着く気がするんだ。



「そ……そうですか。ロノスさん、私と一緒なら癒されるんだ……」


「う、うん。変な事言ってごめんね?」


「いえ! 嬉しいです!」


 嬉しい様な恥ずかしい様な顔をしているアリアさんに言えない事が有る。

 癒されるって事にも色々種類があって、アリアさんの場合は小動物と戯れているみたいって言うか、何故か偶に犬の尻尾を幻視するんだよね、アリアさんに。




「何と言うか君は相変わらずだな。友として不安になって来る。……もう少し女の扱いを覚える事だ」


 溜め息と共に僕を心配する友の声、振り返れば呆れ顔のアンリが朝食なのか串焼きの肉を片手に立っている。

 一番小さいサイズの制服でも少し大きめに見える男子用制服だけれども、結構似合ってはいるんだよね。


「……何だ?」


「いや、僕が言ったら君が怒りそうな事だよ、アンリ。ほら、遅刻するから行こうか」


「未だ余裕が有るだろう。君は何を誤魔化しているんだ!」


 僕が背が高い方だって事も有るし、それ以外の理由でも怒りそうなんだよね、どっちも理不尽だけど。

 何となく僕の考えが読めているのか睨んで来るアンリに背を向けた。


「さてね。……あっ、そうだ。明日から忙しくなるし、今日辺り放課後に遠乗りにでも行かない?」


「良いだろう! 今期のレースの前哨戦だ。タマは常に万全の状態に仕上げている」


「ああ、僕が三連覇して、君が三大会連続で準優勝しているレースだね」


「……見ていろ。次こそ君に勝って僕がチャンピオンに返り咲く」


 僕とアンリは友人だ。

 でも、レースが絡めば友人は宿敵に急変する。



 共和国で毎年開催されるモンスターの騎乗レースの空中部門”アキッレウス”

 僕は三年前に参加して三連覇、だけれど毎度僅差。


「前回は正しく鼻の差だった。今度こそ僕が優勝だ。何せタマは全盛期を迎えているからね」


「相棒の仕上げを整えてるのは僕も同じさ。いや、ポチは未だに全盛期を迎えてさえいない。成長力は圧倒的だ」


 この時ばかりは友情を忘れ、宿敵である相手を睨む。

 互いの騎乗技術と相棒の力への自信は十分で、相手も拮抗しているのも理解しているから、残りは結果で示すだけだ。



「ひ、火花が見えます! アリアさん、二人の間に火花が散って見えます!」


「お兄様はポチが絡むとアレだけれど、類は友を呼ぶって事ね」


 正々堂々戦って、完封無きまでに勝ってやる。

 


 ……所でアレってどういう意味だい?





「……来ていない? へ~」


 教室に到着した時から気が付いていたけれど、アイザックの姿が見えない。

 ……取り巻きって建て前の見張り連中が消えたから帝国に呼び戻されたのかと思いきや、パンドラがそんな事は言ってなかったから遅れているだけかと思いきや、フリートの所にも詳しい情報は入って来ていないまま昼が来た。


「彼奴と俺は選択授業が被ってんだが連絡も無しに欠席だとよ」


「……てか、わざわざ気にしてくれてたんだ」


「まぁな。お前の妹に夢中なのはどうでも良いが、俺様の婚約者にも影響しそうだしさ」


 消されでも……は流石に早急か。

 邪魔な存在だろうと弟をあからさまに始末すれば皇帝の権威に関わる。


「……パンドラが把握していないって事は何かがあったのは朝の事かな? 帰ったら聞いて……早いな」


 敷地内に入って来た一羽の鳥が僕の膝の上に封筒を落とす。


「随分と可愛いイラスト付きの封筒だな。お前、幼い従姉妹とか居たか?」


「いや、年上の婚約者。……イラストにはノーコメントで」

 




「お茶です。ああ、それとも強い飲み物の方がお好みでしょうか?」


 ロノスがアイザックの事を頭の片隅に置いている中、豪奢な部屋のソファーに座り、王族であろうと滅多に口に出来ない高価な茶葉を使った紅茶と菓子を前にして無言を貫くアイザックの姿があった。


 真横に立ち、甲斐甲斐しく彼の世話をするのはシアバーンであり、その周囲にはアイザックの好みに不気味な程に合致するメイド達。

 何処となくリアスに似ている顔立ちの彼女達に時折視線を送りながらも彼は黙り込んだままだ。



「お客様、此方をどうぞ。これが有れば貴方様の願いは叶います。もう無能だと後ろ指も指されず、責任を負うべきでない事で肩身の狭い想いもしなくて良い」


 シアバーンが差し出したのは紫の宝玉がはめ込まれた金の腕輪。

 アイザックは震える手を伸ばし、迷いを浮かべて引っ込める。





「……彼女が、リアス様が欲しいのでしょう? ああ、これは極秘の情報ですが……貴方には同じ歳の姪がお二人居ますよね? 片方、嫁ぐ予定だそうですよ、今のままでは」


「っ!」


 耳元で囁かれる言葉を聞き、アイザックは腕輪を掴み取る。





 シアバーンは声を出さずに嗤っていた。


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